テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
4,207
絶えず終わらない刹那。
茈「 赫、! 」
俺の名前を呼ぶその声が、今でも愛おしくて仕方がない。
あの夏、あの日、彼と駆け抜けた時間を、俺は今でも忘れられない。…いや、彼が忘れさせてくれない。まるで呪いのように。
苦しくて辛くて、それでも美しかったあの刹那を、刹那の彼を、俺はこの先も忘れられずに生きていくのだと、そう呪いをかけたのは彼だ。
赫「 …、、はぁ、 」
無意味な呪いだけ残して、何がしたかったのか。読めない奴だった。
…俺はまだ、お前を待ってるよ。茈。
茈「 はッ”…はぁ”っ、 」
茈「 ッ赫、”…っ! 」
赫「 …は、茈、どした…っ? 」
赤い液体に塗れた君が、酷く青い顔で俺の家を訪ねた。
彼の言動と目の前の光景から、なんとなく彼が犯した行為は分かっていた。彼の白くて綺麗な肌には、赤色がよく映えたから。
雨の中傘もささず、びしょ濡れで走ってきた彼を、俺には放っておけない。
家に招き入れたのち、とりあえず何も聞かずに彼を風呂まで案内した。彼も、俺が何も聞かないことで、少しは安堵していたみたいだ。
彼が風呂から上がり、自室で話を聞こうと招く。
茈「 …ッゃだ、” 」
その時は、彼が拒絶した。
赫「 でも、リビングじゃ… 」
茈「 いぃの…ここにして。 」
赫「 …わかった。 」
彼が頑なだったから、仕方がないとリビングで話を聞くことにした。親が帰ってくるかもと思ったが、今はそれより茈のことだ。
風呂に入って温まったはずの彼の体は、まだ震えが止まっていなかった。
茈「 …ころしたの、 」
茈「 かぞく、…みんな、ッ…” ( 半泣 」
赫「 …うん。 」
茈「 だって、みんなぁ”…っ、 ( 泣 」
茈「 おれのこと、いじめるからぁ”…ッ” ( 泣 」
赫「 …そうか。 」
茈「 ひぐッ”…ぇ”ぐ、っ ( 泣 」
家族を殺した。中学生の心に、その事実はどれだけ刺さったんだろうか。
茈のその、華奢で小さくて綺麗な手で、命を葬ってしまった事実は、どれだけ恐ろしく思えたのだろうか。俺には分からない。
でもきっと、辛かったんだ。生涯にわたり、二度と生まれてはくれない家族という存在を、その手で消してしまったのだから。
何より怖くて辛かったのは茈だ。俺がどうこう言えはしない。当事者でもない俺が言う権利なんてどこにもない。
でもそうだな、言えるとしたら。
赫「 全部、茈が悪いわけじゃないだろ、… 」
茈「 …、! 」
赫「 …俺はお前が望むなら、 」
赫「 なんだってしてやるよ。 ( 微笑 」
茈「 ッ”ありが、とぉ”…っ ( 泣 」
赫「 もぉ~、…w ( 撫 」
俺が撫でている髪を、俺が見ているこの茈の綺麗な体を、その家族は一体どれだけ傷つけ、蝕んだのだろうか。どれだけ、酷く扱ったのだろうか。
母と父と、兄と姉。確か五人家族だったような気がする。
そんなに人が居ても、こいつはずっとひとりぼっちで戦っていた。それはきっと、俺が思うより苦しくて痛かったんだと思う。
茈「 ッねぇ、…赫、 」
赫「 ん、? 」
茈「 ぃっしょに、にげよ? 」
赫「 ……うん。 」
その日から俺達は、罪から逃れるための逃避行を始めた。
「 万引きだぁ”っ!!! 」
赫「 やっべ…走れ!! 」
茈「 うんっ…!! 」
逃避行を始めてから、茈はよく笑顔を見せてくれた。
どん底で腐りきったあの町では見たことない、純粋で、綺麗で、素朴な笑顔。どれだけ犯罪に手を染めても、茈の笑顔は穢れなかった。
