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導入:配信
「こんばんは〜、“はごろもまごころ”だよ!」
画面に映るまひろは、今日は水色のトレーナーに黒のハーフパンツ。小さな音符の刺繍が胸元に入っており、子どもらしい丸顔とぱっつん前髪の下の大きな瞳が、きらきらと輝いていた。
隣のミウは、ベージュのニットにクリーム色のロングスカート。髪を緩やかに下ろし、肩には薄手のストールを羽織っている。耳元で光るシンプルなピアスと、やわらかな笑顔が彼女のふんわりとした印象を強めていた。
まひろが少し首をかしげて言う。
「ねぇミウおねえちゃん。最近すごく流行ってる歌、あるでしょ? 街でもお店でも流れてて……ぼくもつい口ずさんじゃうんだ。でもね……ちょっと心配になっちゃったんだ」
コメント欄がざわつく。「あの歌だよね!」「毎日聴いてる!」と盛り上がる。
「だってさ、その歌を聴いてる子が“勉強したくない”って言ったり、“現実逃避したい”って言ったりしてるのを見ちゃったんだ。ほんとに大丈夫なのかなぁ……」
疑惑の芽生え
ミウが頬に手を当て、ふんわりと首をかしげる。
「え〜♡ 音楽って元気をくれるものなのにぃ……もしそれが子どもたちの気持ちをネガティブにしちゃってたら、ちょっと心配かもねぇ」
「うん……ぼくはただ、“ほんとに安心して聴いていいのかな”って思っただけなんだ」
コメント欄には「歌詞重いもんね」「うちの子も口ずさむけど意味わかってるのかな」と心配する声が流れ始めた。
レイNews記事化
その夜、「レイNews」には記事が並んだ。
1. 大ヒット曲、若者に与える影響に懸念
2. 歌詞分析『生きづらさ』『逃避』を美化?
3. SNSで拡散『子どもに聴かせたくない』の声
4. 専門家の見解「依存的な気分を助長」
5. 過去の楽曲と比較 “危険な流行”の再来か
記事は歌詞の一部を切り取り、「生きる意味を見失わせる」と強調していた。
裏では、ミウがAI翻訳を使い、海外の全く別の問題記事を“参考論文”として引用。見かけ上は学術的裏付けがあるように見せていた。
群衆の暴走
翌日SNSでは「#歌で子どもを守れ」がトレンド入り。
「確かに不健全」「禁止にすべき」との声が広がる。
ワイドショーは「歌詞の危険性」を連日取り上げ、専門家を招いて“心理的影響”を解説した。
教育委員会には苦情が殺到し、一部の学校では「文化祭でこの歌を歌わないように」と通達が出された。
結果、歌手のイメージは一気に下がり、タイアップ企業は契約を解除。
クライマックス
数日後、歌手本人は「楽しい気持ちを届けたかっただけ」とコメントを出した。
だが、それは翌日の記事に利用された。
「意図は楽しい? だが歌詞は違う――専門家が再び警告」
楽曲は一瞬で「危険な歌」として語られるようになった。
結末
夜の配信。
まひろは水色のトレーナーの裾をぎゅっと握りしめ、無垢な瞳でカメラを見た。
「ぼく……ただ“安心して聴いていいのかな”って思っただけなのに」
ミウはやさしく微笑み、両手を膝の上に置いた。
「え〜♡ でも、みんなで考えるきっかけになったんだから素敵だよね。
音楽ってほんとは、みんなを幸せにするものであってほしいもん♡」
コメント欄は「気づかせてくれてありがとう」「これからは歌詞をちゃんと考える」で溢れた。
その裏で、ミウのPC画面には次のターゲットリストが並んでいた。
“芸人の発言”“人気アイドル”“新作映画”。
記事タイトルの雛形が既に打ち込まれていた。
> 無垢な声とふんわり同意、その裏でひとつの歌は“危険”の烙印を押されていた。