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『裏の世界』、『こっち側の世界』、『奈落』…全てこの世界の呼び名だ。
表の世界からこぼれ落ちた、そんな世界。どうせお前らもそう思っているんだろう…
「なあ、ネガリシハム…」
横たわるそれに、意味の無い共感を求める。
それは『たぶん』、もう起き上がらない。だがあの薬品はかなり試作初期の段階だった。もしものことがあれば困るのは俺だ。
やるべき事を成すために、メモを持って小さな自室へ向かう。
この世界の真実を知っているのはもう俺だけなのだから。落ち着け、一白風文。大丈夫だ、念の為に空馬も拘束してある。あとは戦争に雲隠れもできるし、このまま…
「…。」
その瞬間、気味の悪い存在が自分の後ろにいる事がわかった。
「…きみは、なにかすごいことをしようとしているね。」
優しいが冷たい声が聞こえる…。これ以上ないくらいの冷や汗が流れ出た。
「…。なあ、取引しないか。」
姿も見えぬ相手に取引をもちかけられるなんて全くおかしな話だ。
「何が欲しい、あいにく俺の持っているものは人にあげられねえ物かガラクタしかないと思うが。」
そう言って振り返ろうとすると、冷たい銃口が俺を制止する。
「僕はノゾムが欲しい。君が今奥の部屋か何かに置いているノゾムが欲しい。」
…こいつはどこまで知っているんだ?『ノゾム』のことも、俺のことも、この世界のことも。
「どうせ俺に拒否権はないだろ、勝手にしろよ。」
「…僕はそんなに横暴じゃないよ。まあ、そういうなら遠慮なく頂いていくけどね。」
銃を突きつけてくる奴はだいたい横暴だと思うが。
「まあ、代わりと言ってはなんだけど…」
「君は死なないよ。」
意図の分からないことを言ってそいつは消えた。一瞬幻覚を見たかと思ったが、ここは本来そういうところだった。
…まさかP&Rの回し者じゃあねえだろうな…。
自室のパソコンからすぐに管理者権限へアクセスする。監視カメラの映像に『ノゾム』は映っていない。
「…何がしたいんだあの男。」
いや、さっきの男が監視カメラに映っているのではないだろうか。そう思い映像を確認すると、そこには顔のない化け物が立っていた。
「…はぁぁ。」
何から何まで悪夢だ…、気味悪いもん見ちまった。
「俺は化け物と取引したのかよ。」
それに、ネガリシハムに一切触れてこなかったのは何故だ?
…考えていても仕方がない、俺にはまだやることがあるんだ。
「よろしくね、ノゾム。僕はシルバー。P&Rでは主に交渉を担当としているんだ。」
例の男はそう言って握手を求めてきた。
「よ、よろしくお願いします…。」
気まずい…、というか一安心したらシハの安否が気になって来た…無事だろうか…。
シルバーの右手を握り返しながら軽く笑う。
きっと上手く笑えていない…これから上手くやって行けるのだろうか…?
考えてみれば、僕は自分の意思で生きてきたことがほとんどない。
あぁ、本当に…面白い話だ。
初めて自分の意思で決めた事が殺人なんて…笑えるよな。