「……私、貴方の事が好きみたいです」
カーネにそう言われた瞬間、メンシスが瞳を見開いた。正直『聞き間違いか?』と一瞬彼は思ったが、彼女の発した言葉の一語一句を自分が聞き逃したり、間違えるはずがないと直様その考えを否定する。
「“僕”を、貴女が……ですか?」
そう問われ、カーネの表情が曇った。好意を否定されたと感じたのだ。夢か、それに近い世界のはずと思っていた為、予想外の返しをされた事への驚きもある。『——みたい』と付け加えてつい用意してしまった逃げ道をカーネが早速利用しようとすると、先にメンシスが言葉を発した。
「あ、や、すみません、違うんです。嬉し過ぎて、頭の中の処理が追いつかなくって……」
頬を赤くし、握ったままになっているカーネの手にメンシスが額を当てる。まさか彼女がこの気持ちに終止符を打つ為に告げるだけ告げて、この恋心を此処に封印しようと画策しているとは思いもしていないメンシスは、純粋に嬉しくって堪らない。
「う、嬉しいんですか?」と驚くカーネの声が裏返る。否定されるよりは断然嬉しいが、良くて『そうなんですか』くらいの返ししか想像していなかったので、こうも喜ばれるのは予想外の事だったからか彼女の顔まで真っ赤に染まった。彼女の頭から『此処は現実ではない』という考えがするっと抜け落ち、どういった反応をするべきか戸惑って、への字になっている口元に変な力が入る。
「嬉しいに決まっているじゃないですか、ずっと好きだった相手からの告白なんですから」
ちらりと視線を上げてメンシスがカーネを見る。お互いの視線が交差すると、長い前髪の隙間から見えるメンシスの碧眼は喜びで少し潤んでいた。熱っぽさも感じるその瞳を見ているだけでカーネの胸の奥が益々ドキドキと高鳴る。告げた想いが届くという感覚を初めて味わい、もう死んでもいいやと思う程にじわじわと心が歓喜で満ちていく。
(だけど、『ずっと好きだった相手』とは?逢ったばかりの相手に使う表現では無い様な……)
そんな疑問をカーネは抱いたが、『此処は現実ではないんだったな』と考え、『それならば矛盾くらいあっても当然か』という考えに帰着した。夢への侵入が可能であるとは知らないカーネでは、彼の発言から『目の前のシスさんは、本人なのでは?』という考えに至る事はなさそうだ。
「僕も、貴女の事が好きですよ。好き、好き、愛してます——」
ずっと握ったままになっていた手をそっと離し、メンシスがカーネの首元に右腕を伸ばす。そして彼女のうなじを掴むみたいにして触れると、うっとりと蕩けた瞳で、「やっと取り戻せた……」と小さくこぼしながらカーネの唇に噛み付く様な勢いで唇を重ねた。
(え、何で……私、今、何をされているの?)
突然の事に驚き、カーネの体が固まる。動揺から見開いた瞳が最初は揺れていたが、メンシスの熱い舌が唇を割って入り込んできた事でゆるりと瞳と共に思考力まで溶けていく。それでも反射的に彼の胸元に手を当てて押そうとしたが、力が入らない。人のソレよりも明らかに長い彼の舌で歯をなぞられてしまったからだ。絡む舌のせいで唾液がじわりじわりと溢れ出し、口の端から零れ落ちそうになるがなす術もなく。当たり前に出来ていた呼吸すらその方法を忘れてしまう程にカーネの頭の中が真っ白になり、下腹部の奥がじわりと疼く様な感覚まである。媚薬を飲まされたわけでもないのに、まるでそうであるかの如く、体が本能的に何かを欲し始めている気さえした。
そんな姿のカーネを作り上げた事に満足でもしたのか、メンシスがゆっくり彼女の唇から離れていく。今にもベッドに崩れていきそうなカーネの体を右手で支えながら、左手で真っ赤に染まった頬を愛おしそうに撫でた。
「キスの間は鼻で息をしないとダメですよ。じゃあ、次はやってみて下さいね」
言うが早いか、また唇を奪われてしまう。『——つ、次?』『待て!』などといった言葉を口する隙なんか全く無かった。
「んぐっ、ふっ……」
