太田豊太郎
彼女は驚いて異国人である俺の顔を見つめたが、
太田豊太郎
俺の率直な思いが態度に出ていたのだろう。
エリス
「あなたはきっといい人なのでしょう」
エリス
「残酷なあの人とは違って。あるいは、私のお母さんのように……」
エリス
………っ、…………。
太田豊太郎
一瞬止まっていた涙の泉はまた溢れ出し、その愛らしい頬を流れ落ちた。
エリス
「私を救ってください。母は私が彼の言葉に従わないといって殴るのです」
エリス
「父が亡くなったのです。明日にはお葬式をしないといけないのに、家には一線の蓄えもなくて……」
太田豊太郎
あとは泣き声が聞こえてくるばかり。
太田豊太郎
俺の眼はこのうつむいた少女のうなじばかりを見つめていた。
太田豊太郎
「君の家まで送っていくから、まずは落ちついて」
太田豊太郎
「ここは道端だから、あまり大きな声で会話をするのはよくないでしょう」
太田豊太郎
彼女は事情を話すうちに、思わず俺の肩によりかかっていたが、
エリス
……っ!
エリス
ご、ごめんなさい
太田豊太郎
このときふと顔を上げ、初めて俺を見たかのように、恥ずかしがって俺から離れた。
太田豊太郎
他人に見られるのを避けるため、速足で歩く少女の後について、
太田豊太郎
教会の筋向いの大きな扉に入れば、あちこちが欠けた石の階段があった。
太田豊太郎
これをあがると、四階に腰をかがめて通るほどの扉があった。
太田豊太郎
少女が鍵代わりの錆びた針金をまわし、手をかけて強く引くと、
太田豊太郎
中からしわがれた老女の声がして、
エリスの母
誰!?
太田豊太郎
と聞いてきた。
エリス
エリスです。今帰……
太田豊太郎
というまもなく、扉を荒々しく開けたのは、
太田豊太郎
半ば白くなった髪、悪人顔というのではないが、貧困の跡を額に刻んだ老婆で、
太田豊太郎
古くなった毛皮の服を着て、汚れた上靴をはいている。
エリス
ちょっと待っててね
太田豊太郎
エリスが俺に断って中に入るのを、老婆は待ちかねたように、俺の目の前で戸を激しく閉めた。
エリスの母
バタンッ!!
エリスとの出会いは、豊太郎に何をもたらすか。続く