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ろくでもない兄だな😠ほんと普通なら楓ちゃんの面倒をみたり心配するのに。楓ちゃんは優しくて良い子だね 🥲
読み返してて思ったんですけど、今年のサンタさん、一樹だったりして…😆
契約金は?出演料は?もしかして全て兄のものなの⁈😢
その頃、美空愛育園の建物へ入った女は園長がいる厨房へ向かった。
女の名前は長谷部楓(はせべかえで)・24歳。
先ほど撮影現場で呼ばれていた『渚』という名前は楓の芸名で、AV女優の時は片桐渚(かたぎりなぎさ)という名で活動していた。
楓は厨房へ行くと、夕食の下ごしらえをしていた園長の野島景子(のじまけいこ)に声をかける。
「お母さん、ただいま」
ここで生活している子供達は皆景子の事を『お母さん』と呼んでいる。楓は施設を出てもいまだにそう呼んでいた。
「楓、お帰り。今日は休み?」
「ううん、今日は副業のバイト。シュークリームを買って来たからみんなにあげてもいい?」
「あら、ありがとう、みんな喜ぶわ。食堂に行ってて、今お茶を淹れていくから」
「わかった」
楓は厨房の隣にある食堂へ行きテーブルの上にシュークリームの箱を置いた。そして再び厨房へ戻ると皿を人数分取り出して持って行く。
そこへ手を洗い終わった子供達が次々と入って来た。
「今お母さんがお茶を淹れてくれるから座って待ってようね」
「「「はーい」」」
この園では約20人の子供達が共同で生活をしていた。
子供達の年齢は、一番下は2歳児から上は高校三年生までと幅広い。
今食堂にいるのは小学生以下の子供達だ。中高生の子供達はまだ帰っていない。
楓が椅子に座ると、この園で一番小さい二歳児の北斗(ほくと)がよちよち歩きで楓の足元まで来た。
楓は北斗に気付くとすぐに膝の上に抱き上げる。
北斗は楓が園を出た後に入って来た子供だが、楓がここを訪れると必ず寄って来る。楓の事を母親だと勘違いしているようだ。
「ホクちゃんいい子にしてたー?」
「うんっ! あーちゃんは?」
「もちろんいい子にしてたよー」
そこで楓がギューッと北斗を抱き締めると北斗は満面の笑みで楓にしがみつく。
そんな北斗の柔らかなほっぺたに楓が頬をくっつけると、北斗は嬉しそうにキャッキャッと笑う。
二人がじゃれ合っていると保育園へ通う3歳と4歳の二人の女児が羨ましそうに近付いて来た。
「あーっ、ホクちゃんずるいーっ」
「楓ちゃん、私も抱っこ―っ」
「あたしもーっ」
「はいはい、後で抱っこしてあげるから待ってて」
「今がいい―っ」
「あたしも今抱っこ―っ」
そこへ景子が麦茶を持ってやって来た。
「ほらほら、楓はお仕事の後で疲れてるんだから我儘言わないの。さぁ、シュークリームいただきましょう」
二人の女児は『シュークリーム』という言葉を聞き目をキラキラさせながら席へ戻った。
景子がシュークリームを一つずつ皿に載せると、小学校高学年の女児二人が皆の前に配っていった。
シュークリームが全員に行き渡ると、景子は手を合わせて挨拶をする。
「はい、じゃあいただきまーす」
「「「「いただきまーす」」」」
子供達は一斉にシュークリームを食べ始めた。皆満面の笑みで甘いシュークリームを頬張る。
「うわー、甘くて美味しい」
「俺、クリームがブチュッて出ちゃった」
「キャハハ、美奈ちゃんほっぺにクリームついてるよー」
子供達は久しぶりのシュークリームに興奮気味だ。
子供達が食べている間、隅に座っていた楓と景子が話を始めた。
「で、副業のバイトって今日もアレ? イベントスタッフとかいうやつ?」
