その頃、良輔は自宅にいた。
良輔はソファーに座り青ざめた表情でスマホをじっと見ている。
先ほどまで絵里奈とメッセージのやり取りをしていた。
そのやり取りの内容な次のようなものだ。
【最近連絡がないけれど、もしかして私の事嫌いになった?】
【そんな事はないよ。忙しかったんだ、ごめん】
【じゃあ絵里奈を放っておいた罰に、今度温泉旅行に連れて行って♡】
【ごめん…当分土日は接待やらなんやらで予定が詰まっているんだ】
【本当? なんか嘘っぽい】
【いや、本当に忙しいんだよ!】
【だったら明日資料室に来て! そうしたら許してあげる!】
【おいおい…もう会社での行為はやめないか? 誰かに見つかったらまずいぞ】
【大丈夫よ、資料室なら誰も来ないし。もし来てくれなかったら、絵里奈欲求不満で変な事を口走っちゃうかも】
【口走るって何をだよ?】
【フフッ♡ 私達のコト♡】
【おいおい勘弁してくれよー、誰にも言わないって約束だろう?】
【えーっ? そんな約束したかなぁ?】
絵里奈のしらじらしい返事を見て良輔は少しイラつく。
【わかったよ…明日の午後2時に行くから】
【うん♡待ってる♡】
良輔はそのやり取りをもう一度読み返すと、重いため息をついた。
(あいつ…出会った頃のしおらしさは一体どこへいったんだ? どんどん調子に乗って色々な要求をしてくるようになった
な…)
良輔は再び重いため息をつく。
そして今度はスマホで銀行口座の残高をチェックした。
良輔はマンション購入費用の為の専用口座を作っていた。
そこには、結婚前から計画的に貯金をしている。
貯金が貯まったら凪子の貯金と合わせて、マンションを購入する予定だ。
絵里奈と付き合う前までは着実に増えていた残高も、ここ数ヶ月は減る一方だ。
特にこここ最近減るスピードは加速している。
絵里奈と会う時は絵里奈の自宅か安いラブホテルを利用しているので、
それほど金はかかっていないはずだったが、良輔はそれ以外の出費が支出を圧迫している事に気づく。
元々、家計管理はどんぶり勘定の良輔は細かい収支をつけていない。
そんな大雑把な良輔でも、明らかにこの減り方はおかしいと気付く。
今までの出費の多くは、絵里奈と行く高級レストランの代金やドライブに行った時の行楽費用だ。
しかし最近急激に増えているのが絵里奈のおねだりだ。
絵里奈は付き合い出してしばらくすると、良輔に様々な物をねだるようになった。
最初はノーブランドのバッグや靴だったが、最近は高級ブランドのバッグやセレクトショップの服を欲しがる。
それも一回に10万円前後の品を、平気でおねだりしてくる。
最初の頃は、良輔も言われるがままに買い与えていた。
絵里奈との刺激的なセックスにハマってしまった良輔は、絵里奈の望み通りの物を買い与えていた。
自分が既婚者だという後ろめたさもあり、せめて高価なプレゼントを贈って絵里奈の機嫌を取ろうという
気持ちがあったのは確かだ。
しかし、最近は全く気乗りがしない。いや、逆に危機感すら覚える。
なぜなら、要求を聞けば聞くほど絵里奈からのリクエストはどんどんエスカレートしていくからだ。
このままではさすがにまずいと思った良輔は、以前一度だけ絵里奈のおねだりを断った事がある。
すると絵里奈はこう言った。
【買ってくれないなら会社で言っちゃおうかなぁ? 私達の関係♡】
その言葉を思い出し良輔は深いため息をつく。
(凪子と住むマンションを買う為に貯めた金なのに…)
良輔は、今になって絵里奈の誘いに乗ってしまった事を後悔していた。
この事が凪子や会社にバレたらと思うと夜も眠れない。
自分はなんと愚かな事をしてしまったのだろうと悔やむ。
もうすぐ係長から課長への昇進が控えている。
ただでさえ大事な時期なのに、社内の女に手をつけてしまうとは浅はかだった。
もし今不倫が発覚したら昇進の話はパーだ。
良輔は座ったまま思わず頭を掻きむしる。
その時、外で車のドアが閉まる音が聞こえた。
マンションの前にタクシーが停まったようだ。
(凪子か?)
良輔はすぐに立ち上がるとカーテン越しに窓の外を見た。
するとそこには、タクシーの横に立つ凪子の姿があった。
凪子はタクシーに向かって笑顔で手を振っている。
凪子が手を振っている相手は、戸崎信也だった。
信也はタクシーの窓を開けると、凪子へ何かを言い残してから、
手を振りながらタクシーで走り去って行った。
そんな二人を見た良輔は両手をギュッと握り締めると、寝室へ行きベッドの中で寝たふりをした。
コメント
1件
焦る良輔😓絵里奈にも舐められて信也さんには凪子さんが靡くかと気が気でならない🤭自分で墓穴掘ったんだからしっかり清算なさってね😡💢