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第9話:日本、大和国に統合(5年後)
統合された日常
5年後の東京。
街の看板には「YamatoCoin使用可」の文字が並び、コンビニのレジには「旧日本円:一部取扱い」と小さく書かれている。
ニュースの時刻表示はすべて「大和〇年」となり、西暦はすでに姿を消していた。
まひろは、黄色のパーカーにデニムのハーフパンツ。背丈は伸び、肩までかかる髪を後ろで結んでいる。
顔立ちは少し細くなったが、大きな瞳の奥にはまだ子どもの好奇心が残っていた。
「ねぇミウおねえちゃん……ぼくたち、もう“日本”じゃなくて“大和国”なんだって。
すごいよね……国って、名前が変わるだけで全部違って見えるんだ」
ミウは、薄緑のジャケットにクリーム色のブラウス、濃い紺のスカート。髪は肩を過ぎてゆるく揺れ、首元には真珠のネックレスが光っている。
以前よりも大人びたその雰囲気に、まひろはどこか憧れを抱くような眼差しを向けていた。
彼女はふんわりと笑い、まひろの言葉に同意する。
「え〜♡ そうだねぇ。前は“日本”って呼ばれてたけど、今は“大和国”。
名前が変わっても、みんなの暮らしはちゃんと続いてるんだもん」
国軍とネット軍
街角のスクリーンには、大和国軍の行進映像が流れていた。
「国軍(実働部隊)」と「ネット軍(情報部隊)」。
銀と緑の制服を着た若者たちが、誇らしげにインタビューに答えている。
「ネット軍に入れば世界を守れる」
「クリック一つで敵国を止められる」
だが実際には国外へのサイバー攻撃や情報操作が常態化していた。
報道では「未来を築く新しい軍」として描かれ、市民は拍手を送る。
売られた島々
ニュースでは、かつて日本が争っていた島々が「大和国によって平和的に購入」と報じられていた。
実際にはヤマトコインを使った架空取引であり、旧日本政府が財政難を理由に切り売りしたものだった。
街頭スクリーンを見上げながら、まひろは無邪気に言った。
「ぼく……ただ“どうしてケンカしてるのかな”って思ってただけなのに、島まで大和国になっちゃった」
ミウは彼の髪を撫で、ふんわり微笑んだ。
「え〜♡ でもケンカが終わったなら、いいことだよねぇ。
大和国になれば、もう誰も争わなくて済むんだもん」
人々の声
街頭インタビュー。
「最初は不安だったけど、給料がヤマトコインでもらえるようになって生活が楽になった」
「政府が何を決めても“はごろも党”が関わってるなら安心できる」
人々は新しいルールに慣れ、むしろ歓迎すらしていた。
それがZと、はごろも党の思惑通りであることに、ほとんど誰も気づいていなかった。
結末
暗い部屋。緑のフーディ姿の**Z(ゼイド)**は、旧日本憲法のページをモニターに映し、無造作に削除キーを押した。
代わりに浮かび上がる「大和国基本法」の文字。
「真実はもういらない。法律も歴史も、すべて俺たちが書き換えた」
無垢な問いとふんわり同意、その裏で日本は完全に“大和国”へと組み込まれ、未来は新しいルールで塗り替えられていった。