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翌朝、凪子がシャワーを浴びてリビングへ行くと良輔がネクタイを締めていた。
昨夜凪子が家に帰った時、良輔は既に寝ていたので二人が話すのは昨日の朝以来だ。
「昨夜は誰と会食だったの?」
「戸崎さんよ。どうして?」
「ううん…別に…」
良輔は言葉を濁す。
今日凪子は、起きた時から機嫌が良かった。
バスルームからは鼻歌も聞こえていたので昨夜は何かあったのだろうか?
良輔は気になっていた。
一方凪子は、良輔の様子がいつもと違うので少し警戒する。
そしてあえて明るい声で言った。
「戸崎先生、今度ウエディングドレスのプロデュースを始めるんですって! 自分は結婚の経験がないから既婚者の私の意見を聞かせてくれって頼まれちゃったの」
信也の新規事業については営業部へも伝わっていたのでもちろん良輔も知っていた。
だから、凪子が嘘を言っていない事はわかる。
「そっか、大変だな遅くまで!」
「うちの新ブランドの件でこれからお世話になるから、このくらいの恩返しはしないとね」
凪子はそう言って笑った。
良輔はいつものように先に家を出た。
そして駅へ向かいながら昔の事を思い出していた。
それは凪子が知らない事だった。
あれはまだ良輔と凪子が付き合い始める前の話だ。
ちょうど良輔が凪子へアタックをしている最中だった。
その頃凪子は、ちょっとした交通事故にあった。
交通事故と言っても命にかかわるようなものではなく、
肩の脱臼と擦り傷程度の怪我で済んだ。
しかし倒れた際に頭を打ったので、念の為数日間の入院を余儀なくされる。
当時、凪子と組んで仕事をしていた良輔は、
凪子が入院している間毎日仕事を早く切り上げて病院へ通った。
その頃の良輔に対する凪子の気持ちは兄のような存在だったと思う。
毎日仕事で接するうちに良輔に対する信頼感は芽生えていた。
あともう一押しで凪子がなびきそうな時に凪子が事故で入院となったので、
良輔は献身的に凪子に尽くした。
そんな中、凪子の入院初日に良輔は病院であの戸崎信也と出くわした。
凪子が事故にあった日の夕方、急いで病院へ向かった良輔の前に信也がいた。
信也はナースステーションで凪子の病室を聞いている所だった。
信也は凪子が好きなひまわりの花束を手にしていた。
その当時、社内では凪子が信也と交際しているのではないかという噂が流れていた。
凪子がまだ入社したての頃、凪子は信也のファッションショーを手伝いに行った事がある。
その際、出演予定のモデルが急病になり、急遽モデル経験のある凪子がその代役を務めた。
それ以降二人は急激に親しくなり、そのまま交際に発展したのではないかと囁かれていた。
結婚後凪子にその事を聞くと、あれは周りが勝手に噂をしていただけで真実ではないと笑った。
しかし当時の良輔は信也に対抗心を燃やしていたので、病院に見舞いに来た信也に対してこう言い放った。
「実は私と凪子は最近付き合い始めました。ですから凪子の世話は私がしますのでどうかご心配なく」
その言葉を聞いた信也はかなり驚いていた様子だった。
そして少し強い口調の良輔から、
『自分の恋人に近づくな』
という気配を察知したのだろう。
そこで信也はフッと微笑むと言った。
「そうでしたか。では私はこのまま失礼いたします。お花だけ彼女に渡していただけますか? お大事にとお伝え下さい」
そして良輔に花束を渡すとその場を後にした。
信也の後ろ姿を見ながら、良輔は呟いた。
「フンッ、二度と凪子に纏わりつくなよ!」
それから良輔は男子トイレへ行くと、トイレのゴミ箱へ花束を捨てた。
そこで急にハッと我に返る。
(そんな事もあったな…あの時アイツに嘘をついてまで凪子を手に入れたっていうのに、俺は一体何をやっているんだ)
良輔は深いため息をつくと、重苦しい表情のまま駅の構内へ入って行った。
コメント
2件
なんとなんと… つくづく残念な男だわ
本当だわ💢何やってんの良輔⁉️信也さんを追っ払って凪子さんを手に入れたんじゃないの??なのに今は若さだけの絵里奈に尻尾振ってイチャコラなんて呆れてものが言えない🙅♂️ 凪子さんも知らないだろうけどいただいた🌻の花束も捨てるなんて正気と思えない❌こんな奴は勝手に絵里奈と奈落の底に落ちてしまえばいいよー‼︎