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第3話「最恐!影の子竜──そして、明日へ」
夜風が冷たく吹き込んでいた。
私は深く息を吐き、震える指で扇子を握り直した。
胸の奥で、外来人の声が響く。
──守護霊、大丈夫か。
(ええ。まだ動けるわ)
──無理すんなよ。さっきの光、相当削ったろ。
(……分かってる)
祓いの光は、私の霊力を削る力。
使えば使うほど胸の奥がじんわり痛む。
だが──
「勇者様!」
サツが駆け寄ってきた。
「また新たなシャドウが襲来してきました、
しかも竜です!」
「──っ!」
ロマが続ける。
「黒龍の邪気が濃く……あれは“シャドウドラゴン”です!」
サツが剣を構えた。
「勇者様、あれはかなり強く、どの敵とも比べ物になりません!正直勝てるかどうか……」
私は頷いた。
「……行きましょう」
王が叫ぶ。
「勇者よ、無理はするな、そなたの祓いは黒龍に届く唯一の光なのだ!」
……分かってる。でも行かなきゃ」
その瞬間──
背後の空気が、ゾクッと震えた。
(……来る!!)
私は反射的に扇子を構え、地面へ叩きつける。
「鉄壁円天結界」
白い光が円形に広がり、天蓋のような結界が展開する。
直後。
影が裂けた。
――ギャアアアアッ!
騎士たちが振り返るより早く、小さな竜の影が結界へ突っ込んできた。
黒い鱗は分厚く、体型もぽっちゃりしていた。
だが─、速い。そして“重い”。
影の子竜は本能だけで殺しに来る獣のように、結界へ何度も体当たりを繰り返した。
――ギギギギギ……!
ロマが叫ぶ。
「勇者様、 あれは“シャドウドラゴンの子供”です!」
サツが低く言った。
「誤解するな。さっきの巨影とは無関係だ」
ロマが驚く。
「えっ……? では、あれは……?」
サツは淡々と続けた。
「“シャドウドラゴン”とは、黒龍の魂
の一片から生まれた、黒龍に次ぐ最強のシャドウ」
サツは言い切った。
「強い。子供でもさっきの巨影より上」
ロマが震える声で続ける。
「感情は……怒りでも悲しみでもない……
これは“本能”です……!
黒龍の影が、生まれたまま暴れている……!」
私は息を呑んだ。
(……父シャドウとは違う……
これは黒龍の“欠片”そのもの……)
影の子竜が結界を引き裂こうとする。
バキッ!……グチャ!……!!
サツが叫ぶ。
「勇者様!! このままでは結界が破られる!!」
私は一歩前に出た。
「……結界、解除」
光が消える。
ロマが叫ぶ。
「勇者様⁉ 危険です!」
「大丈夫。あれは黒龍の影の欠片。勝たなきゃ先に進めない!」
胸の奥で外来人が言う。
──守護霊、行け。お前なら救える。
(……ええ)
影の子竜《ミニ・シャドウドラゴン》が飛びかかってくる。
私は扇子を逆手に持ち替え、その爪を“いなした”。
影の爪が空を切り、子竜の体勢が崩れる。
(今ッ!)
瞬間移動で正面に行き、ギュッ!と抱きしめた。
「よしよし、いい子だね。」
まるでペットの犬を抱きしめるようだった。
影の子竜が震え、黒い瞳が揺れた。
「サン…キュ……」
影の子竜が私の手に顔を寄せる。
「還りましょうか……」
影の子竜は光に包まれ、霧となって消えた。
外来人が静かに言う。
──守護霊はやっぱり救ってるんだよ。
その瞬間、ロマが叫んだ。
「いけない、それは罠だ!!」
「マジで!?」
振り返るより早く──
霧が再生した。
さっき消えたはずの影が形を取り戻した。
だがその瞳は、先ほどの可愛らしい雰囲気ではなく―
黒龍の邪気そのもの。
「ガオッ!」
影の子竜が大砲のように飛び込んできた。
瞬間移動の間もない。
次の瞬間。
ドンッ!
強烈な衝撃が腹部を貫いた。
傷がつき、血が微かににじむ。
(ガハッ……)
影の子竜は“救われたふり”をしていたのだ。
そして本気を出した。
影の子竜は、私の腹を貫いた勢いのまま地面を滑り、
影の尾を引きながら距離を取った。
ロマが叫ぶ。
「勇者様が怪我をした!」
次の瞬間──
影の子竜は、私の腕の影から飛び出し、
扇子の柄を正確に掴んだ。
ガッ!!
