TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
シェアするシェアする
報告する

「俺、言ったんです。そもそも、どんなに優しい人でも、ただの部下と一緒に暮らそうとは思わないし、本当にただの部下だと思ってるなら、どんなに誘われても触ったりしないって。椿ちゃんが話す是枝さんが俺の感じた通りの人なら、ヤリたい一心で好きだなんて言わないだろうって。だけど、椿ちゃんは全然信じてくれなくて……」

急にシュンとして、倫太朗が俯く。

頭に、垂れた耳が見えるようだ。

自分のことのように必死になって、落ち込む姿が可愛いとすら思う。

心から、椿を想っているのだろう。

「会ったこともないきみにわかって、どうして彼女には伝わらないかな」

「基本、椿ちゃんは信じたいことほど信じません。その理由は……俺からは言えないけれど、信じて裏切られるのを怖がっていて」

「きみのことは信じているんだろう?」

「それは……。俺は弟のようなものだし――」

「――弟だと思っているなら、セックスはしないんじゃないか?」

「えっ!?」

残念だがアタリ。

明らかに動揺した倫太朗は、今にも泣きそうだ。

子供ガキの頃に一度だけ……です。俺は経験がなくて興味があって、椿に頼んで一度だけ。けど! どんなに好きでも、椿への感情は幼馴染とか姉弟のものでしかないってわかって、本当にその一度だけです! だから、その、今はホントに、そうゆうのは一切なくて――」

「――別に怒ってるわけじゃない」

必死に言い訳をする倫太朗を見ていると、俺がイジメている感が半端なくて言った。

「きみと椿の関係をどうこう言える立場にはないし、過去を責めてもどうしようもないことがわかる程度には、俺にも過去はある」

彼女のハジメテの相手に嫉妬しただけだとは、言いたくなかった。

「是枝さんは、椿ちゃんのこと好きですか?」

「ああ」

「えっ!?」

聞かれたから答えたら、目を丸くされた。

「あ、すいません。即答されるとは思わなかったので」

「きみの言う通りだ。好きでもない女と一緒に暮らそうとは思わないし、セクハラで訴えられるリスクを冒してまで触れたりしない。それ以前に、俺は昨夜、はっきりと自分の気持ちを伝えたんだがな」

「夢だとでも思ってるんじゃないですかね。椿ちゃん、キャパオーバーになると現実逃避癖があるんで」

「なんだ、それは。それじゃあ、俺が何をしても信じてもらえないってことか」

ははっと倫太朗が笑った。

ミネラルウォーターを飲み干し、立ち上がる。

「是枝さん。酔っている椿ちゃんの思考回路は真っ直ぐ一本です。嘘をついたり誤魔化したりが出来ない。そして、割と記憶が残っています」

そう言うと、ジャケットのポケットから名刺を取り出して差し出した。

俺はそれを受け取る。

「株式会社朱月しゅげつ堂、広報部イメージモデル……」

聞いたことがあるはずだ。

朱月あかつきとは、朱月しゅげつ堂の創業者一族だ。

美容化粧品やサプリメントの開発、エステサロンの経営、最近では自然食品の開発なんかも始めたと新聞か雑誌で見た。

倫太朗をどこかで見たことがあると思ったのは、CMやネット広告、電車の吊り広告だったのだろう。

「あ、ペンありますか」

「え?」

「あ、いいや。是枝さんの番号教えてもらえませんか?」と言って、スマホを取り出す。

俺は自分の番号を言い、彼はそれを入力した。

リビングのテーブルの上で、俺のスマホが鳴り、すぐに止まった。

「俺の番号、登録お願いします。椿ちゃんのことで何かあったら連絡ください。家族がいない椿ちゃんには、俺が唯一の家族なので。事故や病気は当然ですけど、椿ちゃんの扱いに困ったりしても。結婚するとか妊娠したとか、そういうおめでたいニュースも待ってますから」