口内を否応無しに蹂躙されているのに、気持ちがいいとしか考えられなくなる。好きな相手とのキスだからなのか、彼が上手いからなのかといった考えが浮かんではすぐに消えていく。
カーネの頬を撫でていたメンシスの手が、熱を持ったまま下へと少しづつ移動する。蒼白の細い首を撫で、鎖骨のラインを指先でそっとなぞり、その手は胸の膨らみへと触れる箇所を移していった。
「——っ、んん!」
流石に驚きの方が勝り、カーネが声をあげた。だが唇が重なったままでは言いたい事など伝わるはずがない。メンシスがキスをやめる気配など微塵も無く、互いの舌は一層深く絡むばかりだ。
辛うじて呼吸はしつつも、それでも上手く息が吸えている気がしない。酸欠故か頭はぼぉとしてまともに働く様子もなく、与えられる快楽をただ享受してしまう。様子を伺いつつ胸も揉みしだかれ、栄養不足で平らに近いカーネの胸が服越しに歪む。そのせいで次第に胸先が硬さを持ち始めてしまったのをメンシスが目ざとく感じ取った。
唇がゆっくりと離れ、呼吸の荒い状態にあるメンシスが嬉しそうに微笑みを浮かべる。赤付く全身をビクビクと小刻みに震わせ、口を開けたたまま虚な眼差しで彼を見上げたままになっているカーネの口元から唾液が一筋流れ落ちた。
「あぁ……可愛いよ、カーネ」
うっとりとした声でそう言って、メンシスが指先で軽くカーネの着ている服を下げて右胸だけを露わにさせた。この時代に着ていた服は材質は悪くなくとも、シリウス公爵家の者達の目が邪魔で、質素なデザインの物しか与えられていなかった事が逆に功を奏して容易く脱がされてしまった様だ。
「ぃやっ」と羞恥に染まる声でこぼし、カーネは咄嗟に胸元を腕で隠そうとしたが、胸の先をギュッと摘まれ阻まれてしまった。初めての刺激なせいか、驚きからか、背中が逸れてベッドに倒れ込んでしまう。
「おや、僕を誘っているのか?」
この状況に酔い、口調に素が混じり出しているが、どちらもそれに気が付く余裕がない。
メンシスはカーネの小さくて酷く痩せた体の上に覆い被さると、迷う事なく彼女の胸先をむしゃぶりだした。片腕で上半身を軽く支え、カーネの脚に座って逃げられない様に拘束する。大きくてふさふさとした尻尾が歓喜で揺れているが、そんな可愛い様子を楽しむ余裕など彼女には少しも無い。
「そんな事、だ、ダメで、す!」
出来うる限り語気強くそう訴えるが、彼の頭を押す事も出来ず、結局カーネはされるがままだ。胸先をちゅっと吸われたり舌先で転がされたり、犬歯の混じる歯で甘噛みなんかされようものなら、腰が跳ねてあられもない蜜がじわりと下腹部から溢れ出してしまう。
(な、何でこんな事に⁉︎)
浮かぶ疑問を胸に必死に身を捩るが、抵抗虚しくメンシスの手がカーネの穿いているスカートの方へ伸びてきた。お漏らしでもしたみたいに下着が濡れている自覚がある為、真っ赤な顔を激しく横に振って、「ソレはダメですっ!」と彼女は大きな声で叫んだ。
「よ、汚れてるから、み、見ないでぇ……」
半泣き状態になりながら訴える。でもか細い声だったからか逆に、彼を煽っただけになってしまったみたいだ。
「甘い匂いしかしないぞ?汚れているんじゃなく——」とまで言ったメンシスがカーネの耳元に顔を近づけ、「……奥から、いやらしい蜜が溢れ出ているだけじゃないのか?」と意地の悪い声で吐息混じりに囁いた。
「——っ!」
その一言と耳への吐息のせいでカーネはとうとうキャパオーバーを引き起こした。フッと意識が遠のき、夢の世界が粉々に崩れ始める。
「……流石にやり過ぎたか」
周囲を見渡し、メンシスが残念そうに呟く。——だが言質は取った。後はもう交際期間を多少は挟めば、なし崩し的に結婚までもすぐだろうと皮算用をしつつ、少しだけでも体に触れられた喜びと、彼女からの好意を確認出来た満足感を胸に、メンシスも現実世界へと戻ったのだった。
コメント
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👍️続きがめちゃくちゃ楽しみです!