ミンサー工芸館を後にした二人は、市街地にある店でお昼を食べた。
八重山そばが食べたかったので、ミンサー織を教えてくれたおばちゃんに近くの美味しい店を紹介してもらった。
地元の人が勧める店だけあってそばは絶品だった。
昼食を終えた二人は、ヤエヤマヤシが自生しているヤエヤマヤシ群落へ行ってみる事にした。
到着するとヤシが群生している森の中を散策してみる。
人の手を加えられずに自然のまま残されたヤシの森は、とても野性的な雰囲気だ。
日本にこんな場所があったのかと思うくらいその森は野趣に溢れていた。
健吾もここは初めてだだったようでヤシの森を珍しそうに見回していた。
遊歩道にはヤシの木の根っこがゴツゴツと飛び出ていた。
上を見上げながら歩いていた理紗子は、その根っこに足を取られて転びそうになる。
その時咄嗟に健吾が理紗子を受け止めた。
理紗子は背中に回された健吾の逞しい腕に一瞬ドキッとしたが、
「ありがとう」
と、平静を装って言った。
「でこぼこ道で危ないから、ほら!」
健吾はそう言って理紗子に手を差し出す。
理紗子は驚いたが、
「うん」
と頷くと、差し出された手を素直に握った。
それから二人は森の中を手を繋いで散策した。
結構な距離を歩いたようで、森から出て来た時には二人の喉はからからだった。
ちょうど駐車場の脇にフルーツのジューススタンドがあった。
健吾がジュースを飲もうと言ったので、理紗子はパインジュースを、そして健吾はドラゴンフルーツジュースを頼んだ。
二人は車に戻ってジュースを飲んだ。
理紗子はパインジュースを一口飲んだ後言った。
「ドラゴンフルーツってどんな味なの?」
すると健吾が、
「ほらっ」
と言って自分のストローを理紗子に向けた。
(えっ? これってもしや飲めって事?)
理紗子は一瞬躊躇したが、健吾は全く気にする様子もなくごく自然に差し出したようだ。
ここで拒否するのも自意識過剰だと思われそうなので、仕方なく理紗子は健吾のストローを使ってジュースを飲んだ。
「甘い! 意外とあっさりしてる?」
「うん、飲みやすいね」
健吾はニッコリ笑って言うと、
今理紗子が口をつけたストローをくわえて再びジュースを飲み始めた。
理紗子はなんだか少し調子が狂っていた。
その理由は自分でも分かっていた。
それはきっと健吾に肩を抱かれたり、手を繋いだり、間接キスをした事が原因だ。
なぜなら理紗子が男性に触れられるのは久しぶりだったからだ。
(こんな事でドキドキするなんて馬鹿みたい)
そう自分に突っ込みを入れつつ可笑しくなる。
自分にもまだこういう感情が残っていたのかと驚くと同時に、そういう感覚が懐かしくもあった。
(でもこれじゃあまるで本物のデートみたいだわ)
理紗子が頭の中であれこれ考えているというのに、健吾はいつもと変わらない。
(私だけが自意識過剰なの?)
理紗子がそう思っていると、
「じゃあ、そろそろ次に行こうか」
健吾は石垣島の北部を目指して車をスタートさせた。
次はいよいよ島の最北端を目指す。
そこには三つ目の灯台、平久保崎灯台があった。
島の北側は、黒毛和牛の放牧地帯が広がり民家や建物も少なく比較的のんびりした地域だ。
理紗子はその最北端の地を楽しみにしていた。
車が快適に進んで行く中、健吾が思い出したように言った。
「理紗子の帰りの飛行機キャンセルしておいて。帰りは俺と一緒のチケットを取っておいたから同じ飛行機で帰ろう」
「えっ?」
「今の時期は結構空港で知り合いに会うんだよね。投資家仲間は9月に旅行に行くやつが多くてさ。だから俺が一人で空港にいたらまずいだろう? 念には念を入れなくちゃね」
理紗子はそれを聞いて驚く。
そこまで偽装工作をしないといけないのだろうか?
その偽装工作の為だけに、健吾は一体どれだけ無駄なお金を使っているのだろうか?
健吾に出会ってから、いつも支払いは健吾がしてくれる。
理紗子が払おうとしてもいつもやんわりと拒否される。
本物の恋人でもないのに、果たしてここまで甘えてしまって良いのだろうか?
「あの、なんかずっと全部払って貰っているので、なんか申し訳なくて…私も少し払いますから」
「そんな事は気にしなくていいよ。それは最初に約束した事だから」
「でも…….」
「君には既に色々協力してもらっているし」
「協力?」
「うん。さっきホテルを出る時にずっと横にいてくれただろう? あれだけでもすごく助かるんだよ」
「ああ、さっき、あのファンの方が声をかけてきた時?」
「そう。さっきは言わなかったけれど、ああいう女性が俺のセミナーにはわんさと来るんだ。だから俺だっていちいち女の顔なんか覚えていない。三年くらい前だったかな? その頃毎回セミナーに来る女性がいてね。ある日家までつけられていたようで住所がバレてしまったんだ。それ以降その女性が俺のマンションの前で待ち伏せをしたり急に訪ねてきたりして散々な目にあったんだ。そんな事がしょっちゅうだから、横に君がいてくれるだけでかなり助かってる。だから支払いの事は全然気にしないでくれ」
理紗子は驚いていた。
ストーカーの被害者は常に女性なのだと思い込んでいたが、まさか男の健吾がストーカー被害にあっていたとは。
(それだけこの人には女性を惹きつける魅力があるのね)
理紗子はそう思いながら、
「すみません、じゃあお言葉に甘えて」
恐縮しながら健吾に言った。
コメント
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理紗子ちゃん🩷間接キスとか手つなぐとかにドキドキ💓もう〜かわゆい💠 それと健吾は思いっきりデートとしてると思ってまーす🤭 だって長年の想い人であって、そして期待を裏切らない理紗子ちゃんだったんだから〜😍✨ほら勝手に理想像に作り上げちゃって実際は…ガッカリ😞ってあるあるだし。 健吾はとっくにメロメロ〜デレデレ⸌̷̻( ᷇〰 ᷆◍)⸌̷̻♡⃛フニャフニャ
健吾さん、グイグイ行きますね~😍💕💕 理紗子ちゃん、全然自意識過剰とかじゃあ無いよ... 健吾さん、2年前からずっと貴女にゾッコンなのよ❤️♥️♥️🤭 帰りの飛行機も予約し、 仲良く一緒に帰るのね⁉️😁✈️💕 理紗子ちゃんを狙う送り狼が現れたり、健吾さんを狙う困ったお嬢様がいたりと....ハプニング続出だけれど💦 二人の仲が より深まる 素敵旅になりますように🏝️✨
理沙ちゃん❣️健吾のその言葉は上部の言葉だからね😊本心はもっと近づいて恋人アピールが本心なんだよ🤭❤️ 健吾が2年前から思い続けてるのは理沙ちゃんだけでこれからもきっとそう╰(*´︶`*)╯♡ だからずーっと健吾の横で理沙ちゃんも健吾への恋心を育てて遠くない未来に相思相愛になってね🤭💞🙌