(……奪われ──)
影の子竜はそのまま扇子を口に運び、
噛み砕こうとした。
「やめて!お願い……」
すると、ロマが飛び出していった。
「影の子竜!!」
馬に飛び乗ったまま全速力で突っ込んで行った。
剣を縦横に振り回す。
「オラァァァァァ!」
全然当たらない。
(いや、あなた本当に騎士?剣さばきが下手すぎる)
私は朦朧とする意識の中でそう思った。
だが──扇子を咥えた口だけは避けきれなかった。
ポロッ……
衝撃で扇子が弾き飛ぶ。
「任せろ!」
サツが叫ぶ。
扇子は宙を舞い、予測不可な軌道で落ちていく。
その落下軌道に──
サツが滑り込んだ。
「……取った」
彼は無言で扇子をキャッチし、
そのまま私へ投げ返す。
私は片膝をつきながら、
飛んできた扇子をしっかりと受け止めた。
(……戻った……!)
影の子竜が低く唸る。
――グルルルル!
黒龍の邪気が、その小さな体から溢れ出す
ロマが剣を構え直す。
「……次は、殺しに来るぞ」
胸の奥で外来人が言う。
──守護霊。武器は戻った。
でも油断するな。黒龍は“お前の優しさ”を狙ってくる。
私は扇子を握りしめ、影の子竜を見据えた。
(……黒龍……
あなた……本気で私を試しているのね……)
影の子竜が再び地を蹴った。
――ギャアアアアッ!!
黒い影が地面を滑り、ロマの馬の足元へ潜り込む。
「──っ!?」
次の瞬間。
馬ごと持ち上げられた。
影の子竜は、小さな体からは想像できない怪力で、
馬の首を影の腕で掴み──
そのまま馬ごと振り回した。
――ブンッ!! ブンッ!! ブンッ!!
「う、うわあああああっ!!」
ロマの悲鳴が響く。
影の子竜は、まるで玩具のように馬を振り回し──
ジャイアントスイング。
地面に叩きつけた。
ドガァァァァン!!
石畳が砕け、砂煙が舞い上がる。
「っ……ぐ……!」
ロマは馬の下敷きになりながらも、
かろうじて息をしていた。
致命傷ではない。
だが──完全に戦闘不能。
サツが叫ぶ。
「ロマ!! しっかりしろ!!」
歯を食いしばる。
「……まずい。
黒龍の意思が……完全に戦闘に適応している。
“騎士の動き”を読んでいる……!」
私はふらつきながら、
馬の下敷きになった心読む騎士へ駆け寄った。
「しっかり……! 今、癒すわ……!」
震える手で彼の胸元へ手を伸ばし、
ヒーリングの光を放とうとした。
その瞬間。
影の子竜の瞳が、
“回復の光”に反応した。
ギラリ。
「──っ!!」
サツが叫ぶ。
「勇者様!! 下がれ!!
黒龍の意思は“回復”を最優先で潰す!!」
遅かった。
影の子竜が地を蹴った。
――ズドンッ!!
黒い影が地面を滑り、私の足元へ潜り込む。
(……速い……!)
次の瞬間。
影の拳が、私の腹にめり込んだ。
ドガッ!!
「──っ……!」
肺の空気が全部抜ける。
続けざまに。
――ドンッ!!
――バキィ!!
――ズガァン!!
影の拳が雨のように降り注ぐ。
一撃ごとに、
周囲の木がへし折れ、岩が粉砕され、地面が陥没する。
「やめ……っ……!」
声が出ない。
影の子竜は止まらない。
――ドドドドドドドドドッ!!!
百発。
いや、それ以上。
黒龍の意思が乗った拳は、
“殺すため”ではなく
“壊すため”の連弾だった。
最後の一撃が、私の胸に突き刺さる。
――ドンッ!!!
視界が白く弾け、身体が宙を舞った。
(……あ……)
遠くへ、遠くへ。
王城の外へ吹き飛ばされ──
森の奥の地面に叩きつけられた。
――ズガァァァァン!!
土煙が舞い上がる。
私は地面に倒れたまま、指一本動かせなかった。
扇子が、手から滑り落ちる。
カラン……。
(……扇子……握れない……)
(……外来人……聞こえる……?)
胸の奥に語りかける。
いつもなら、すぐに返ってくるはずの声。
──守護霊。
──大丈夫か。
──無理すんなよ。
そのどれもが返ってこない。
(……外来人……?
