シーン1 ―― 速報
20XX年。東京。
その日の朝は、やけに静かだった。
ニュースサイトには「第7番崩壊、六本木で発生」という速報が流れていた。また一つ、街の一角が消えた。ビルごと、人ごと、記憶ごと――まるで最初からそこには何もなかったかのように。
政府はこれを「原因不明の地盤沈下」と説明していた。
しかし月島凛は、その嘘を知っていた。
凛
七回目だよ。もう七回目。それでもまだ"地盤沈下"って言い張るの、この国
悠
おい、声でかいぞ。カフェの中だぞここ
凛
関係ない。誰も信じてないから。みんなスマホ見てる。見てるけど、見てない
悠
……また徹夜か?目の下やばいことになってるぞ
凛
寝てる時間があったら調べてる。悠、送ったデータ見た?
悠
見た。正直……ぞっとした
凛
でしょ
悠
七回の崩壊、全部に共通点がある。崩壊する四十八時間前に、その地点の半径五百メートル以内で——
凛
"大規模な虚偽の情報発信"が観測されてる
悠
……お前もう気づいてたのかよ
凛
三回目の崩壊の後から。最初は偶然だと思ってた。でも七回全部一致するのは、偶然じゃない
悠はコーヒーカップを置き、テーブルに身を乗り出した。
悠
凛、これ本当にやばい話だぞ。嘘が、街を消してるってことだろ?そんなこと、物理的にありえるのか?
凛
ありえないと思う?七回起きてるのに?
悠
……理屈が通らない
凛
理屈が追いついてないだけ。現象は先に起きてる
悠
でもそれを記事にしたら……お前、消されるぞ。比喩じゃなくて、本当に
凛
わかってる
悠
わかってて——
凛
だから一人でやってる。悠には迷惑かけない
シーン4 ―― 知らない番号
その時、凛のスマホが震えた。
知らない番号。
迷わず出た。
橘
月島凛さん、ですね。今、安全な場所にいますか
凛
……誰ですか
橘
橘奈緒といいます。政府情報管理局、第三課。あなたが調べていること——私も、同じことを調べています
凛
は?
橘
嘘が世界を殺す、そのメカニズムを止めるために
シーン5 ―― 決断
凛は悠と目を合わせた。
悠が声もなく口を動かした。
悠
(でるな)
凛
……どこで会えますか
悠
おいっ!
橘
二時間後。新宿御苑、東門。一人で来てください。でないと、私が消えます
通話が切れた。
カフェの中で、誰かが笑い声を上げた。
テレビのニュースが「崩壊した地区に住民はいなかった」と報じていた。
また嘘だ、と凛は思った。
悠
絶対罠だろ。政府の人間だぞ?
凛
でも知ってた。私が調べてることを
悠
だから怖いんだろうが!
凛
悠
悠
なんだよ
凛
もし私が消えたら——私のパソコンのデータ、全部世に出して
悠
……は?
凛
それだけ頼む
シーン6 ―― 出発
凛は席を立った。コートを羽織り、振り返らずに歩き出した。
悠
待てよ!せめて場所共有しろ!バッテリー切るなよ!あと絶対死ぬな!
凛は小さく笑った。
外は曇っていた。
東の空に、うっすらと歪みが見えた。
まるで、世界の縫い目がほつれているみたいに。