「う、うん、そう……力仕事もあるからもうクタクタだよ」
「でも何で副業なんか始めたの? ホテルの仕事だけでも充分やっていけるんでしょう?」
「うーん、充分ではないかなぁ。やっぱり将来に備えて貯金とかしたいし」
「ほんと楓は小さい頃からしっかり者だよねー。ここにいた頃もお小遣いは全部貯金して無駄遣いはしなかったし。同じ兄弟でも良とは大違い」
「そうだった?」
「そうよー。毎年サンタさんにもらった長靴のお菓子だって、楓はいつも大事に大事に少しずつ食べてたけど、良(りょう)は一日で食べ尽くしちゃうんだから。おまけに楓の分まで取り上げてたじゃない? 8歳も年上の兄貴なのに兄だっていう自覚が全くないんだから困っちゃうわよ。ここにだってもう4~5年も顔を出さないし…。たしか最後にここへ来た時はインテリみたいな恰好してたじゃない? ブランド物のバッグなんか持っちゃって! あの時はかなり羽振りが良さそうだったけど今も派手な生活してんのかねぇ?」
「どうかな?」
「良とは会ってないの?」
「二ヶ月前に会ったっきりかな。あとはほとんどメッセージだけ」
「良の家には行ってないの?」
「うん、独身寮だから来るなって……男ばかりの中にも行き辛いし…」
「あいつまだ独身寮にいるんだ? まあ超有名商社に就職すればお付き合いも色々あるだろうから忙しいのはわかるけど、たまには妹孝行でもすりゃあいいのにねぇ。親の遺産であの子だけちゃっかり大学に行って楓は進学を諦めたのに。だったらその分妹に色々してやったって罰は当たらないだろう? ほんとにあの子はしょうもない兄ちゃんだねぇ」
「……うん、でもお兄ちゃんにはお兄ちゃんの生活があるから……」
それ以上兄・良の話をしたくなかった楓はそこで話題を変えようとした。
そして少し身を乗り出し小さな声で景子に聞く。
「で、今年サンタさんをやってくれる人って見つかったの?」
この園では毎年卒業生がサンタに扮しプレゼントを配る係をやってくれていた。
しかし今年はその男性が地方へ転勤になってしまい来られなくなった。だから代わりの人間を探していたが、どこもクリスマスの繁忙期とありなかなか代わりが見つからずに景子がぼやいていたのだ。
「それがねぇ……今名乗り出てくれているのが近所の70を超えた老人ばかりでねぇ。うちの子達サンタに思い切りタックルするでしょう? だから転んで怪我でもさせたら困るから頼み辛くってさぁ。ねぇ、楓の知り合いで誰かいい人いない?」
「私の職場は女ばかりだし頼める人はいないよ。でも誰もいないなら私がやるよ」
「あはは、あんたは声ですぐにバレちゃうよ」
「えー? 大丈夫だよぉ。声を低くして顔を髭で隠せばバレないって」
「わかるわかる、楓のその綺麗な声は特徴があるからすぐにバレちゃうわ。まぁクリスマスまではまだ時間があるからなんとか探してみるよ」
そこへ小学校低学年の女児・明子(あきこ)が来て言った。
「ねぇねぇ、サンタさんがどうしたのー?」
明子は二人の会話を聞いていたようだ。
焦った二人はなんとか誤魔化す。
「ううん、なんでもないよ。明子ちゃんはもう食べ終わったの?」
「うんっ! ごちそうさまでした」
「じゃあこの前のお人形ごっこの続きやろうか?」
「やるー」
そこへもう一人の小1の女児・美奈(みな)がやって来た。
「美奈も入れて―」
「よーし、じゃあ行こうか」
そこで小4の男児・徹(とおる)が叫んだ。
「楓姉ちゃん、後でバトミントンもやろーぜ」
「うん、わかった。お人形ごっこが終わったら園庭に行くよ」
「オッケー」
そして楓は明子と美奈に手を引っ張られてプレイルームへと移動した。