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白山小梅
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今回の目的を無事果たし、地元からの帰り道の車中、諒はため息を吐き出した。
「知っている間柄だからこそなのか、変に緊張したなぁ」
苦笑しながら私は相槌を打つ。
「ほんとだね。でも、みんなに私たちのことを認めてもらえて良かった」
「あぁ、本当にそうだよな。おじさんが固い表情でものすごく丁寧に話し始めた時、これはもしかして反対される流れなのかなと思って、今までにないくらいものすごく心臓がバクバクしたんだ」
「そうだったの?全然そうは見えなかったよ」
父に向き合う諒は全く動じた様子もなく、堂々としていた。
「私ね、あんな風にお父さんたちに言ってくれて、すごく嬉しかったの」
「あれはただ俺の本心を正直に話しただけだよ」
その時の諒の言葉が思い出されて、胸にこみ上げてくるものがあった。涙で目の前が霞みかけたのをごまかすために、話題を変える。
「そう言えば、おばさんから、いつお嫁さんになってくれるの、って何回も聞かれたなぁ。受け入れてもらってるのは分かったけど、なんだか変な汗、かいちゃった」
「うちの親、特に母さんは舞い上がってたもんなぁ」
呆れたように言ってから、諒は唐突に私に告げる。
「ところでさ、実は今夜、ホテルのレストランと部屋を予約してあるんだ」
全く聞かされていなかった話に私は驚く。
「レストラン?部屋?」
「プロポーズの仕切り直しをするって、言ってあっただろ?」
「それは覚えているけど、ずいぶんと急じゃない?今日は指輪を見に行くだけだと思ってたんだけど」
「ごめん。驚かせたくて黙ってたんだ。それに、瑞月とこうやって外で過ごすのって、だいぶ久しぶりだろ?それにやっぱり特別感ある日にしたいじゃないか、こういう日には」
「色々と考えてくれて、ありがとう」
諒はほっとしたように笑う。
「良かった。正直言うと、瑞月に怒られるかと思って少しびくびくしてたんだ。私の都合も聞かないで、どうして勝手に決めるんだ、ってね」
「怒るわけないでしょ」
それどころか、彼の気持ちが嬉しいばかりだ。
「それじゃあ、まずは指輪を見に行こう。その後一度部屋に戻って泊まる準備をして、それからホテルに向かおうか」
「それなら、私の部屋にも行っていい?レストランに行くんならこのカーディガンじゃない上着を羽織りたいし、ついでにもう少し服だとか、色々と持ってきたい」
「もちろんいいよ」
今の私たちが住む街に戻ると、諒は早速、宝飾店に向けて車を走らせた。そこで、これはという指輪を見つけたが、デザインに少し手を加えたいと諒が言い出した。後日受け取ることにして、店を出た後は諒のマンションに向かう。
「瑞月の荷物だけど、お前の部屋に行くんなら、俺の部屋に置いてある中から持って来るより、そっちで揃えた方が一度で終わっていいんじゃないのか」
「まぁ、それはそうだね」
「だったら、俺一人で部屋に行ってくるよ。瑞月は少し、ここで待ってて。そんなに時間はかからないから」
「え?でも……」
「ちょっと行ってくるな」
諒はさっさと車を降りて、あっという間にマンションの中に消えて行った。
それから十数分後、諒は早々と戻ってきた。
「悪い、待たせたな」
「全然。すごく早くてびっくりした」
「この格好のまま行くわけだし、荷物は当直用に準備してあるやつをそのまま持って来ただけだからな。さて、瑞月の部屋に行こうか」
数日ぶりに部屋に戻り、早速私は寝室に向かった。諒にはリビングで待っていてもらう。
私はクローゼットを開けて、小さめの旅行鞄を取り出した。今夜の分の下着と明日のための着替えを一式と、普段から準備してある出張用のお泊りセットをその中に入れる。もう一つ用意した大きめのカバンには、仕事で着用する服や普段着など、当面必要と思われる分よりも、やや多めに詰め込んだ。
準備が終わり、クローゼットを閉めようとして、収納ボックスのある引き出しにふと目が行った。
その奥にはある下着が入っている。諒と付き合い出した後にこっそりと買った、いわゆる勝負下着だ。いつか着てみようと思いながらもなかなか勇気が出ず、買ってからずっと仕舞いこんだままになっていたが、諒が「特別感ある日にしたい」と言っていたことを思い出したのだ。
こういう時こそ出番だろうかと思いながらそれを取り出し、どきどきしながら身に着けてみた。
どんな感じなのかを確かめるために全身を鏡に映し、どきりとする。淡いピンク色で可愛いデザインではあるのだが、なかなか刺激的な下着だ。普段の私なら絶対に選ばない。
諒がこれを見たら、とたちまち不安になった。喜ぶどころか、眉をひそめるかもしれない。これはだめだ、元の下着に戻そう、と思った時、ドアの向こうから諒の声がした。
「準備はできた?そろそろ出た方がいい感じなんだけど」
はっとして時計を見ると、思いのほか時間がかかってしまっていた。
「ご、ごめんなさい。今行く」
ホテルの部屋に入れば、着替える時間はきっとあるはずだ。結局下着はそのままで、私は慌ててキャミソールとワンピース、ストッキングを身に着け直した。カーディガンの代わりにボレロを羽織り、カバンを持ってドアを開ける。
「待たせてごめんなさい」
「いや、急かしてごめんな。カバン持つから貸して」
言いながら諒は私の方へ手を伸ばした。遠慮する私から取り上げるようにしてカバンを受け取った後、急にはたと動きを止めた。
「どうかした?」
訝しむ私の声に、諒は我に返ったように瞬きをし、そして微笑んだ。
「いや、改めて可愛いなと思ってさ。そのワンピース、すごく似合ってるよ」
「あ、ありがと」
どきまぎしながら礼を言う私を、諒はじっと見つめていた。その瞳には熱が宿っている。
「すぐにも抱きたいくらい、惚れ直した。だけどワンピースが皺になるといけないから、今はキスだけで我慢しとく」
諒に口づけられて、私は真っ赤になった。
それを見て彼は満足そうに笑い、私を促す。
「さ、行こうか」
「う、うん」
顔の火照りを持て余しながら、私は諒の後に続いた。