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「あり……えねえ」
目の前で起こった光景に、冒険者のリーダーは口をポカンと開けた。
「一刀両断しただと?」
もう一人の男性冒険者も振り返ると、熱海のおこなった行動に気をとられていた。
完全な隙を晒しているのだが、他のモンスターも熱海に注目している。全員がこの場でもっとも強者を熱海と認識した。
「はぁはぁはぁ、ふぅ」
戦闘の合間に、緩慢な動きで水を飲む。全身に汗を浮かべており、今の一撃ですべての力を持っていかれたのは明白だ。
「新人よくやった。下がっていいぞ」
明らかに疲労困憊している様子から、限界で放った一撃だと察したリーダー。熱海はこれ以上戦えないと判断した。だが……。
「えっ? まだやれますよ、そっち片付けていいですかね?」
顔を上げた熱海はケロリとした表情を浮かべており、
「うん、さっきまでよりも強くなってる」
感じとれる気配が先程までよりも大きく強く、見ていると一瞬ゾクリと背筋を冷たい汗が伝った。
「加減は解ったので、ここからは早い者勝ちでいいんですよね?」
先程までの防戦一方の戦いから一転して、熱海はモンスターの群れへと突撃して行く。
「馬鹿っ! 一人で突っ込むな! フォローできない!」
防衛ラインを決めつつ連携をして他のモンスターが近寄らないように立ち回っていたのだ。
自分たちの前にもモンスターが居るので、熱海が突出するとフォローすることができない。
「ほいっ! ひとーつ!」
飛び込むと、軽く剣を横薙ぎにしてオーガの胴体を両断する。
「ぷはっ! ふたーつ!」
素早く水分補給をし、袖で口元を拭ったかと思えばさらに素早い動きで接近するオーガーとの距離を詰めると、頭上から剣を振り下ろして真っ二つに。
「んぐっ! みーっつ!」
モンスターを倒すたび動きがどんどん良くなっていく。間に水筒を口に含む動作が気になるリーダーだったが、まさかあれがエリクサーで呑むたびに体力が全快しているとは知る由もない。
「大分、余裕が出てきたな」
熱海は笑みを浮かべると、どんどんモンスターを倒し続けていた。序盤にくらべ成長速度こそ落ちてきたものの、周囲に現れるモンスターをほとんど一人で全滅させ、さらに深追いしようかと森の奥を見ていると……。
「待てっ! これ以上は馬車に乗りきらないからっ!」
リーダーの静止により、狩りを止めるのだった。
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「ふわぁ、眠い」
他の冒険者たちが解体をしている間、俺は石に腰を下ろしながら見張りをしていた。
横目に彼らを見ると、血まみれになりながら必死に俺が倒したモンスターを解体している。
他人を利用する気満々で近付いてきたので約束を反故にされるかと思ったのだが、きちんと守ってくれているらしい。
血の臭いが漂う河原なので満足に寛げないのだが、自分だけは参加しないで済む特権を持つのは気分が良い。
「それにしても、俺の能力との相性がいいとは思ってたけど、まさかこんなに上手く嵌るとは思わなかった」
周囲の目を気にしながら、俺は魔導剣を抜いて見せる。
あれだけの戦闘をしたというのに綺麗な剣身をしており、宝玉が陽の光を浴びて虹色に輝いていた。
「値引きして売ってくれたアリサには感謝だな」
説明を聞いた時点で欲しかったが予算が足りず、金を溜めてから買おうにも魔導具は同じ種類のモノが滅多に出回らないという。
諦めるには惜しかったので全財産をつぎ込んでも手に入れられてよかった。
そんな俺の魔導剣なのだが、今回、強いモンスターを倒すことが出来たのはこの魔導剣の性能に秘密がある。
この魔導剣なのだが、実は普通に使うと普通の剣以下の攻撃力しかもっていない。
だが、攻撃の際に魔力を込めることで威力を跳ね上げることができるのだ。
アリサの説明によると、人は大なり小なり魔力を持っているらしく、ちょっとした用途で使う分にはこの魔導剣も役に立つ。ただし、うっかり魔力を入れすぎると気絶してしまうし、魔力の回復は専門の施設を使っても一週間かかるらしく、余程魔力量の多い魔導師でもこれを使いこなすのは不可能。なんなら同じ魔力を変換して魔法を撃った方が効果的とのことらしい。
そんな訳で、局所で後のことを考えずに済む時にしか使えないはずのこの魔導剣なのだが、俺に関してはその制約を取り除くことができる。
自分だけにしか効かないとはいえ体力も魔力も怪我も病気も完全に治癒してしまうエリクサーがあるのだから。
魔力が切れたらエリクサーで完全回復させてしまえばよい。
これにより、ある程度強いモンスターとの戦闘もこなせる算段が付いていた俺は、出来る限り安全に強いモンスターとの戦闘経験を積みたいと考えていた。
そんな中、ちょうどカモが向こうから寄ってきて、俺を狩りに誘ってくれたというわけだ。
本来なら一撃放って終わりの強攻撃も、エリクサーを含みながらなら何度でも撃てる。
その上、モンスターを倒すたびに光を吸収して強くなることができるので、戦闘中に回復できる俺はその場でどんどん力を増していくことができた。
お蔭で最後の方は連続してエリクサーを飲まずとも戦えるようになっていた。魔力総量も消費することで成長していたに違いない。
「おい、解体終わったぞ。ミナト」
そうこうしている間にリーダーが俺を呼びに来た。
馬車にこれでもかというくらいに積み込まれた毛皮や牙などの討伐部位を見ると、
「了解。それじゃあ街に戻って換金しましょうか」
割りの良い仕事に誘ってもらったので、俺は彼らに笑顔を向けると、収入で次は何をしようかと考えを巡らせるのだった。