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「坂本さんが? 坂本さんはもう手遅れでしょう?」


凪子はそう言って笑う。

なぜなら、坂本は既に中年太りが始まっていたからだ。

それを聞いた良輔も笑いながら言った。


「確かにな! いや、でも凪子もヤバいぞ! 最近太ったんじゃないか?」


その言葉に凪子はギクッとする。

確かに、最近凪子は体重が増えていた。

増えたと言っても2キロほどだが…。


元々スラッとして背の高い凪子は、

少し太ったくらいで体型が崩れるなんていう事はない。

まだ若いので、40前の良輔と一緒にされても困る。


それに、凪子は高校から大学までファッション誌の読者モデルをしていたほどの、美貌の持ち主だ。

白い肌に大きな瞳、そして官能的な唇はプロのモデルにも引けを取らない。


今の会社に入る際、実は大手モデル事務所からもスカウトされていた。

しかし凪子はファッションに関するモノづくりの仕事がしたかったので、

それを断って今の会社に入社した。


だから、少しお腹がたるみ始めた8歳歳上の夫に、

あれこれ言われる筋合いはないのだ。


「今の案件が少し落ち着いたら、私もジムに行く日を増やそうかしら?」

「いいねぇ、それは賛成だ! 俺は凪子にいつまでも綺麗でいて欲しいからな!」


良輔はそんな甘い言葉を妻に投げかける。

それを聞いた凪子は、


(やっぱり私の考え過ぎかも…)


と、少しホッとする。


凪子が良輔と知り合ったのは、28の時だった。

仕事で同じチームになったのがきっかけで、

その頃から、凪子は良輔の猛烈なアタックを受け始める。


当時、凪子は初めてチーフのポジションに就いた。

慣れない事だらけの中、何かと助けてくれたのが良輔だった。

そしてその仕事が無事終了してから、二人は付き合い始める。


付き合って一年も経たずに、良輔は凪子にプロポーズした。

そして二人は結婚した。


結婚する際、良輔は凪子に仕事を辞めろとは言わなかった。

それは、凪子が仕事に生きがいを見出していたからだ。


これまで凪子が関わったブランドは、

全てヒットを飛ばしている。

それは、凪子に時代の流れを読むセンスと商才が

備わっていたからだ。

まさに今の仕事は、凪子にとって天職だった。


良輔はその事をよく分かっていたので、

結婚してからも、全て凪子の好きなようにさせてくれている。


そんな良輔は、凪子にとっては理想的な夫だった。


朝食を終えた二人は、いつものように家事を分担する。

凪子は朝食の片付けを終えた後、洗濯物を干し、

その間に良輔が風呂とトイレを掃除をする。

部屋の掃除はいつもロボット掃除機に任せているので、

出掛けている間に綺麗になるだろう。


それから身支度をして、二人はマンションを出た。


二人が住んでいるマンションは、賃貸マンションだった。

いずれ分譲マンションを購入しようと決めてはいるが、

なにしろ忙し過ぎてゆっくり検討する暇がない。

もう少し仕事が落ち着いたら、真剣に考える予定でいた。


マンションは会社から二駅目の街にあり、近くて便利だ。

都心にしては緑の多い地域で、公園や街路樹も多い。

都会にいながらにして自然を感じられる。

凪子はこの街の住みやすさが気に入っていた。


部屋を出た二人は、良輔の車が停めてある地下駐車場へ向かう。

途中、同じマンションに住む老夫婦とすれ違い、にこやかに挨拶を交わす。


二人で車に乗るのは、一ヶ月ぶりだろうか?


良輔は、ゴルフや休日出勤などで一人で乗る機会も多い。

凪子も車の運転は出来るが、

この車は良輔が結婚直前に買った良輔名義の車なので、

申し訳なくて今まで一人で乗った事はない。


まだ真新しい外車のドアを開けると、凪子は指定席の助手席へ座る。

その瞬間、また小さな違和感を覚えた。

座席の背もたれの角度がいつもより倒れているように感じる。


(まさか…ね….)


昔テレビで助手席のシートの角度が変わっていた事から浮気が発覚し、

そこから殺人事件へ発展するというドラマがあったが、考え過ぎだろうか?

もしかしたらゴルフの際に、同僚や取引先の人を乗せた可能性もある。


もし凪子が今、良輔にこの事を質問したとしたら、

良輔はなんと答えるだろうか?

そこで、凪子は勇気を出してハンドルを握る良輔に聞いた。


「ねぇ…座席のシートが以前よりも倒れているけれど、誰か乗せたの?」


一瞬沈黙が流れる。嫌な沈黙だ。

その後、良輔が唾を飲み込む音がやけに大きく車内に響いた。


(黒だわ!)


その時凪子はそう確信する。

しかし、良輔はそこから体制を立て直し、

何事もなかったかのように明るい声で言った。


「ああ…それは先週のゴルフの時だな。取引先の社員さんを乗せたから…」


当たり障りのないその答えが返ってきた。

しかし凪子の疑惑は消える事はない。


「ふぅん。その人は男性?」

「もちろん! ゴルフに女性が参加する事はほとんどないからな」

「そっか…」

「おいおい…まさか俺が浮気したとでも思っているのか?」

「別に……」

「もし俺が浮気をしていたら、バレないように座席の位置は元へ戻すと思うけどな…」

「フフッ、確かにそうね…」


凪子の笑い声を聞いて、良輔はホッとした様子だった。そしてさらに饒舌になる。


「そういや、営業第三課の課長に愛人がいるってこの前噂になってたよなぁ…。

あの課長、そろそろ部長へ昇進って話が来ていたのに、社内不倫がバレて取り消しになったらしい…馬鹿だよなあ…」


良輔はそう言って笑った。


(やけに饒舌ね…絶対アヤシイ!)


凪子はそう思いながら、表向きは平静を装っていた。

まさか、結婚二年目にして夫に浮気されるとは思ってもいなかった。

凪子は複雑な思いを胸の内に秘めながら、良輔の他愛のない話に適当に相槌を打ち続けた。









マウントリベンジ

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コメント

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良輔、不覚!ってか凪子さんの勘の鋭さを甘く見過ぎ⤵️アウト👎

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