何をしても無邪気に笑っているその姿が、何より愛おしかった。
茈「 は、ッはぁ”……っ! 」
赫「 ふ~…、” 」
茈「 ッふ、…はは、っ! ( 笑 」
赫「 ! 」
茈「 あ~…楽し、w 」
晴天を見上げながらそうやって呟いた茈の声は、跳ねていて爽やかで澄んだ声だった。
初めて聞いたその声に驚いて、言葉には反応が出来なかった。それぐらい綺麗で、耳に残る声だったんだろう。
俺たちのことなんて気にせずに煌めいていた太陽すら、今はもう憎たらしくも忌々しくもない、ただ綺麗な太陽だ。茈も、陽の光でいっそう輝かしく見える。
赫「 …茈、 」
茈「 んっ、? 」
赫「 …ぃや、なんでもない。 」
茈「 そっか、! 」
…本当は分かってるんだ。こんな逃避行に何も意味がないこと。
何をどうやったって、茈が両親を、兄弟を、家族を殺した事実を、揉み消すことなんて、無かったことにすることなんてできないこと。
それでもいいから、茈の笑顔が見たかった。だなんて、きっとただの言い訳でしかない。
茈「 今度はあっち、! 」
赫「 …おう! 」
今だけ、彼に全て委ねてしまってもいいかも。なんて、少し身勝手すぎるのだろうか。
それでもこの旅は、一切の束縛から逃げ出した俺たちの自由な旅なんだから、俺たちの好きなようにしたい。だから俺は茈に選択を委ねる。
茈もそれでご満悦らしい。今までにないくらい笑って、怒って、寂しがってと、豊かな表情や感情を見せてくれている。
息苦しく廃れたあの村の空気の穢れが、
今はよく分かる。
茈「 …赫は良かったの? 」
赫「 ?何が、 」
茈「 こんなこと、… 」
茈「 したくないとか、思ってない? 」
赫「 …、! 」
今は風呂代わりに、夜の川で水浴びをしていたところ。唐突にそんな質問をされた。
茈は夜になると、どうしてもネガティブになってしまう。…寂しい。苦しい。辛い。悲しい。なんて感情が少しだけ増えてしまうらしい。
今だって多分、俺をこんな無意味な逃避行に巻き込んだことへの罪悪感でこんなことを言っているんだ。俺は気にしてないんだけどな…
赫「 俺が茈に着いていきたかったんだよ。 」
茈「 …、! 」
赫「 あんなむさ苦しくて廃れた村… 」
赫「 息をしても苦しいだけだ。 」
茈「 …ッふ、はは、…っ、w 」
赫「 は、んだよ。 」
茈「 俺、赫のワードセンス、すきかも。 ( 微笑 」
赫「 、! 」
いつもより悪戯っぽく、可愛らしい笑顔でそう言った。
好き“かも”、と付属品が付いているのは気になるが、まぁ、俺の言葉で茈が笑ってくれるならいいだろう。それなら俺はいくらでも茈と話がしたい。
くだらないことで笑い合う時間に浸って、現実なんてものを捨ててしまいたい。 なんて思うなら死んでしまえと、俺は今までに何度も自分へ問いかけたものの、死というものを受け入れることは残念ながらできなかった。だからまた逃げる。
茈「 …先に行かないでね、 」
赫「 …、あぁ、勿論。 」
これは、俺が彼に縛られ続けた、
ある夏の、些細な記憶。
To Be Continued … ☀︎.°
コメント
1件
読んだよ〜〜っ!😭💕 赫と茈の、逃げ場のないのに美しい逃避行…もう最初から胸がギュッてなった。茈が震えながら「♡♡♡たの」って告白するシーン、赫が全部受け止めて「なんだってしてやるよ」って微笑むところ、良すぎて何度も反芻しちゃった…!! 夜の川辺で「好きかも」って笑う茈に俺もドキッとしたよ…これからどうなっちゃうの!?続きが気になって仕方ない〜!!🌸✨