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きょうふ
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comi
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#可愛い
トド村
37
「おかあさんごめんなさい。ぴあのがひけなくてごめんなさい」
びゅうびゅうと、容赦のない冬の風が吹いていた。
まだ六歳だった私の小さな身体を、冷たい雪混じりの突風が容赦なく叩きつける。
見上げるほど大きな、二階建ての家の玄関。
そこからフランツ•リストの『ラ•カンパネルラ』が聴こえる。
固く閉ざされた扉の前で私はぽつんと一人、冷たいコンクリートの床に座り込んでいた。
「おかあさんごめんなさい。ぴあのがひけなくてごめんなさい」
かじかんだ唇から漏れ出るのは、うわごとのような言葉だけ。
お気に入りの魔法少女がプリントされた薄いトレーナーは、すでに吹き付けるような雪を吸って、じっとりと冷たく肌に張り付いている。耳の感覚はとっくに麻痺し、張り裂けるように痛い。
だけどそれ以上に痛むのは、右手。寒さのせいで赤黒く腫れあがった霜焼けと定規で叩かれた痕。
お母さんの期待に応えられなかった証。
お父さんがいなくなったから、私ががんばらないとだめなのに。
「おかあさんごめんなさいぴあのがひけなくてごめんなさいおかあさんごめんなさいぴあのがひけなくてごめんなさい」
降り積もる雪の白さに視界が染まっていく。
わたしが、きえていく。
はっと、目が覚めた。
隣では鼻ちょうちんを出しながら天国美がいびきをかいている。
「……夢か。」
布団からのそっと這い出る。
汗でパジャマが濡れている。
布団も、滝のような汗でおねしょみたいにびしょびしょだ。
「……シャワー浴びよ」
暗闇の中で壁を伝いながら風呂場まで向かう。
ドサッと濡れて重くなったパジャマを脱ぎ捨てる。
カチッ。
風呂場の電気をつけ、鏡を見て気付いた。
「……ない。」
左目がない。
私の左目の部分は透けて消えてぽっかり穴が空いているようになっている。
慌てて手で顔をペタペタ触る。
……なくなってるわけじゃない。透けてるだけか。
「……取り合えず、シャワー浴びよ。」
左目が消えた現実から目を反らすように、目が覚めるほど冷たいシャワーを浴びた。
「ご主人様、なんで朝から眼帯つけてるんですか?厨二返りですか?」
朝、天国美が私の眼帯を訝し気に見る。
「し、知らないの天国美?今渋谷では眼帯ファッションが流行っているのよ」
上ずった声で私が言う。
「そんな流行りはありませんしここは渋谷じゃありません」
そう言って天国美がぺりっと私の眼帯を剥がす。
「あっ」
慌てて私が左目を隠す。
「……呪いの進行が思ったより早いですね。それ、左側見えてますか?」
「うん、ぼんやりだけど」
「私のプリティーなご尊顔も?」
天国美がきゃるんとぶりっ子ポーズを取る。
自分の顔でぶりっ子ポーズされんの死ぬほど腹立つわね。
「はいはい見えてる見えてる。今日もかわいい天国美ちゃん」
私は雑に天国美の髪をわしゃわしゃする。
「うひゃひゃひゃひゃひゃ」
天国美がくすぐったそうに笑う。
そんな私達の元に楓子さんからLINEが届く。
『地獄子ちゃん、天国美ちゃん、オハヨウ〜〜ッ‼️😁☀️(笑)
ところで、今日は天国美ちゃんはお仕事、お休みカナ……❓🤔なんちゃって‼️(^_−)−☆
実はネ、今日はみんなで海に行こうと思って連絡しちゃいました〜〜(笑)🏖️🐠✨
そこでッ❗️いよいよ、Lesson3を行っちゃうヨ〜ン‼️
地獄子ちゃん達の、可愛い水着姿👙が見られるのを、おねーさん、今からとっても楽しみにしてま〜す😍
それじゃあ、水着を持参して、事務所に集合ヨロシク〜〜‼️👋✨』
楓子さんから送られた怪文書を見て、私たちは顔を見合わせた。
「ばっびゅーーーん!!」
箒に乗った私の後ろに抱きつき、小守がコウモリのような大きな翼をはためかせる。
びゅうびゅうと頬を叩くのは、悪夢のような凍てつく雪風ではない。汗ばむゴスロリを優しく撫でる、灼熱の夏の潮風。
見上げれば、吸い込まれそうな青空に、入道雲がもくもくそびえ立っている。
「うん。地獄子ちゃんも大分箒の扱いに慣れて来たね」
私の前を箒で飛ぶ楓子さんが一瞬私に振り返る。
「ひゅっほーーーう!!見てください楓子さん!!楓子さんのプライベートビーチが見えてきましたよ!!」
楓子さんの後ろに抱きついている天国美はいつもと違う眩しい夏服姿だった。
涼し気なノースリーブの白いサマーニットに、風を孕んでふわりと広がるイエローのフレアスカート。
麦わら帽子が飛ばされないように右手で抑えながら、左手で楓子さんのくびれのあるウエストに抱きつく。
「うんうん、いい眺めだねぇ。落ちないようにしっかり掴まってなよ」
「はい!!」
天国美が楓子さんの背に更に抱きつき顔をうずくめる。
天国美の麦わら帽子が風に飛ばされふわりと飛んだ。
「くすぐったいよ天国美」
「楓子さん楓子さん楓子さぁーん」
「……ケッ、バカップルどもがよぉ」
小守が悪態をつく。小守が憂さ晴らしに私の脇腹をくすぐってくる。
「うりゃ!!うりゃうりゃ!!」
「うきゃあ!?」
