(___んっっ? 何時? もう朝なの?)
桐谷杏樹(きりたにあんじゅ)は気怠げなままぼんやりと目を開ける。
するとそこには見覚えのない景色が広がっていた。
(あれ? ここ私の部屋じゃない……)
慌てて顔を上げた瞬間 ズキン と頭痛がした。
(二日酔いだわ…飲み過ぎちゃったかも…)
そう思いながらゴロンと寝がえりを打つと隣には知らない男が横たわっていた。
「ひぃっ!!!」
杏樹は思わずのけぞる。しかし男は起きる様子もなくスヤスヤと寝息を立てている。
その時杏樹の脳裏には昨夜の出来事が断片的に蘇ってきた。
『それは酷い男だな』
『自分にはブランド物をポンポン買うくせに私の誕生日にはノーブランドのケチ男なの』
『なんか振られる前からの鬱憤が相当溜まっているみたいだな。この際全部吐き出してスッキリしたら?』
『じゃあ遠慮なく。えっと…最近は食事に行ってもファミレスとかラーメン屋ばっかりだったし』
『大手の金融系に勤めてるのにデートでファミレスか…そんな男と付き合ってて楽しかったのか?』
『うーん、改めて考えてみたら楽しくなかったかも……』
『だろうな。付き合ってまだ1年ちょっとなんだろう? それにいくら社内恋愛だったとしてもそれはないよなぁ』
『ですよね』
『で、身体の相性はどうだったんだ?』
『……ズバリ聞きますねぇ』
『男女の関係でそこは重要だからな。どんなクズ男でもそこがちゃんとしてれば女は満足するものだ』
『そうなのかなぁ? 相性は…うーん合っていなかったかも?』
『満足していなかったんだな』
『多分』
『やっぱりな、思っていた通りだ』
『なんでわかったんですか?』
『ハハッ、見ていればわかるよ。結局はそこが満たされていなかったから君はあっさりと別れを受け入れた。違うか?』
『違います。恋愛ってそれだけじゃないと思いますし』
『いや、基本それが全てさ』
『随分自信をお持ちなんですね』
『もちろん。俺は君よりも経験が豊富だからな。それに俺だったらどんな女でも満足させられる自信はあるよ』
『凄い自信過剰ですねー。でも口ではなんとでも言えますからね』
『じゃあ試してみる?』
普段はそんな挑発には乗らない杏樹だったがその時はつい乗ってしまった。
おそらく突然振られて自暴自棄になっていたのだろう。
その後二人でホテルへ行ったところまでははっきりと覚えている。しかしその後は断片的な記憶しか思い出せない。
鼻腔をくすぐる爽快感のある香り。ウッディアロマベースの柔らかな香りは男性用オードゥ・トワレ? とても品のある香りだった。
心地良い香りに誘われるように杏樹は何のためらいもなく男が広げる腕の中へ飛び込んだ。
それはまるであでやかな花から発せられる甘い香りに抗えずに一羽の蝶が惹き込まれて行くような…そんな光景だった。
長身でスタイリッシュな男の腕に抱き締められると思っていた以上に男の身体が筋肉質である事に気付く。
普段から鍛え上げている身体だ。
付き合い始めてから徐々にたるんでいった恋人の正輝の身体とは全く違う。杏樹は抱き締められた瞬間思わずゾクゾクっとした。
ベッドへ移動すると杏樹は男の指と唇に翻弄されていく。
その巧みな愛撫は杏樹が今まで経験した事がないほど素晴らしいものだった。
自分はこんなにも感度が良く声を出す女だったのかと驚きを隠せないでいた。
そして一晩中声を上げ続けた結果声はすっかり枯れ果てていた。
男の巧みなテクニックにより何度も何度も果てた杏樹は一体自分が何度達したのかも覚えていない。
それほど酒に酔ってフワフワしたまま見知らぬイケメンに抱かれる事は想像を絶するほどの素晴らしい快感を杏樹にもたらした。杏樹は一夜にして今までに得た事のない快楽を経験した。
その時男がゆっくりと寝返りを打った。起きたかと思い一瞬ヒヤッとしたがまだ熟睡しているようだ。
(帰らなくちゃ! とにかくここを出なくちゃ!)
一気に現実に引き戻された杏樹はそーっとベッドから降りると落ちていた服を拾って素早く身に着ける。
そして後ろを振り向きもう一度男の寝顔を見つめた。
男はどこからどう見ても非の打ちどころのないイケメンだった。
鼻筋の通った彫りの深い顔立ち、吸い込まれるような美しい瞳は今は閉じているが長いまつ毛と目元にかかる前髪がなんともセクシーだ。
少し開いた口元を見て杏樹はドキッとする。昨夜あの唇が自分の身体中を這い回ったのかと思うと身体の芯が熱くなる。
この無防備な寝顔で彼は一体どれだけの女達を虜にしてきたのだろうか?
いつまでも眺めていたいような美しい寝顔から顔を背けるとソファーの上にあるバッグを手にする。
そして足音を立てないようにドアまで行くと杏樹は部屋を後にした。
(きっと酷い顔をしているわ)
鏡も見ずに部屋を出たので杏樹は自分の顔や髪が気になる。
昨夜男から受けた熱烈なキスと汗で化粧はほとんど落ちているだろう。
幸い時刻はまだ早朝の5時前だったのでエレベーターでは誰にも会わずに済んだ。
ロビーにも人の気配はなかったので杏樹は足早にフロントの前を通り過ぎ出口へ向かった。
ホテルを出て振り返るとそのホテルが都内でも屈指の一流ホテルだという事に気付く。
(ゆきずりのワンナイトにこんな高級ホテルを?)
杏樹は地下鉄の階段を下りながら驚く。
改札を抜けると電車の音が聞こえたので杏樹は慌ててホームまで走ると滑り込んで来た電車に飛び乗った。
コメント
9件
ワンナイトな割に濃厚な夜🤭身体の相性はばっちり😂💛 これから再会するのでしょうか?ドキドキ💗
瑠璃マリさまー♡ 大変お騒がせ致しました! 私も無事読めました<(*_ _)>
朝起きて ビックリ.👀‼️の、 知らない男性とのl行きずりワンナイト🏨♥️ でも思っていることを全部吐き出し、元カレ正樹にフラレた鬱憤も晴らせたし👊😠 高級ホテルでイケメンに愛され、 しかも上手かったし....( *´艸`)♡. いろんな意味でスッキリしたね~♪😌 さて 行きずりワンナイトの男性とは いつ どんな風に再会するのか、ワクワクです😆🎶