TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
シェアするシェアする
報告する

その後、理紗子は席を立つともう一杯飲み物を買いに行った。


理紗子が椅子から降りた瞬間、健吾は慌てて視線を逸らした。

そんな健吾には全く気付く様子もなく、

理紗子はアイスコーヒーを手にしてカウンター席へ戻って来た。


そろそろ昼時が近づいて来たので、店内も徐々に人が増え始めた。

理紗子の隣にも、理紗子と同年代の女性二人組が来て座った。


二人は同じような大胆なノースリーブのワンピースを着て、

ハイブランドのバッグを持ち、どちらも香水の香りをプンプンと漂わせていた。


そのツンとするきつい香りは健吾の席まで匂う。


二人は女性特有の甘ったるい甲高い声でお喋りを始めた。

大袈裟なリアクションで、どうでもいいような中身のない話しをしている。

その話し声は健吾の席にも響いてくるのに、

隣にいたらもっと煩くて仕事に集中なんて出来ないのでは?

健吾はそう思いながら理紗子の方へ視線を向けると、

理紗子は全く気にする様子もなく集中してパソコンに向かっていた。


その時、二人の女性のうち左側にいた女性が突然健吾の方を振り向いた。

健吾の顔を見た途端女性はポッと頬を染めると、すぐに右側の女性へ何か囁いている。


(またか…….)


健吾がよく遭遇する場面だ。

次はもう一人の女が自分に視線を向けるだろう。

そう思っていると、予想通り今度は右側の女性が健吾を見つめてきた。


健吾は気づかないふりをしていたが、女性はしつこく色っぽい視線を投げかけてくる。

それでも健吾は気づかないふりを押し通し、スマホ画面に映っている相場のチャートに集中した。


(あからさまなんだよな…)


健吾が面倒臭そうに心の中で呟くと、

右側の女性はするりとハンカチを落とした。

女性は健吾に拾ってもらおうと、わざと落としたようだ。


健吾は見ないふりをしてスマホへ集中する。

意地でも見るつもりはない。

すると女性は諦めたのか、がっかりした様子で椅子から降りてハンカチを拾おうとした。


その時女性の身体が理紗子の左手にぶつかり、理紗子が持っていたカップからコーヒーが派手にこぼれた。

理紗子の履いていた真っ白なパンツがみるみる茶色に染まっていく。


「キャッ! すみません! どうしよう!」


ハンカチを拾おうとした女性は慌てて言うと、色の変わった理紗子のパンツを見ておろおろし始める。


その時、客の叫び声を聞きつけたストアマネージャーがカウンターの方から出て来た。

そして理紗子に濡れ布巾を渡しながら言った。


「やけどなどはございませんか?」

「あ、大丈夫です。アイスコーヒーなので」


理紗子がそう答えると、今度は女性がおろおろしながら言った。


「すみません、あの、私クリーニング代をお支払いしますから…」

「いえ、大丈夫ですよ。家がすぐそこなので、帰ってからすぐに洗いますから」


そう言いながら、理紗子はパソコンをリュックにしまい始めた。

帰り支度を始めた理紗子に気付いたマネージャーが、


「あっ、トレーはそのままで…」


と言うと、


「ありがとうございます。ごちそうさまでした!」


理紗子はマネージャーに向かって笑顔で言うと、もう一度女性に、


「本当に大丈夫なので気にしないで下さいね」


笑顔でそう言うと、ぺこりとお辞儀をして店の出口へ向かった。


理紗子が出口に向かって歩き始めると、健吾は、


「チッ!」


と舌打ちをしてからすぐに立ち上がる。

そしてストアマネージャーに、


「これも頼む!」


と言って自分のトレーを渡すと、足早に理紗子の後を追った。


健吾がカフェを出ると、理紗子はちょうど目の前で信号待ちをしていた。

健吾は咄嗟に理紗子に駆け寄り右腕を掴む。


「キャッ!」


いきなり腕を掴まれた理紗子は驚いて叫んだ。

そして健吾の方を振り返る。


理紗子は驚いた。

自分の腕を掴んでいるのは、ボールペンを拾ってくれたあのイケメンだったからだ。


「あのぉ…….?」

「このあと予定は?」

「はいっ?」

「1~2時間大丈夫?」

「えっ? あ、はい、いえ、コレを洗濯しないと…….」


理紗子はそう言うと、茶色く染まったパンツを指差す。


「いいから来い!」


健吾はそう言うと、理紗子の腕を掴んだままタクシーを拾った。

健吾はタクシーに理紗子を押し込み自分も乗り込む。


「銀座二丁目までお願いします」

「承知いたしました」


タクシーはすぐに走り始めた。


「えっ? 銀座? どうして?」


頭がパニックのまま、理紗子は咄嗟に聞いた。


「服をダメにしてしまったから、お詫びに知り合いがやっている店で服をプレゼントするよ」


健吾は落ち着いた声で言う。

それを聞いた理紗子は何がなんだかわからないという表情で言った。


「えっ、でもコーヒーをこぼしたのはあなたじゃないですよ…ね?」

「間接的には俺の責任…いや、あの店は俺の店なんだ。だから代わりに弁償するよ」

「でもわざわざ弁償しなくても洗えば落ちると思うし、もし落ちなくてもクリーニングに出せば大丈夫ですから…」


理紗子がそう訴えると、健吾は穏やかな表情で何も言わない。

タクシーの運転手が聞き耳を立てている中、これ以上あれこれ言うのも恥ずかしかったので、

理紗子は仕方なくそのまま黙る。


二十分ほど走ると、タクシーは銀座に着いた。

タクシーの支払いを済ませた健吾が先に下り、理紗子が降りるのを横で待つ。

理紗子が健吾の横に降り立つと、


「こっちだ」


理紗子が逃げるとでも思っているのだろうか?

健吾は理紗子の腕をしっかりと掴んだまま、知り合いの店へ向かって歩き始めた。

loading

この作品はいかがでしたか?

14

コメント

1

ユーザー

お尻フリフリでノリノリで仕事してる時から気になってしかたなかった健吾さん🤭アクシデントを逆手に利用して自分のペースに持ってく術がすごい🤩👍

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