ねぇ……返事して……)
沈黙。
胸の奥が、ひどく冷たくなる。
影の子竜の足音だけが、森の奥から近づいてくる。
――ズ……ズ……ズ……
黒龍の邪気が、空気を焼くように満ちていく。
(……外来人……どうして……返事しないの……?)
胸の奥が、まるで“空洞”になったように痛む。
影の子竜が木々を押しのけて姿を現した。
その瞳は、完全に“黒龍の意思”だった。
ギラリ。
「……っ……!」
私は立ち上がろうとした。
だが──膝が崩れた。
扇子を握る力もない。
祓いも出せない。
逃げることもできない。
そして何より──
外来人の声が聞こえない。
(……外来人……お願い……
あなたの声がないと……私……戦えない……)
影の子竜が、ゆっくりと爪を振り上げた。
黒い影が、私の視界を覆う。
(……外来人……助けて……)
──その瞬間
空気が凍りついた。
影の子竜の爪が、まるでダイヤにぶつかったように止まり、そして折れ曲がった。
「爪攻撃なんて詰めが甘い。爪だけにね」
カキン!
影の子竜が警戒して後退する。
そして──
「守護霊お前何弱気になってんだよ!」
その声が、私の耳に飛び込んできた。
(……え……?)
ゆっくりと顔を上げる。
そこに立っていたのは──
外来人だった。
「なんだ? 辰にやられて立つ理由がないのか。
辰だけに」
(……こんな時に……何言ってるのよ……)
私は震える声で問いかけた。
「……外来人……
あなた……来れないはずだったのに……
どうして……ここに……?」
外来人は一瞬だけ黙った。
いつもの軽さが消え、ほんの少しだけ真面目な顔になる。
「……来れなかったよ。
本当は、絶対に来れないはずだった。」
影の子竜が低く唸る。
外来人はそれを片手で制しながら、ゆっくりと続けた。
「でもさ──」
その瞬間、
私の胸の奥に“外来人の記憶”が流れ込んできた。
――守護霊がやられる直前。
外来人は、夜の渋谷のビル屋上に立っていた。
目の前には、空間にぽっかりと開いた“黒龍の眼の狭間”。
黒い裂け目が、世界の境界を食い破るように揺れている。
外来人は拳を握りしめた。
「……行くぞ……!」
狭間へ飛び込もうとした。
だが──
――バチィィィィン!!
やはり見えない壁に弾かれ、地面に転がる。
「ぐっ……! なんだよこれ……!」
もう一度、全力で飛び込む。
――バチィィィィン!!
また弾かれる。
「クソッ……!
なんでだよ……!
守護霊が向こうにいるのに……!」
外来人は何度も、何度も、何度も狭間に飛び込もうとした。
そのたびに境界の壁が彼を弾き返す。
「……行かせろよ……
なんで……行けないんだよ……!」
膝をつき、拳を握りしめたそのとき──
胸の奥に、かすかな声が届いた。
(……外来人……
助けて……)
守護霊の声。
弱くて、震えていて、今にも消えそうな声。
外来人はゆっくりと立ち上がった。
「……覚悟、決めるか。」
深呼吸し、狭間を見据える。
「数秒だけなら……境界を越えられるかもしれない。」
自分の胸に手を当てる。
「でもその代わり──
しばらく幽体離脱もできなくなるし、
守護霊とも話せなくなる。」
外来人は笑った。
「……そんなの、どうでもいいよ。」
狭間が揺れる。
外来人は一歩踏み出した。
「お前が“助けて”って言ったんだ。
行かない理由なんて、どこにもない。」
そして──
外来人は、光となって狭間へ飛び込んだ。
そして私の前で笑った。
「……ってわけ。
数秒だけなら来れるんだよ。」
私は震える声で言った。
「……でも……
その代わり……あなた……」
外来人は肩をすくめた。
「しばらく幽体離脱もできないし、
お前とも話せなくなる。
まぁ、そういうデメリットはあるけど──」
外来人は私の頭を軽く小突いた。
「お前が“助けて”なんて言ったら、
そりゃ来るしかないだろ。」
胸が熱くなる。
涙がこぼれそうになる。
(……外来人……
あなたって……)
「俺は今まで、ずっと守ってもらってきた。
でも、今度は俺が助ける。」
その言葉が胸に染みた。
だが──
影の子竜の喉が、低く、重く、震え始めた。
――ゴ……ゴゴゴゴゴ……
(……この気配……!)
