大学の北棟に辿り着き、エレベーターに乗って四階まで一緒に行く。
この棟は俺の学部とは無関係な建物なのでほとんど来る機会が無い。なので、天井からぶら下がっていたりしている看板は知らん名称がほとんどだ。琉成はロボット工学科に入った為それらに関連しているものばかりで、生粋の文系畑な俺には学部名などを読んでも何をしているの科なのかあまり想像が出来なかった。
「暗記科目ばっか得意なクセに、んな分野に進むとはなぁ」
「まぁ……パソコン組んだりするのも好きだし、子供の頃から製作キット買ってきて簡単なロボットを作ったりもしてたしね。手にあるこの火傷の跡なんかはハンダゴテのせいだし。今はプログラムも組めるし、いずれはアンドロイド分野の勉強とかもしていきたいなぁ。理数系は公式を覚えるまでは簡単に出来るんだけど、それを活用しての計算でよく躓くから、もっとしっかり基礎をやっておけばよかったなって今更後悔してるよ」
キラキラと瞳を輝かせながら琉成が熱く語っている。高校時代には見られなかった一面だ。
(いつもデカイ図体のくせして子犬みたいに笑って俺の傍を離れなかった琉成が、今は俺の知らない顔をして、俺とは無関係な分野に進もうとしてんのか。んな親友を応援したい気持ちはもちろんあるが……なんだかちょっと寂しいな)
そのせいか俺は視線を合わせる事なく、「そうか、よかったな」と短く言う。何がいいのかよくわからんが、そうテキトーにそう答えてしまった。
案内されるまま長い廊下を進んで行くと、段々人通りが少なくなっていき、この辺にはもう誰も居ない。休憩時間が終わって次の授業が始まったせいもあるだろう。しっかし、こんな場所に用事とは一体なんなんだろうか?
「ねぇねぇ。校内の監視カメラって、どのくらいの台数あるか知ってる?」
室内の暗い講義室の前に立ち止まり、扉を開けて琉成が先に中に入る。俺が無言のまま廊下に立ったままでいると、「圭吾も入って」と促され、仕方なく俺も室内に入って行った。三階と四階をぶち抜いて作った構造の広い室内には誰もおらず、少し薄暗くってシーンと静まりかえっている。
(忘れ物でもしたんだろうか?)
そう思いながら近くの机に荷物を置いて振り返ると、「ウチの学校の場合は百三箇所で、人通りが多い廊下や、貴重品・危険物を取り扱っている教室、研究室とかを優先的に設置してあるから、こういった講義室なんかにはまだカメラが無いんだよねぇ」と言いながら、琉成が扉の鍵をガチャンッと閉めた。
「トイレは適切な場所にのみ設置されているせいか割と人の出入りがどこもそれなりの頻度であるし、更衣室も然りだ。カメラの設置箇所を正確に覚えてはいるけど、残念ながら死角が少ないのは、どれもドラレコみたいに全方位を録画出来るタイプなせいだね」
琉成も持っていた鞄を近くの机に置くと、じわりじわりと俺の方へ近づいて来た。
「だけど、此処みたいに下と上の階からのどちらからも入れるタイプの講義室って、鍵の掛け忘れとかがたまーにあってさ。でも持ち出し可能な貴重品が特に無いせいか、再確認に来るなどのチェックが無く管理が甘い」
床に固定されている机のせいで逃げ場を失っている俺の前に琉成が立ち、「そうなると、だ」と言いながら机の天板に手をつき、俺の周囲を囲んだ。
「……おい、琉成。さっきから何の話をしてんだ?」
「圭吾を大学の校内で美味しく頂くのは、意外にも講義室が一番現実的で安全な場所でしたって話だよ」
「——はぁ⁉︎」
当然の様にデカイ声をあげると、「流石にそれはダメ!」と言って、琉成に手で口を塞がれた。
「大声出したら、中に人が居るってバレるかもだから」
「いやいや、此処だってそのうち人が集まってくんだろうが。午後から授業があるだろ?」
「それがねぇ、偶然にもこの部屋は講義で使うモニターが今不調でね。点検整備に出てるから数日間は使用予定無いんだわ」
「……おい、何で知ってんだ?」
「まぁ……ちょっと調べれば、ねえ」
(まさかハッキングってやつじゃねぇだろうな……さっき、プログラムがどうこう言ってたけど)
「ちなみに、“プログラムが組める”イコールで“ハッキングが出来る”訳じゃ無いよ。必要な知識やスキルがちょっと違うからさ。プログラムの欠陥や穴を探さないといけないから、ハッキングが出来る人は当然プログラムも組めるけどね。俺がどっちかは……まぁ圭吾にとってはどうでもいい話しか」
「俺の考えまで読めんのかよ!」
「いや、流石に無理。でもコレは、『美味しそうだなぁ』って、ずっと観察してきたおかげ的な?でもぉ……圭吾がどうされたら気持ちいいのかは、ちゃーんと的確に読み解けるよ」
そう言って、琉成が人の股間に脚を擦り付けてくる。
高校の時に奴が『毎日スル』と言っていたアレはガチで有言実行されていて、悲しいかな年中無休の状態だ。こっちが受験勉強でヒーヒー言っていた間ですら、奴はバイトの後にちょっと俺の部屋に立ち寄っては人の口を塞ぎながら色々とやらかしやがった。……親が下の階に居るってのにだ。
俺は性欲が同年代の奴らよりも無いはずだとはいえ、敏感な箇所に触れられればどうしたって勃つわけで、ついついその場の雰囲気に流されてしまう。
——それは、今のこの状況ですら言える事だった。
「憧れなかった?大学の校内で、とかさ」
「んなワケあるか!AVやエロゲじゃあるまいし」
「俺はある!美味しいモノは美味しいシチュエーションで喰べたいと思うのは、本能だと思うんだけどなぁ」
俺の首元に顔を寄せて、クンクンと匂いを嗅ぐ。その場で深呼吸までしやがって、慌てて琉成の胸を押したがビクともしなかった。
「……今日の分、まだ喰べてないからもらってもいい?」
「ずっと思ってんだけど、コレ……何で義務化されてんだ?」
「んー……美味しいから、かな」
首を傾げ、不思議そうな顔をしながら言われ、胸の奥がぐずんっと痛んだ。
(美味しけりゃ何でもいいのか?)
