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#伝奇
#モキュメンタリーホラー
うちの頭の中でパトランプのように危険信号が明滅する。
やばい。やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい……!
滝のように冷や汗を流しながらうちは思った。
このまま、ただ突っ立っていたら死ぬ。
間違いなく死ぬ。
頭ではそう理解していても、うちの身体は動かなかった。
というか、どう動けばいいのかわからない。怪異に接した時、どう振る舞えばいいかお父さんから何度も教えてもらっているのに、何一つ思い出せない。
蛇に見込まれた蛙。今のうちが正にそれだった。
と、の時だった。
風のような速さでうちのかたわらを駆け抜けーー、シャワールームから這い出そうとしてい
る異形に向かってリョウが突進する。
シュッ!
気合いの声とともに繰り出される鋭い前蹴り。
開きかけたドアの隙間から異形の魚のような頭部に綺麗に命中。
ぎゃぎゃっ……!
汚らしい、としか形容できない叫び声をあげて吹き飛ぶ異形。
リョウは隙を逃さず、その大柄な背中でドアを抑えつけていた。
ああ、そっか……。
一連の流れるようなリョウのモーションを凝視しながら、うちはどこか他人事のように思った。
強い人って言うのは、速い。
実際の動作だけじゃなく、物事に対する判断も。
考えるより先に動く、ということなのかも知れないがそれはそれで立派な生存能力だ。
引っ込み思案なうちにはない能力だが、かといって将棋やチェスのプレイヤーのように物事を理詰めで解決していけるタイプでもない。
うちに出来ることと言えば……。
「何やってる! ボンヤリしてないで――逃げろ、キミカ!」
身体でドアを押さえたまま、血を吐くような声でリョウが怒鳴った。
「コイツは俺が押さえとく!お前はその娘と山を降りろッ!」
その言葉にうちと女子高生は思わず互いに顔を見合わせていた。
女子高生の顔は真っ青で小刻みに震える唇は紫色に変わっている。
鏡がないから確かめようがないけれど、多分、うちも同じようなモンだったと思う。
リョウがまた怒鳴った。
「早く行けっ! そう長くは持たない!」
その言葉に弾かれーー、ひったくるようにしてうちは女子高生の手をつかみ、全力で走り出していた。
背後にリョウと異形が激しく争う物音を聞きながら。