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第1話 見知らぬ湖畔
修学旅行から数日後、男子高校生・石野直也のもとに赤いきっぷが届いた。
短く刈りそろえた黒髪に、少し幼さの残る丸顔。黒縁のメガネの奥にある瞳は、疲れ気味ながらも好奇心を隠せない。
「……なんだ、これ」
きっぷには“バス・電車 一日きっぷ”と印字されている。日付は、まだ訪れていない週末の日付。
半信半疑で週末、直也はきっぷを持って出かけた。
バスに乗ると、いつのまにか周囲の景色は修学旅行で訪れた町から外れ、森に囲まれた細道へ。窓の外を見回すと、同じ制服の同級生たちは誰もいない。乗客は彼一人だった。
やがてバスは、地図にない湖畔に停車した。夜の水面に、数え切れないほどの提灯が浮かび上がっている。まるで湖自体が、光の群れを飲み込んでいるかのように。
直也は降り立ち、湖に近づいた。提灯のひとつに、見覚えのある名前が墨で記されているのに気づく。
それは修学旅行で同じ班だった同級生──「坂口遼」の名前だった。
だが坂口は、旅行の帰り道で事故に遭い、二度と戻らなかったはずだ。
直也のメガネに、提灯の光が映り込み、不自然に揺れた。
次の瞬間、湖面から顔だけを出した水のような“人影”が、彼をじっと見つめていた。
湖畔に風はないのに、彼の赤いきっぷだけが震えていた。