結婚……。


ずっと考えもしなかった二文字だが、最近はやたら耳にする。

「是枝さん。椿ちゃんが言ってました。『部長が毎日残業して一生懸命作った資料なのに、チョコレートで汚して捨てるなんて許せなかった』って」

「チョコ……。ああ……」

椿と最初に話した時だ。

あれからまだ三カ月も経っていないのに、随分と昔のことのように感じる。

「椿ちゃんが自分から声をかけたり、手伝いを申し出たりするなんて珍しいって思ったんです。で、理由を聞いたらそう言ってました。

よっぽどムカついたんでしょうね。じゃ、夜遅くにお邪魔しました」

丁寧にお辞儀をして、倫太朗は帰って行った。

シンッと静まり返る空間。

俺はシャワーを浴び、リビングの照明を消して、寝室に、椿の元に向かった。

彼女はベッドの端で丸くなっていた。

「椿……」

俺はベッドに腰かけ、彼女の頬に触れた。

「椿」

瞼が震え、唇がキュッと結ばれる。それから、ゆっくりと瞼が開いた。

「ひょ……さ……」

アルコールのせいだろう。

声が掠れている。

「好きだよ、椿」

昨夜は信じてもらえなかった言葉を口にする。

「好きだ」

頬を撫でると、彼女は猫のように気持ち良さそうに目を細めた。

「私も好き……」

期待していたが、まさかもらえないだろうと思っていた言葉に、鼓動が早まる。

「ほんと……に?」

今度は、俺の声が掠れた。

彼女に触れる手が熱を帯びる。

「うん。大好き」

酔っ払いの言葉を信じていいのだろうか。

『酔っている椿ちゃんの思考回路は真っ直ぐ一本です。嘘をついたり誤魔化したりが出来ない』

ついさっき聞いた、倫太朗の言葉を思い出す。

「俺に触られるの、嫌じゃないか?」

椿の手が、俺の手に重なる。

「もっと触れてほし……」

酔っ払いの言葉を信じていいのだろうか。

『是枝は、あれこれ考えるより、ヤルことヤッてデキ婚とかの方がいいのかもな』

溝口部長の言葉が頭をよぎる。

デキ婚はともかく、今、猛烈に椿に触れたい。

「抱いていい?」

椿の碧い瞳が俺に向く。

「痛くてもやめてあげられないけど、抱いていい?」

椿の唇がゆっくり開く。

「抱いてほしい」

明日、いや、もう今日か。

目覚めた時、椿はこの会話を覚えているだろうか。

覚えていて欲しい。

「好きだよ、椿」

覚えていてくれ。

「セフレでも愛人でもない。恋人になって欲しい」

覚えていなくても、また言えばいい。

「俺を椿の恋人にして欲しい」

何度でも、言うから。

椿の言葉を飲み込むように、口づけた。

唇を味わいながら彼女のシャツのボタンを外していく。

昨夜の彼女の言葉は間違いじゃなかった。

スポーツブラで胸が潰れた状態でぴったりなシャツは、本来であればボタンが閉まらないだろう。

これは、本当にクローゼットの中身を総入れ替えする必要があるな。

そんなことを考えながら、ベージュのスポーツブラを押し上げた。

ぶるんっと露わになった胸は、やはり柔らかく、手に吸い付くよう。

すぐにでも食いつきたかったが、首の下で丸まっている下着が窮屈そうで、俺はシャツの袖を抜き、下着を持ち上げた。

自然と、彼女が万歳の格好をする。

三つ編みを解き、指で髪をすく。

緩くうねった黒髪が肌に落ち、胸を覆った。

「綺麗だ……」

美術の教科書にでも載っていそうな姿。

眺めているだけでも、妄想を掻き立てられて興奮する。

更なる興奮を求めて、俺は肌に触れる前に椿のパンツのファスナーに手を伸ばした。

彼女は抵抗しなかった。

一糸纏わぬ姿となった椿が、ベッドの上で足を横に揃えて座る。

髪で胸が、足で下腹部が隠れ、それを暴きたい衝動に駆られる。


ヤバいな……。



さあ、ふたりの未来を語ろう

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

33

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