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※またまた別バージョン(もしくは加筆)。日下部の動かし方を迷走中。そして蓮司は口を閉じてくれない(脳内で)……なんか、ずっと喋ってくるんだが……脳内で。



教室には誰もいなかった。チャイムは鳴っていたが、まだ数人が廊下に残っているような気配がある。

日下部は鞄を手に、何かを思い出すように黒板をぼんやりと見つめていた。


「……ねえ、日下部」


声がして、振り返る。

そこにはもう、蓮司がいた。

まるで、最初からそこにいたかのような顔で。


「昨日、あいつ──泣いてたよ」


唐突にそう告げられて、日下部の視線が鋭くなる。


「……おまえ、何をした」


「なにを、ってさ」

蓮司は笑う。わざとらしく首を傾け、悪びれた様子もなく机に腰をかける。


「ただ、ちゃんと聞いてあげただけ。あいつがずっと言えなかったこと、俺には言ってくれたから」


「嘘だ」


「嘘だと思う? あいつ、ずっと吐きたかったんだよ。

“誰にも信じられなかった”とか、“助けてって言いたくなかった”とか──」


日下部のこめかみが、じり、と引きつった。


「おまえに……言ったのか、それを」


「うん。俺の上で泣きながら」


一瞬、教室の空気がぴんと張った。


蓮司は、その沈黙を待っていたかのように、さらに言葉を重ねる。


「なあ、日下部──おまえは“綺麗な人間になりたい”だけなんじゃないの?」


「許してもらおうとか、贖罪とか……そういう都合のいい幻想に、あいつを押し込めてるだけなんじゃないの」


「でも、あいつは──そんなもん、とうに手放してるよ?」


「泣いて、ぐしゃぐしゃになって、それでも俺の手を振り払わなかった。

……あいつ、もう壊れてんだよ」


「“優しさ”なんかで、どうにかできるわけない」


日下部は蓮司の言葉を、一言も遮らなかった。

その目だけが、まっすぐ蓮司を見ていた。


「……おまえがしたのは、“聞いた”ことじゃない。ただ、壊しただけだ」


「そう言うと思った」

蓮司は笑った。今度は、わずかに冷たい笑みだった。


「だけどな──おまえが何もできなかったあいだに、

あいつは俺の中で、何度も壊れて、何度も泣いて、

そして、俺だけにしか見せない顔をした」


「もう、手遅れだよ。

“救える”なんて思ってるうちは、まだおまえ──遠い」


その言葉には、優越でも憎悪でもない。

ただ、「知っている者」としての残酷な宣告だけがあった。


蓮司は立ち上がる。

机から足を降ろし、ゆっくりと歩き出す。


「なあ日下部。おまえ、あいつが“誰のもの”に見えてる?」


日下部は答えなかった。




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