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こんなシチュエーションで大好きな拓君にキスされて嬉しいけど、拓君の問いかけに不覚にも過去のトラウマを思い出すことになるなんて…それを真子ちゃんの口から包み隠さず話すのは辛い真実なんだけどなーー、拓君…。
その頃、拓と真子は旅館の裏手にある小さな川沿いの遊歩道を歩いていた。
水辺のひんやりした涼しい風が心地よい。
ちょろちょろと響く水音もなんとも風情がある。
二人は自分達が今京都にいるのだという事をしみじみと実感していた。
その時真子が言った。
「なんで席を外したかわかる?」
「アレだろう? 慎太郎と香ちゃんを二人きりにする為?」
「なんだーバレてたかー」
「真子が企んでいる事は全てお見通しさ」
拓はそう言ってフフッと笑った。
そして、左手で真子の右手を握る。
二人はそこから『恋人繋ぎ』をして歩き始めた。
「まだ蚊がいないからいいね」
「だな。夏だと川沿いは虫が多いからなぁ」
「ねぇ、見て! 月が綺麗。三日月だね」
「ああ。真子は月が好きだな」
「うん、月の中でも三日月が一番好き」
「満月よりも?」
「うん。なんか儚げな感じが好きなんだ」
「まるで真子みたいだな」
「私って儚げ?」
「普段は芯が強いけど、たまに儚げな感じがする」
「ふーん、男子からはそう見えるんだ」
「当たってるだろう?」
「うーん、そうなのかなぁ?」
そんなやり取りを続けていると小さな森に突き当たった。
「公園じゃないみたいだな、ちっちゃい森か?」
「うん。入ってみようよ、虫いないし」
「蛇はいるかもしれないぞ?」
「えっ、蛇? 嘘!」
真子がギョッとしたので拓が声を出して笑った。
そこで真子は拓にからかわれた事に気付く。
二人は手を繋いだまま森に足を踏み入れた。
「蛇がいても人間にビビッて逃げていくよ」
「そう? それなら安心だけど」
二人は20メートル程森を進んだ。
そこで真子が夜空を見上げて「あっ」と叫んだ。
「ちょっと待って! いいアングルで月が撮れそう」
真子はスマホを取り出すと月を撮影する。
ちょうど森の木々の間から繊細な三日月が顔を覗かせている。
なかなかいい構図だ。
真子はそれに気を良くして4~5枚の写真を撮った。
そしてその写真を拓に見せる。
「おっ、いいな…その写真後で送って!」
「うん」
真子は笑顔で答えると、スマホをポケットにしまった。
その時、拓が近づいて右手を真子の頬に添える。
(あっ、もしかして……)
真子がそう思った瞬間、真子の唇は拓に奪われた。
優しく触れるようなキスだった。
思わず真子はうっとりした表情になる。
拓は何度か同じようなキスを浴びせると、
両腕で真子の身体を包み込むように抱き締める。
そして今度は少し違うキスを始めた。
(これって……)
その時真子は杉尾医師から奪われたファーストキスの事を思い出す。
その苦い記憶に思わず身体が震えた。
しかし真子はすぐにその記憶を頭から振り払う。
そして今ある事実だけを見つめる。
今自分を抱き締めているのは拓なのだ。
今真子の身体に触れているのは、拓の逞しい腕であり胸板なのだ。
その事実に目を向けると、不思議な事に悪夢は徐々に消えていった。
真子の身体の緊張が緩まったのを感じた拓は、
ゆっくりと真子の唇をなぞるように舌を動かし始める。
それはうっとりするようなとても優しいキスだった。
拓は真子を怖がらせないように細心の注意を払いながらキスを続ける。
そして真子の唇を一通り堪能した拓は、今度は真子の中への侵入を試みる。
拓の積極的な攻めに、つい真子は熱い吐息を漏らしてしまう。
そして唇を少しだけ開けた。
そのチャンスを拓は逃さなかった。
拓は積極的に真子の中へ入っていった。
「んっ……」
思わず真子から熱い吐息が漏れる。
その声に刺激を受けた拓の舌は、徐々に激しく動き始める。
そしてとうとう二人の舌が絡まる。
(杉尾先生にされたのとは全然違う…どうして?)
真子はうっとりしたまま、拓を必死に受け入れた。
小さな森の中にはリップ音が響く。
そして二人の絡みつくようなキスは続く。
真子は立っていられず今にも崩れ落ちそうだった。
その身体を、拓の逞しい両腕がしっかりと捕まえる。
真子はその時同じ歳の拓に『男』の部分を見たような気がした。
それだけで真子の興奮が高まる。
キスをされながら真子はうっすらと眼を開けてみた。
拓の頭越しには、先ほど写真に撮った三日月が見えていた。
その三日月は、まるで二人を見守っているかのようだった。
それからしばらくして漸く唇を離した拓が真子に聞いた。
「キスも初めて?」
その問いに何と答えようかと真子は悩む。
初めてではないと正直に言えば、誰としたのか聞かれるだろう。
それは困る。
そして初めてではないと告げるのも嫌だった。
無理やりされたキスをファーストキスとして拓に言いたくはなかった。
戸惑っている真子を見て拓は何かを察したようだ。
「した事あるんだ…誰と?」
「えっ?」
「正直に言って」
「……」
「言えない相手なのか?」
そこで真子の瞳に涙が滲んでくる。
「真子?」
拓の優しい口調に、思わず涙が溢れ出す。
すると拓はびっくりしていた。
そしてすぐに真子を抱き締めると言った。
「誰にされたんだ? 言ってみろ。俺に言えばすっきりするから」
拓は真剣な眼差しで真子に聞いた。
しかし真子はただ声を出して泣きじゃくるだけだった。