ガチで俺の痩せた肉や骨に食らい付き、血を啜るなんてカニバリズムじゃないだろうなと怯えた日もあったが、その方がマシだったかもと思う日がまさか来るとは思わなかった。
(もっと美味しいモノを見付けたらあっさりとそっちに行って、今みたいに執着心丸出しに追い回すんだろうな、お前は)
そうは思うも、細い首を何度も啄まれ、肌をベロンと舐められるとどうしたって体が反応してしまう。悔しいが琉成の言う通り、いつもだったら真面目に勉強しているはずの空間で卑猥な雰囲気になっているせいもあるだろう。
俺のモノを穿いているズボン越しに手の甲で擦り上げ、「あはは、勃ってきたね」と嬉しそうに琉成が小声で言った。 こうなってはもう、一度出さんことには逃げる事も出来ない。いっつもいっつも必ず最後はコイツの思い通りになってしまうのが悔しくってならないが、頭の隅には、求められる事で得られる優越感を抱く自分がいるのも確かだった。
「……はい、口開けようか」
ゴソゴソとポケットの中からプラスチック製の透明な保存パックに入ったタオルを取り出し、「へ?」と間抜け声をあげた俺の口へそのタオルを突っ込んできた。
「——んぐっ!」
奥まで押し込まれ、コレすら慣れた事ではあってもつい顰めっ面になってしまう。キスも無く、のっけから口を塞がれるのは何度経験しても気分の良いもんじゃない。
(……よくよく思い返してみれば、コイツとキスなんて、最初の一回っきりじゃねぇか?)
実家じゃ声を出せないという問題があったからか、口にタオルという行為はすっかり定番になってしまっている。今は家を出て四人でルームシェアをしているが、部屋の防音は完璧らしいのだが、それでもコレは慣習となったみたいに継続されたままだ。
(そういや毎度毎度違うタオルを口に突っ込まれている気がするんだが、今までのタオルは何処へ消えてんだ?)
人がそんな事に対して不思議に思っている隙に、俺の着ている服のボタンを全て外し、前をはだけさせていく。地色が白いからか、興奮のせいで肌が赤くなるとやけに目立って恥ずかしい。
「何度見ても綺麗だなぁ」
うっとりとした声でそう零し、「んあぁー」と言いながら大きな口を開けて俺の乳首に琉成が噛み付いてきた。甘噛みではあるが、敏感か箇所なせいで腰が跳ね、「うぐっ」とくぐもった声をあげてしまう。タオルを咥えていなかったら、きっと大声で嬌声を出してしまっていたかもしれない。
ちゅうちゅうと吸い付き、噛んで、舐めてとをしつこく繰り返す。飴でも舐めるみたいに丹念に、入念に味わい、その間もずっと人の股間をゆるゆると撫でてくる辺り、卑怯だと思う。
「美味しいね、このまま沢山吸ったら乳とか出てきそうだ」
(ありえん妄想をすんな!そんなに飲みたきゃ、彼女でも作ればいいだろう⁉︎)
今の琉成ならば、五人だろうが十人だろうが捕まえられそうだ。顔の良さをフル活用して、天然系の仮面を被りながら言葉巧みに誘い込み、今みたいに執拗に攻めれば、本性は親友的な男を喰う様な変態だろうが許されてしまうだろうよ。
「ふ、ふぐっ、んー!」
口に含まれてはいない乳首まで、その尖りを楽しむみたいにこねくり回し、ピンッと弾いてくる。そのたびに俺の体が微かに跳ね、汗が滲み出ていく姿をじっと観察してくる瞳がとても熱を持っていて、琉成が心底この状況を楽しんでいる事が窺い知れた。
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