テラーノベル
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旧焼却炉は、ホテルの裏手でもいちばん潮風の強い場所にあった。今は使われていない煉瓦の小屋で、扉の蝶番は錆び、近づくと灰と古い油の匂いがかすかに残っている。
ゲティが懐中電灯を口にくわえ、しゃがみ込んだ。
「こういう場所は、秘密を飲み込んだふりが得意なんだ」
ダービーは鼻の前でハンカチを振りながら、「飲み込み切れてるようには見えない」と顔をしかめる。ディアビレは手袋をはめ、灰受けの引き出しへそっと手を伸ばした。
乾いた灰の中に、焼け残りの金属片がいくつか埋もれている。スコップの先で寄せていくと、ひとつだけ形の違うものが当たった。
「これ……」
取り上げると、小さな留め金だった。片側が焦げ、もう片側には装飾の溝が残っている。
ジナウタスが受け取り、親指で煤を払う。その目がすっと細くなった。
「古い契約箱の金具だ」
ディアビレは息をのんだ。以前から騒ぎの種になり、舞踏会の夜には箱ごと消えた、あの肝心の箱の一部だ。
「じゃあ、中身ごと焼かれた……?」
アネミークが不安そうに言いかける。だがダービーがすぐ首を振った。
「いや、箱そのものはここに来てる。でも中身まで一緒なら、紙の灰がもっと残る。金具だけこんなふうに出るのは不自然だ」
彼は留め金を光に透かした。
「箱だけ壊して、中身は別に移した可能性が高い」
グラツィエラが帳面を抱えて追いつき、「保管庫の出入り記録を見直します」ときっぱり言う。彼女の靴の先にも灰がついた。
ゲティはようやく懐中電灯を口から外し、にやりとする。
「ほらな。秘密は燃えたがるけど、灰になりきるほど素直じゃない」
ディアビレは灰受けの底をもう一度見つめた。なくなったと思わされたものは、まだどこかに残っている。その感触が、指先ではなく背筋に走った。
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