テラーノベル
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大理石で造られた広い洗面台。
長方形の籠に並べられた数々のアメニティと、壁に掛けられたドライヤー。
白いプラスチックのコップには、彼が使った紺色の歯ブラシが立てられている。
私は手にしたコップに赤色の歯ブラシを入れ、遠慮がちにその横へ置いた。
髪を束ねていたヘアゴムを外し、洗面台の横に用意されたブラシで、まだ少し湿った髪をとかす。
目の前の大きな鏡に映るのは、メイクを落とした素顔の私。
ブラシを持つ手が震えているのが、鏡越しにも分かる。
大丈夫……
大丈夫……
呪文のように唱えてみても、何が大丈夫なのか自分でも分からない。
緊張が頂点に達した私は、何の効果もないその言葉と深呼吸を繰り返していた。
こんな緊張感は、何年ぶりだろう……。
二つ並んだ色違いの歯ブラシが、いっそう緊張を高める。
扉の向こうには、シャワーを浴び終えた今泉さんが待っている。
「亜紀……自分で望んでここまで来たんでしょ?」
そう……
もう引き返せない。
引き返さないと決めたんだ。
鏡に映る優柔不断な女に喝を入れ、白い肌が覗くバスローブの胸元を整える。
そして最後にもう一度、大きく深呼吸をしてから、彼が待つ部屋の扉を開けた。
オレンジ色のダウンライトが、室内を柔らかく照らしている。
キングサイズのベッドには、ワインレッドのカバーが掛けられていた。
扉を開けてすぐ、視界に飛び込んできたその光景を前に、さらに足が竦む。
「亜紀、そんなところで立ち止まっていないで。こっちへおいで」
バスローブに身を包んだ今泉さんはソファーに座り、こちらへ手を差し伸べた。
隠しきれない緊張で身体を強張らせる私を見つめ、柔らかな笑みを浮かべている。
「は、はい……」
彼と視線を重ねることすら恥ずかしくて、瞳が揺れてしまう。
遠慮がちに上げた目に映ったのは、ローブから僅かに覗く首筋……胸元……足。
控えめな淡い光に照らされた彼の姿が、妙に艶めかしく感じられ、思わず視線をソファーへ逸らした。
「それとも、俺が迎えに行った方がいい?」
「えっ! ……い、いえ。大丈夫です」
「このまま待ってたら、逃げ出しそうな顔してるよ」
「そんなっ、逃げ出したりしません! 私は本当に今泉さんに……」
――『抱かれたい』
最後の言葉を口にすることができないまま、震える身体は彼の腕の中へ引き寄せられた。
「……ほら、こんなに震えてる。大丈夫だから……怖がらないで、亜紀」
彼は壊れものを扱うように、優しく私の頬を撫でる。
そして、すっぽりと腕の中に収まった私の身体を、ぎゅっと強く抱きしめた。
触れ合う肌から伝わる彼の体温と、胸の鼓動。
今泉さん……
温かい……
とても……。
甘美な魔法をかけられたように、強張っていた身体から次第に力が抜けていく。
「怖くない……今泉さんだから……怖くないです」
私は彼の背中に両手を回し、広い胸の中でそっと瞼を閉じた。
「亜紀……」
吐息にも似た柔らかな声が、私の名を呼ぶ。
顔を上げると、彼の瞳が真っ直ぐに私を見つめていた。
互いの瞳の中に映る自分の姿を見つめながら、私たちは強く抱き合い、長く深い口づけを交わした。
……
……
素肌を重ね、濃厚な口づけを交わしていく。
「亜紀……」
熱っぽく名を呼ぶ低い声。
彼の熱い吐息が耳元に落ち、私はびくりと身体を震わせた。
「亜紀……綺麗だ……」
囁く声はどこまでも甘く、身体の芯まで熱く焦がしていく。
彼はまるで感触を確かめるように、露わになった乳房へと唇を滑らせる。
優しく唇を寄せ、慈しむように口づけを落としていく。
彼の舌に捕らわれた先端は痛いほどに赤く膨らみ、円を描くように揉み上げられるたび、身体の奥がじんと痺れだす。
「……んっ……ああっ……今泉さん……」
激しい羞恥の中、与えられる感覚に耐えきれず、吐息が甘い喘ぎへと変わった。
コメント
1件
うわあああああ第70話、ついに…!😭💕💕 亜紀の緊張が手に取るように伝わってきて、こっちまでドキドキしちゃった…!歯ブラシが並んでるだけでこんなにエモくなるなんて反則だよ…!今泉さんの「大丈夫だから…怖がらないで」の優しさに胸がギュッてなった🥺❤️ 二人の距離が確かに縮まってるのが分かるし、亜紀が自分で決めて進んだ勇気、すごく尊い…!次が気になりすぎる〜!!🌸
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