翌朝、華子は七時に目が覚めた。
ワインのお陰で朝までぐっすり熟睡していた。だから陸が何時に帰って来たのか知らなかった。
華子はベッドから起き上がると部屋の外に耳を傾ける。
リビングでは既に人が動く物音がしていた。
(帰りが遅かったのにもう起きてるんだ)
華子はそう思いながら着替えを手にしてバスルームへ向かった。
バスルームは既に陸が使った形跡があるので、彼は相当早く起きたのだろう。
華子は以前自衛隊特集のテレビで、自衛官がラッパの音で早朝に起きる様子を見た事がある。
(元自衛官だから早起きには慣れているのね)
華子は納得kしたようにフフッと笑うと、バスタオルを洗濯機へ放り込む。
その時、陸が昨日着ていた服が中に入っているのが見えた。
「あっ、また! 黒いTシャツはネットに入れないと駄目なのに」
華子は呆れたように呟くと、陸のTシャツを取り出してネットに入れた。
その時、他の洗濯物からふわりと香水の匂いが漂ってきた。
その香りは、銀座のクラブで先輩ホステスがつけていたハイブランドの香水と同じものだ。
華子は毎日そのキツイ香りを嗅いでいたので覚えている。
「仕事関係の会食とか言ってたけど、本当は女と会ってたんじゃないの?」
華子は思わず憤慨したように言った。
男はやっぱり平気で噓をつく生き物なのだ。
しかしそこで華子は気付く。陸が他の女とデートしても華子には一切関係ないという事に。
そこで思わず苦笑いをした。
(私ったらつい重森との事を思い出していたのね、馬鹿みたい。陸が何をしたって彼の自由なのに…)
華子はフーッと息を吐くと、気を取り直して洗濯機のスイッチを押した。
シャワーの後、一旦部屋に戻ってメイクをしてからリビングへ向かう。
ドアを開けて中へ入ると同時に、陸が声をかけてきた。
「おはよう」
「ん…おはよ!」
華子はそっけなく返事をすると、今日はダイニングテーブルの椅子へ座った。
そしてスマホをいじりながら陸をチラリと見る。
バターの良い香りが漂っているので、今日はスクランブルエッグかオムレツだろう。
「昨日はちゃんと最後まで仕事を頑張ったようだな」
「ええ、お陰でもう足がクタクタよ」
「ハハッ、そのうち慣れるさ。あ、それと洗濯物サンキューな」
華子は一瞬何の事かと思ったが、
(ああそうだ、昨日は陸の洗濯物も一緒に洗ってあげたんだわ)
と思い出し、
「ついでだから気にしないで」
そう言ってテレビのチャンネルを変えた。
「それにしても、畳み方が見事だったな。結構几帳面なんだな」
「そぉ?」
華子はどうでもいいわといった様子で返す。
それから陸に聞いた。
「ところで昨日は何時に帰って来たの?」
「ここに着いたのは0時過ぎかな」
「ふぅん…お盛んです事!」
華子はつい嫌味っぽく言った。
香水の事は黙っておこうと思ったのに言葉が勝手に口をついて出る。
「お盛ん? 何の事だ?」
「ううん、別に…」
「言いたい事があるならはっきり言えよ」
陸は華子の顔を見て言った。
「じゃあはっきり言うわね! 洗濯機を回そうとしたら中から女物の香水の匂いがプンプンしたからお盛んなのかなーって思っ
ただけ!」
「女物の香水? ん? ああそう言う事か!」
「ほらみなさい。心当たりがあるんじゃない」
華子がドヤ顔で言う。
すると陸は穏やかに言った。
「昨夜は会食相手の社長が娘を連れて来たんだよ。彼女はかなりキツイ香水をつけていたからなぁ…その香りが服に移ったんだ
ろう。店は個室だったし…」
その口調に嘘をついている様子はない。
「ふぅんっ、なんだ、つまんないの!」
華子はムスッとして言うと、陸からプイッと顔を背けてテレビの方を向いた。
その様子が可笑くて、陸はクックッと笑いながら言った。
「今は特定の恋人はいないから安心しろ」
その言葉に、思わず華子が振り向く。
「安心しろってどういう意味よ」
「家に連れて来るような女はいないし、女のせいで君を追い出すような事もないから安心しろっていう意味だよ」
陸がニヤッと笑いながら言った。
その表情になぜかカチンときた華子は、
「それはそれはお気遣いありがとうございますっ!!!」
と、ムキになって怒鳴る。そして更にイライラした様子で続けた。
「ご飯はまだなの?」
「今出来たよ」
陸は必死に笑いをこらえながら、出来立てのスクランブルエッグを皿へ盛り付けた。
コメント
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二人とも無意識だけれど、お互いを意識しだしてるよね⁉️ 陸さんは 華子チャンの意外な女子力の高さや薄化粧の彼女の美しさにドキッとさせられ 外にいても彼女のことをふと思いだし、華子チャンは 陸さんの肉体美にドキッとしたり モテモテの彼に他の女が近づくと 無意識に焼きもちを妬いてる....🤭💞 いつかそれが恋心に変わっていくのかな....❓️♥️ウフフ....
受け答えがうけたわ笑っ😙
華子と陸さん、どっちが主人?ってくらい華子のイライラ😖対応にも陸さんは大人の返し🧑 陸さんは重森や愛人の件も理解して子猫華子にも感情的にならずに洗濯🧺のお礼も伝えてご飯🍚も作ってくれて感謝すべき所だと思うけどね😓 こういう人が華子のそばにいてくれると良いなぁ🙆