小守にくすぐられ、魔力コントロールが大きく乱れる。
「おっとぉ!!」
小守が翼を器用にはためかせ、軌道修正する。
「なにすんのよ小守!!」
「なにもしてませーん」
このクソガキ……。
「ちょっと小守ィ!!ご主人様を落としたらぶっ殺しますからね!!」
天国美が私達に振り向き叫ぶ。
「あぁ?やれるもんならやってみろよデカ乳ドッペルゲンガー」
小守が私から手を離し舌を出して天国美を挑発する
「……ぶっ殺す!!」
頭に血が上った天国美が口から謎の白いビームを放つ。
なんなのその技⁉
小守が翼をはためかせ、私達は間一髪ビームを躱した。
「こーら君達、けんかしなーい」
楓子さんが箒で飛びながら二人を窘める。
「バーカバーカ!!」
「バーカバーカバーカ!!」
その後も、天国美と小守はプライベートビーチに着くまで
ずっと小学生みたいな口喧嘩をしていた。
「サマーシーズン到来!!サマーシーズン到来!!」
水着を着た天国美が砂浜で派手にジャンプする。
「ご主人様見てください!!この水着超可愛くないですか⁉」
天国美が様々なポーズで私に水着姿を見せつける。
淡いミントグリーンの、胸元と腰回りにこれでもかとボリュームのある三段フリルがあしらわれた爽やかなビキニ。アイドルみたい。
「……それはそれとしてなんで私はスク水なのよ」
胸を隠し、更に猫背になりながら天国美を睨む。
水着を持ってない私は、天国美の魔法でスク水に変身していた。
意味もなく肥えた胸の脂肪。ボンレスハムみたいなむちむちした太もも。
だらしないボディラインが日の光に晒され死ぬほど恥ずかしい。
くっころである。今だけ吸血鬼になれないかな。
「いいじゃないですかスク水。それともアメリカンビキニの方が良かったですか?」
天国美がやれやれと肩を竦める。
私は自分がアメリカンビキニを着た痴態を想像する。
「……スク水でいいわよっ!!」
やけくそぎみにビーチの砂浜を蹴った。
「似合ってるじゃないか二人とも」
現れた楓子さんの水着姿に、私達は釘付けになる。
お腹と脇腹が大胆に変形カッティングされたモノキニ。
細いおなかのラインから、すらりと伸びる圧倒的な美脚が
白く輝く。
……綺麗。おじさん構文の使い手とは思えない。
「えっろ。……えっっっっっろ。」
天国美が鼻から血をだらだら垂らす。
「ふふっ、ありがとう」
大人な態度で楓子さんが微笑む。
「天国美、私の姿で発情すんのマジでやめなさい」
楓子さんにカブトムシのようにくっつく天国美を私がひっぺがす。
「待たせたなロリコン共ォ!!大本命のご登場だぜぇ!!」
浮き輪を持った小守が空から急降下し派手に登場する。
飛び散った砂が顔にかかる。
小守の幼児体型を包むは、紫と黒のレースアップが付いた、ちょい地雷系のセパレート水着。太ももにはガーター風が付いている。
小守が私の身体をじーっと見る。
「なっ、何……?」
私は慌てて身を縮める。
続いて小守は天国美を見た後
「ちっ、どいつもこいつも中国版ソシャゲみてぇな胸しやがって」
と舌打ちした。
天国美が小守の肩にぽんっと手をおいて
「負・け・お・し・み・ですかぁ?」
とこれまで見たことがない煽り顔を見せる。
「ちっげーよバーカ!!オレの身体は機能美なんだよ!!
空飛ぶのにでけー乳ついってっとじゃまだろーがぁ!!」
「はいはいステータスステータス」
「ママこいつムカつく!!地獄子のためにもぶっころそーぜ!!」
顔を真っ赤にして小守が天国美を指差す。
「小守、君はもう少し煽り耐性を身につけなさい」
呆れ顔で楓子さんが肩を竦めた。
楓子さん達と一緒に黒魔術修行の練習をする。砂浜に魔法陣のプリントしたビニールシートを敷き、ビーチパラソルを立てる。
「よし、それではLesson3を始めよう。」
「楓子さん、今日は何をするんですか?」
天国美が楓子さんの顔を覗き込む。
「Lesson3は《魔力の完全掌握》だ。
・体内に流れる魔力を意識する。
・一定量の魔力を放出し続ける。
この2ステップを習得すれば君は黒魔術師に大きく近づく。」
「が、がんばります」
私は拳をぐっと握る。
「……この修行は最悪死人が出る。
そのため誰もいないこのビーチに移動したわけさ。」
海も泳げて一石二鳥だろ?
そう言いながら楓子さんが私に瓶を手渡す。
「これは……?」
「これは複数の薬草が調合されたアロマオイルさ。」
そう言って楓子さんがビニールシートにうつぶせになる。
「ステップ一、体内に流れる魔力を意識する」
そういいながら楓子さんが背中の紐をはらりと解く。
楓子さんの真っ白な背中が露わになる。
「オイル、塗ってくれるかい?」
試すような流し目で私を見て、楓子さんが呟く。
(タイムリミットまで45日。)
コメント
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うわあ……第10話、胸がぎゅっとなりました。冒頭の幼い地獄子ちゃんの「ぴあのがひけなくてごめんなさい」って繰り返し、雪と一緒に消えていくみたいな描写が切なくて。そこから現代のギャグテイストに切り替わるメリハリが効いてて、でも左目が消えてる現実が夢だけじゃなかったっていう不気味さがじわじわ来ますね。海のシーンは天国美と小守の喧嘩が可愛くて、スク水地獄子ちゃんの悶絶もツボでした。楓子さんの背中にオイル塗る展開……次が気になりすぎます!