しかし、美琴は疑問に思っていた。
崇矢は望み通り、天馬と付き合うことが出来た。
交わることが出来た。
ならば崇矢は今、自分の家に何をしにきたのか。
「じゃあ、あなたは何をしにきたの?
あなたの天馬くんと付き合いたいっていう悲願は
達成されたんでしょ?望みは叶ったのよね?」
「ああ・・・その通りだよ・・・」
「なら私にはもう要はないはずよね?だって私の仕事はもう終わったんだから・・・」
美琴の疑問に崇矢は薄笑いを浮かべる。
「チッ!チッ!チッ!違うんだよなぁ!これだからバカは困る・・・」
「どういう意味?」美琴は崇矢の真意が理解できなかった。
「俺はやっと天馬と交われた。これから先は天馬と寄り添いながら生きていける。」
次の瞬間、崇矢の顔から笑顔が消えた。
「けどなぁ・・あとひとつ!厄介な問題が残ってるんだよ」
「厄介な問題?」
「お前という存在だよ!柊美琴!」
崇矢は美琴に人差し指を突き立てながら真剣な眼差しでそう言い放つ。
美琴は意味がわからなかった。自分は邪魔などするつもりなどなかったからだ。
美琴自身、親父狩りの事実を口外さえしてくれなければ、あとはどうでも良かったからだ。
「私?どういう意味?」
「全ての真相を知ってるお前という存在は、俺と天馬が歩む今後の人生において
非常に大きな弊害になりかねねぇんだよ」
「弊害?何が言いたいの?」
「俺がここにきた理由は・・・最終段階遂行のためさ!」
「さ、最終段階?」
第一段階は、天馬の自宅へ財布を届けに行く。
第二段階は、偶然を装い天馬と接触する。
第三段階は、天馬の自宅に行く約束をする。
第四段階は、自宅に上がり込み食事座卓をする。
第五段階は、天馬の潜伏先へ崇矢が不在時に突撃し、さらなる恐怖を与えたのちに
天馬の一番の親友である崇矢を包丁で刺す。
「そして最終段階・・・それは・・・」
生唾をゴクリと飲み込む美琴。
「ストーカーの死・・・それで幕引きだ」
「死ってまさか・・・」
「俺はお前を殺すつもりで今日、ここにやって来た」
美琴はなぜ私が殺されなければならないのかを、崇矢に問いただす。
「事の真相を天馬に知られる事は、俺にとっては一番避けたい事態なんだよ!
もしそうなれば、俺は全てを失う」
「私がバラすって疑ってるって事?
バラしたりしないから!命は・・・」
「ダメだね!そもそも論、親父狩りをして、なおかつその事を秘密にするために
こんな事にまで協力しちまう女の話を信用しろって話が無理な話なんだよ!」
それに俺は、人を殺す事になんの躊躇いもないんだ。高校生の時
天馬をそそのかした女を交通事故に見せかけて殺して以来
人を殺す事になんの罪悪感も抱かなくなったんだ・・・俺はそういう人間なんだよ!」
「狂ってる・・・狂いまくってる!
人一人を自分の物にするためだけに人殺しまでやるなんて!狂ってる!」
「安心しろよ!一思いに喉笛かっさばいて楽に死なせてやるから!
少しチクッとするだけで、そのあとは一瞬だ!」
「いや・・・助けて・・・」
しかし、美琴は崇矢に
「でも、こんな事したら警察に捕まるんじゃない?」と言い放つ。
「警察だぁ?」崇矢は薄笑いを浮かべながら、その場にヘタリ込む美琴を見下ろす。
「殺人なんかしたらすぐに警察に」
美琴が最後まで言い切る前に崇矢は
「警察が男である俺を逮捕するのか?」と被せてきた。
美琴は崇矢の言葉の意味がわからなかった。男だからなんだ。男だったら逮捕されないとでも言いたいのか?
「何を言ってるの?男だからなに?」
「俺がこの家に来た時、俺はどんな格好をしてたっけなぁ?覚えてねぇか?」
「ここに来たとき?それは女装を・・・」
美琴には崇矢の恐るべき計画の全貌が見えてきた。
「そう!女の格好をして部屋に入った!男の格好じゃなく女の格好を!
さすがにここまで言えばわかるよな?」
「も、もしかして、犯人は女だと思わせようっていうの?
その為に女装して来たっていうの?」
「その通りだ!大正解!」
美琴は崇矢の恐ろしい計画の前に、なす術もなく泣き崩れるしか無かった。
「さあ!言ってみろよ!警察が逮捕するのは!
男である俺か?
それともこの部屋に入った
存在しない女か?
言ってみろよ!」
「い、嫌・・・・」
「まぁ、警察の連中も、お前の死体を発見したら
とりあえず捜査を始めるだろう! そしてまずやる事は近隣住民への聞き込み調査だろうなぁ・・・
その時、警察はこう言われるはずだ!
事件発生前後に周辺を
彷徨く怪しい女見た!
ってなぁ!」
美琴はあまりの恐怖で言葉が出ない。
今すぐ叫びながら助けてくださいと言いたくても言葉が出なかった。
「我ながら素晴らしい計画だろ?」
(いや・・・やめて・・・お願い・・・)
「お前は俺たちの明るい未来のためその身を捧げるんだ」
(助けて・・・お願い・・・)
「でも怖がる事はねぇよ?これは名誉ある死なんだから」
(死にたくない・・・嫌だ・・・)
「じゃあな美琴ちゃん❤︎」
(いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ)
崇矢は美琴の殺害を終えると、自らの痕跡を全て消しさり、まるで何も無かったかのように
美琴を殺害したことが夢や幻であったかのように
夜道を歌を歌いながら上機嫌に歩いていた。
「ふんふーん♬ふんふーんふーん♬」
「天馬・・・これで俺たちの邪魔をする奴は、この世に誰一人いない・・・
俺と天馬だけのバラ色の恋路が待ってるんだ!」
崇矢は今後の未来を天馬とともに生きていける事にこの上ない喜びを感じていた。
「さ!俺の天馬が待ってる!さっさと帰ろう!」
つづいてのニュースです!
咲夜未明、都内のアパートの一室にて首元を刃物のような物で切り裂かれ
亡くなっている女性が発見されました。
被害者の名前は、柊美琴さん20歳。
近隣住民からの証言によりますと死亡推定時刻とされる深夜1時前より
周辺を徘徊していた怪しい女性を見たとの情報もあり
警察はその女性がなんらかのカタチで事件に関係していると見て捜査を進めています。
「そういえばさ・・あの女殺されたらしいな」
ベッドで横になっている崇矢は天馬にニュースの話をしていた。
「あの女って?」天馬は首を傾げる。
「あいつだよ!ほら!ストーカーの!」
「あぁ・・・美琴さんね・・・」
「世の中には怖い奴がいるよな・・・」
「でも・・・天罰がくだったんだよ!」
「天罰?」
「崇矢にこんな傷を負わせたから」天馬は崇矢の傷を優しくさする。
「天馬・・・」
「やっぱ神様って見てるんだね」
「天馬・・・」崇矢は天馬の体を抱き寄せる。
「どうしたの?崇矢」
「俺は何があっても天馬を護ってやるからな!」
崇矢は天馬に口づけをする。
「もう・・バカ・・・」
天馬は恥ずかしそうに、崇矢の肩をポンと叩く?
(天馬・・・)
(お前は誰にも渡さない・・・)
(天馬は・・・俺の物だ・・・)