外来人が眉をひそめる。
「おいおい……なんだよ、あれ……?」
影の子竜の胸の中心に、黒龍の“眼”の紋様が浮かび上がる。
ギラリ。
サツが叫ぶ。
「まずい!あれは……影竜の「極小影破滅砲《ミニ・シャドウバズーカー》」!!
さっきの拳の比じゃない」
ロマが青ざめる。
「勇者様!!
あれは……城壁を丸ごと吹き飛ばす威力です!!」
影の子竜の口が開く。
黒い霧が渦を巻き、空気が震え、地面の影が吸い込まれるように集まっていく。
外来人は守護霊の前に立った。
「お前ら、下がっとけ。
これ、ちょっと危ないから。」
サツが叫ぶ。
「危ないどころではない!!
あれは……王国最強の結界でも防げない──!」
影の子竜が吠えた。
――ギャアアアアアアアアアッ!!!
次の瞬間。
黒い閃光が放たれた。
空気が裂け、森が揺れ、地面が抉れる。
破滅砲は、さっきの拳の“数十倍”の威力。
そして──
外来人に直撃した。
黒い光が外来人を完全に包み込む。
私は叫んだ。
「外来人!!」
私は叫んだ。
胸が締めつけられ、息が止まる。
外来人の悲鳴が響く。
「ぐっ……あああああッ!!」
黒い霧がゆっくりと晴れていく。
(……外来人……お願い……無事でいて……)
光が完全に消えた。
そこに──
外来人は、ほぼ無傷で立っていた。
肩で息をしながら、軽く腕を振る。
「……痛って……熱っち……でも──」
外来人は顔を上げ、笑った。
「問題ない」
その姿は、まるで“光の中から歩み出た守護者”のようだった。
いつも私が守ってきたはずの人が、
今は──私を守るために立っている。
胸が強く震えた。
ロマが絶句する。
「な……な……!?
直撃を……受けて……無傷……!?」
サツが目を見開く。
「……あれは……魂の耐久では説明できない……何者だ……?」
ロマは震えながら言った。
「心が……読めない……!
いや……“深すぎて”読めない……!
底が……ない……!」
私は息を呑み、外来人を見つめた。
「……そうだ……
外来人は……私がこの世界に来る前……
まだ赤ん坊だった頃……
偶然、私の加護を受けた……」
ロマが振り返る。
「えっ……!?
勇者様の……加護……?」
サツが低く呟く。
「……つまり……
“勇者の加護を受けた人間”……?」
ロマが震える声で続ける。
「だから……心が読めない……!
勇者様の加護は“心の領域”にも影響する……!」
外来人は私の視線に気づき、にかっと笑った。
「そういや昔、言ってたよな。
“お前は妙に頑丈だ”って。」
私は小さく頷いた。
「……あなたは……
普通の人間じゃない……
私の加護を“最初に受けた人間”……
だから……魂が……強いの……」
外来人は肩をすくめた。
「そりゃそうだろ。
守護霊が“最強”なんだからさ。」
その軽口の奥に、
戦う覚悟の静けさが宿る。
「それに――敗北とは、やられた時や差をつけられた時ではない。
“敗北を認めた時”だ。
敗北は終わりなんかではない「次の始まり」だから。諦めなければどんな相手にも勝てる」
「外来人……!」
外来人は何かを思いついた。
「あ、ロマだっけ?ちょっとその剣を貸してください」
ロマは目を見開く。
「でも……」
「早く!」
「……分かりました。どうぞお使いください」
そして影の子竜を見据え、
ゆっくりと構えを取った。
外来人の声は、いつもの軽さが完全に消えていた。
「……来いよ。」
本気の外来人が、そこにいた。
その構えは──
素人のそれではなかった。
ロマが息を呑む。
「な……なんだこの構え……
素人では……ない……!」
サツが震える声で言う。
「違う……!
“素人”でも“剣士”でもない……
あれは……“境界の外の構え”……!」
外来人は剣を肩に担ぎ、影の子竜を指差した。
「おい、影の子竜。
百発パンチの借り──返すぞ。」
影の子竜が地を蹴る。
――ズドンッ!!
黒い影が一直線に外来人へ突っ込む。
外来人は、ほんのわずかに息を吸った。
「八重垣」
その瞬間──
空気が変わった。
風が止まり、音が消え、
世界が一瞬だけ“静止”したように感じた。
外来人の周囲に、八重の光壁が展開する。
――バンッ!!
影の爪が光壁に弾かれ、霧のように散った。
ロマが叫ぶ。
「な……なんだあれは!?
