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読み返し発見✨✨ もしや…広告代理店の方も…そうでしょうね💞 みんなお友達💞 読み返し楽し〜😃✌
又々繋がりますね~🥰 小高い丘で天体望遠鏡のぞいてるのは海斗さんと美月ちゃんですね~🤭 明日の事務所は涼平さんに健吾さん✨ まさに瑠璃マリワールドですね🩷
うんうん!望遠鏡🔭を覗いてたのは、海斗さんと美月ちゃんですね! 健吾も、涼平さんもー!イケメンパラダイスだっ✨✨✨
車から降りた二人は、優羽が泊まるホテルへ向かって歩き始めた。
「今日は久々に楽しい酒でした。少し飲みすぎたかな」
「私もです。外で飲んだのはすごく久しぶりで……。もしかしたら流星が生まれてからは初めてかも?」
優羽はそう言った後、
「あっ!」
と小さく叫んだ。
「どうかしましたか?」
「あ、はい。そろそろ流星が寝る時間なので……。すみません、ちょっと流星に電話をかけてもいいですか?」
「もちろん」
岳大は近くの公園にあるベンチを指差してあそこに座りましょうと言ったので、二人はベンチへ向かった。
公園はひっそりとしていたが、よく見ると奥の小高い丘の上で天体望遠鏡を覗き込んでいる男女がいた。望遠鏡の先には煌々と
輝く月がある。
どうやら今夜は満月のようだ。
ベンチに座ると優羽はすぐに実家へ電話をかけた。すると兄の裕樹が出た。
「もしもしお兄ちゃん? 流星はまだ起きてる? うん、そう。今ホテルに戻る所なの。うん、流星に代わって!」
「流星? ママよ! もうお風呂には入ったの? そう、それはおりこうさんだったわね。へぇ、そうなの? それは良かった
わね。うん、え? たけちゃん? うん、今一緒にいるよ。え? うーん、わかった、ちょっと待ってて」
優羽は携帯を耳から話すと申し訳なさそうに岳大に言った。
「流星がたけちゃんと話したいって。少し話してやってくれますか?」
岳大は目尻に皺を寄せて微笑むと携帯を受け取った。そして流星と話し始めた。
「流星君久しぶりだね。おりこうにお留守番していたみたいだね。うん、ママもお仕事頑張っているよ。うん、うん、今度僕も
またそっちに行くから、その時はまた一緒に遊びに行こう! うん、うん、約束だ。じゃあ、ママに代わるね」
話を終えた岳大は携帯を優羽に渡した。すると優羽はまた流星と話し始めた。
「そう、良かったわね。うん、明後日には帰るから、お土産楽しみにしていてね。うん、じゃあね、おやすみなさい。はい、
ありがとう! じゃあね!」
優羽は流星との電話を終えた。
「案外、私がいなくても平気みたい。昔は私の姿が見えないだけで大泣きしていたのに…」
優羽が少し寂しそうな顔で言うと、
「成長しているんですよ、しっかりと。愛情をたっぷり受けて育っている証拠です」
その言葉を聞き、優羽はなんだか褒められたような気がして少し嬉しかった。
「じゃあ、行きましょうか」
二人は再び肩を並べてゆっくりと歩き始めた。
しばらく歩いていると信号があった。信号待ちをしながら岳大が言った。
「鉄道会社のポスターが完成しました。明日から一斉に駅に張り出されるようです。ちょうど優羽さんが帰る時に見られるかも
しれませんね」
「完成したんですね。それは楽しみです。候補の写真はいくつか見せていただきましたが、結局どれに決まったかは秘密って言
われたので、どれが採用されたのかすごくワクワクします。帰りに駅で探してみますね」
一体どんなポスターに仕上がったのだろうか?
