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その頃花純は、マンションで家事に励んでいた。


壮馬の部屋は、男性の一人暮らしにしては割と綺麗だった。

おそらく掃除業者が定期的に入っているのだろう。


しかし細かい部分には埃が積もり、綺麗好きの花純には気になる箇所がいくつもある。

今日はそれらの汚れを徹底的に綺麗にしたい。


まずは洗濯から取り掛かる事にした。

リネン類を回収する為に、許可を得た壮馬の部屋に入る。

おそらくその部屋はマスターベッドルームなのだろう。広さは花純の部屋の三倍くらいの広さがあった。


(うわぁ、広い…)


壮馬の部屋の手前部分は、作り付けのデスクと本棚があり書斎のようになっている。

そして奥が寝室として使われているようだ。

寝室側には、クイーンサイズのベッドが鎮座していた。

ちょうどベッドに寝転がると、はめ込み式のガラス窓から外の景色が楽しめるようになっている。


(ホテルみたい…)


花純は思わずうっとりする。

ホテルと言っても、かなりハイグレードなホテルだ。もちろん、花純はそんな豪華なホテルには泊まった事がない。


あまりにも見慣れない豪華な部屋を見てしばらく見とれていた花純だが、そこからは手際よく動き始める。

まずはリネン類を全てかき集めると洗濯機へ放り込んだ。


(もしかしたら普段はリネン類もクリーニングに出しているのかな?)


ベッドから外したシーツは、まだパリッと糊がきいていた。


次に花純は、広い主寝室にロボット掃除機を稼働させる。

掃除はロボットに任せると、花純は出窓やナイトテーブル、そして書棚の拭き掃除を始めた。


書棚には不動産や土地取引に関する書物、

それに投資や店舗経営などの専門書がぎっしりと並んでいた。

大学時代の本だろうか?経営学などの難しそうな本も多数あった。

中には英語で書かれた書物もチラホラある。


本棚を見ただけで、壮馬はかなり勉強家だという事がわかる。

御曹司というと、親からあてがわれた仕事を適当に手を抜いてやっているイメージがあるが、壮馬は違うようだ。

机の上に広げられた膨大な資料を見ると、自宅に帰ってからも仕事を続けている事がわかる。


(凄い人なんだわ…)


花純はそれまで壮馬に抱いていたイメージが間違っていた事を認識する。

壮馬は誰よりも努力家で、常に会社の事を考えている人だったのだ。


花純は最後にベッドヘッド部分を丁寧に拭き上げる。

その時、ふわっと良い香りが鼻をついた。その香りには覚えがあった。


(そっか、副社長がいつもつけている香りなのね…)


それは柑橘系と森の香りをミックスした香りで、爽やかかつ少し野性味を帯びた香りだった。

花純は森や土の匂いが好きなので、妙にこの香りにそそられる。

自分が壮馬の傍にいて落ち着く理由は、もしかしたらこの香りのせいなのかもしれないと思った。


壮馬の部屋の掃除を終えた花純は、

今度はリビングとキッチンの掃除へ取り掛かった。


キッチンは普段あまり使っていないのか、割と綺麗だったが、

少し油汚れのついたIHコンロや電子レンジの中を、ピカピカに磨き上げた。


キッチンの引き出しの中もきちんと整理する。

壮馬の母が買ってきたと思われる調味料類は、賞味期限の日付け順にきちんと並べた。

使わないのはもったいないのでこれから毎日消費していこうと思う。


その後二時間ほど掃除を続けた結果、部屋の中は見違えるように綺麗になった。

部屋がピカピカになると、空気まで澄んだような気がするから不思議だ。


正午になると、花純は冷蔵庫の残り物で簡単なパスタを作る。

テレビを見ながらパスタを食べ終えると、すぐに買い物へ行く準備をした。


マンションを出た花純は、高級住宅街の中をのんびりと歩く。

昼間の爽やかな空気が心地よい。


すると突然花純の携帯が鳴った。

電話は母の涼子からだった。


母の涼子には、火事で焼け出されて上司の家に世話になっていると伝えていた。

その後連絡をしていなかったので、きっと心配して電話をしてきたのだろう。


「もしもしお母さん?」

「花純? 今大丈夫? 昼休みかなと思って電話したんだけど」

「うん、今日は休みだから大丈夫だよ」

「あらそうなの? それは良かったわ。でね、今いる上司のお宅の住所を教えてもらえないかしら?」


そこで花純は思い出した。

前回母の涼子に電話した時、娘が世話になっているお礼に上司に何か送らなくちゃと母が言っていた事を。

花純は母が壮馬にお礼の贈り物をしてくれるのだと思い、バッグからメモを取り出して住所を伝えた。


「ありがとう。で、まだしばらくはそちらにお世話になるの?」

「うん…しばらくいてもいいと言ってくれてるから」

「あらそう。本当に優しい上司で良かったわね」


花純はこの時、母が壮馬の事を青山花壇の上司だと思い込んでいる事に気付いた。

花純が今副業をしている事は母には伝えていない。

きっと正規の仕事以外にも働いていると知ると、心配するだろうと思ったからだ。


幸いなことに、母は長野にいる。だから隠していても特に問題はないだろう。

そう思い、あえてそのままにしておく事にした。


「まあ、あんまり長くお邪魔してもご迷惑になるから、次のアパートが見つかったらなるべく早く移りなさいよ」

「うん、わかってるよ」


それから少し世間話をしてから母との電話を終えた。


(ふぅーっ、なんとかバレずに済んだわ。独身の男性の家に転がり込んでるなんて知ったら、きっとお母さんもおばあちゃんも卒倒しちゃうんじゃないかしら?)


花純はそう思いながらクスッと笑った。

そして元気な足取りでスーパーへ向かった。

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