結界……? いや……違う……!」
サツが低く言う。
「……八重垣……
八重に重なる“魂の防壁”……
あれは……守護霊の加護を受けた者だけが使える……
“魂の技”だ……!」
外来人は剣を肩に担ぎ直し、影の子竜を見据えた。
「違うよ。これは俺の世界にある武術の一つ。
“居合”の技の一種さ、邪を払うって言われてるよ」
影の子竜が吠える。
―ガアアアア!!
黒龍の邪気が渦を巻き、影が波のように揺れる。
外来人は剣を軽く振り、影の子竜を指差した。
「さて、あとは弱ったこいつを守護霊の扇子で──」
その時だった。
影の子竜が、最後の力を振り絞り──
空へと翼をはためかせた。
――バサァッ!!
黒い霧が渦を巻き、影の子竜の身体がふわりと浮き上がる。
外来人が目を見開く。
「うっ……!
俺ももう動けん……!」
魂の光が揺らぎ、外来人の足が崩れそうになる。
(……外来人……!
限界が……!)
外来人は守護霊に叫んだ。
「守護霊、影渡りできるか?」
「私も無理……!
祓いで限界……!」
影の子竜は空へ逃げるように上昇し、
黒い霧の尾を引きながら遠ざかっていく。
無口な騎士が歯を食いしばる。
「……黒龍の意思が……
このままでは……!」
心を読む騎士が震える声で言う。
「影竜の心が……“復讐”で満ちている……!
戻ってくる……必ず……!」
影竜の瞳に、確かな“憎悪”が宿った。
あれはただの撤退じゃない。
次は必ず“殺しに来る”。
外来人は剣を地面に突き立て、膝をつきながら呟いた。
「……くそ……
あと一歩だったのに……」
私は外来人に駆け寄り、その肩を支えた。
「外来人……!
あなた……!」
外来人は弱々しく笑った。
「大丈夫。
タイムリミットが来ただけだ」
その瞬間──
外来人の魂が、ゆっくりと薄れ始めた。
輪郭が揺れ、光が細くなり、
風に溶けるように淡くなっていく。
「外来人……!?
ちょっと……待って……!」
外来人は私の手をそっと押し返した。
「守護霊、ごめん。
もうこの世界にはいられない。
地球に帰る。」
胸が締めつけられる。
(……いや……いやだ……
まだ……話したい……
まだ……一緒に……)
外来人は笑った。
いつもの、あの軽い笑顔で。
……でも、その目だけは笑っていなかった。
「心配すんなよ。
死ぬわけじゃない。
ただ……しばらくは交信できないだけだ。」
「そんな……そんなの……!」
外来人の光がさらに薄くなる。
「守護霊。最後に言っておく、
勇者とは、戦いが強い者ではなく敵味方関係なく救う優しさがある人のことだ。
お前はその素質がある……真の最強の勇者だ!
ま、俺は勇者ではないけどな」
「……外来人……!」
外来人は最後に、私の掌にそっと手をのせた。
「黒龍を……救え……
俺も……いけ…たら……」
光が弾ける。
――パァァァァァッ……
外来人の魂は、風に溶けるように消えていった。
私はその場に崩れ落ちた。
「あなた……
本当に……帰っちゃった……」
……嘘でしょ。
ねぇ、嘘だって言ってよ……
サツが静かに言う。
「勇者様……
あの者は……」
私は涙をこらえながら答えた。
「……私の……
大切な……仲間よ。」
風が吹き抜ける。
守護霊の目に、ぽたりと涙が落ちた。
「私……外来人の守護霊なのに……
全然守れなかった……」
影竜の子が逃げた空の向こうで、
黒龍の気配が微かに揺れた。
私は扇子を握りしめた。
掌には、お守りが残っていた。
「必勝祈願」
外来人が帰る前に最後に渡してくれたもの。
(……そうか。
外来人は……私のことを信じてくれているんだ。
こんな私のことを……)
「私、もっと強くなる……
強くなって黒龍を倒して……
必ず、地球に帰って……
また会いたい……」
声が震える。
胸が痛い。
でも──言わなきゃいけない。
「“いけたら行く”は……
絶対来ない……」
だから。
だから私は──
「私が行く。
二つの世界を救って……
あなたの世界に。
あなたのところに……帰る!」
風が止まった。
森が静まり返った。
私の決意だけが、世界に響いた。
そして、光が私を照らした。
それは──
絶望の夜を、希望へと変えてくれるような。
強くて、優しい光だった。
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#ハッピーエンド
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