一作目のポスターは、偶然にも優羽がいつも見る夢にリンクするようなイメージのものだった。
岳大によると、今度の新作のポスターは一作目と関連性を持たせて続編のような形で作られていると言っていた。
それがどんな内容なのか優羽は気になっていた。
そしてそのポスターが長野へ帰る日に見られるかもしれないのだ。楽しみで仕方がない。
信号が青に変わったので、二人は横断歩道を渡り始める。
そこから二十メートルほど歩くと、右手に洒落たカフェがあった。電気はまだついているので営業中のようだ。
岳大は立ち止まると優羽に言った。
「コーヒーを飲んで行きませんか? ここで完全に酔いを醒ましましょう」
「私もちょうどコーヒーが飲みたいなと思っていたところでした」
岳大は笑顔で頷くとカフェの扉を開けてくれたので、優羽は先に中に入った。
店内では二組の客がコーヒーを飲みながら会話を楽しんでいる。
BGMには切ない曲調の女性アーティストのジャズが流れていて、カフェの中は落ち着いた雰囲気だった。
代々木公園近くのこのカフェは、かなり遅くまで営業しているようだ。
週末の夜、時間を気にせずに語り合うにはぴったりの場所だ。
室内のテーブル席以外に、静かな裏通りに面したテラスもあった。
初秋の風が心地よい夜だったので、岳大は外の席を選んだ。
テラス席へ座ると、岳大がメニューを開いて美味しそうなケーキもあるよと優羽に言う。
「さっきのお食事でもデザートが出たのに…でもこれも美味しそう!」
優羽は食べようかどうしようか悩み始める。
すると岳大が笑いながら言う。
「今日は特別にいっちゃいましょう。流星君には内緒にしておきますから」
「じゃあ、そうします。せっかく東京に来たんだし」
そして優羽はメニューの中から美味しそうなアップルパイを選んだ。
「昔読んだお気に入りの小説の中で、カップルが深夜に都会のカフェに入るシーンがあったんです。で、女性がアップルパイを注
文して美味しそうに食べるんです。それにずーっと憧れていていつか私もやってみたいなって思っていたんですが今日夢が叶い
ました」
優羽はそう言って嬉しそうに微笑んだ。
その無邪気な笑顔に思わず岳大は見とれてしまう。
いつもの母親としての顔とは違う優羽の笑顔を見て、岳大はふいに思い出す。
この笑顔は山荘での結婚式の日に、岳大がカメラで捉えたあの笑顔と同じだという事に。
優羽は一人の女性として、今岳大の目の前にいるのだ。
「こういう時は、一人の女性として思いっきり楽しんでもいいんじゃないかな? 母親としての顔、女性としての顔、君はまだ
若いから色々な顔があっていいんだと思うよ」
穏やかな口調の岳大の言葉を噛みしめるように聞いていた優羽は、微笑んでうんと頷く。
その時、コーヒーとアップルパイが運ばれてきた。
早速アップルパイを頬張った優羽は、
「すごく美味しいです。ほんのり甘くてあったかくて。小説の女性と同じ体験が出来て嬉しいです」
そう言いながら嬉しそうに微笑んだ。
そんな優羽の笑顔を見た岳大は、胸が熱くなるのを感じていた。
今まで感じた事のない感情が、岳大の身体の中を走り抜けて行く。岳大はそんな自分に少し戸惑っていた。
しかしその動揺を悟られないように平静を装いながら言った。
「『peak hunt5』の一号店は、信濃大町での出店を考えています」
「え?」
「僕にとって信濃大町は今の自分を作るきっかけになった町なんです。北アルプスにアタックする時いつも訪れていた思い出の
場所なんです。だから一号店はそこにしようと以前から決めていました」
優羽はまだ驚いた顔をしている。
そして岳大に聞いた。
「もう具体的な場所は決まっているのですか?」
「はい。この前の撮影の帰りに出店予定地の候補をいくつか見て帰りました。そして東京に戻ってからすぐ契約しました。しか
し店作りはこれからです。設計は友人の設計事務所に依頼済みですが、細かい事はこれから色々と詰めていかないと」
岳大は一口コーヒーを飲むと続ける。
「とりあえず明日は設計事務所の友人と共同出資をしてくれる大学時代の後輩、あとは広告代理店の人を事務所に呼んでいます
ので、一緒に打ち合わせに参加してもらいます。そして今月末には撮影で再び信濃大町へ行きます」
「え? 撮影も信濃大町でですか?」
「はい。知人が経営しているキャンプ場で撮影します。そこだったら優羽さんも参加できるでしょう? とにかく寒くならない
うちに全て終わらせないとですね。ちょっと忙しくなりますが」
「信濃大町での撮影なら私も協力させていただきます。うわあ、なんだかワクワクしてきました」
優羽は嬉しそうに微笑むと、またアップルパイを食べ始めた。
優羽の笑顔を見つめながら、岳大は満足そうにコーヒーを飲んだ。
二人の会話は、それからもしばらく続いた。
同じ目的に向かって進む二人の会話は、いつまでも途切れる事はなかった。
新宿の高層ビル街から少し離れたこの場所からも、星は一つも見えなかった。
しかしその代わりに煌々と輝く満月が、強い光を放ちながらいつまでも二人を優しく照らし続けていた。