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ポストが悲鳴をあげた直後、

渋谷は足と背中で排気ダクト内にブレーキを掛ける。

ダクトは狭く、直立体勢のまま目的の最下部まで降りては身動きが取れない。

そのため一つ上の階で建物内部へ侵入する算段だった。

ポスト

なぁ、ホントにここか?

横穴に這い上がり、腹這いに進む渋谷にポストが問う。

ポスト

自信満々だけど、目的ってどこだっけ?

渋谷大

地下3階

渋谷大

1階はエントランスと応接スペース

渋谷大

地下1階が職員用食堂

渋谷大

地下2階が雑品倉庫で、
地下3階は薬品倉庫

渋谷大

地上階は全部工場とオフィスになってる

渋谷大

心配しなくっても、ちゃんとここ、地下2階だって

渋谷大

その証拠にホラ、吸気口から下見てみろ

渋谷大

制服着たOLさんばっかだろ?

ポスト

……マジだ

ポスト

でもOLさんだって、薬品倉庫にくらい……

渋谷大

本のくせにモノ知らないのなお前

ポスト

おぉん!?

渋谷大

ガラ悪いな!

渋谷大

薬ってのはな、安全に調合されてるもん以外は全部ヤバいの

渋谷大

風邪薬の主成分だって、犬猫にはただの毒だ

渋谷大

そんなもんがゴロゴロ保管されてるところに

渋谷大

普通の事務仕事してるお嬢さんは突っ込まねぇよ

ポスト

……それ誰に聞いた?

渋谷大

昔、うちの相棒から

ポスト

お前らの学生時代とやらが気になって仕方ねー

渋谷大

そのうち気が向いたら話してやるから

渋谷大

それよか、今はお嬢さん達の話の内容が気になるの

渋谷大

シーッ、な

吸気口に極力耳を寄せ、眼下の会話に耳を澄ませる。

OL1

……急に監督署の人が来るなんてねー

OL2

工場長が顔色変えて走っていったの見た?

OL2

めっちゃ必死だったよ

OL1

うちの次長にまで話回ってきてさ

OL1

上役全員大慌てしてたもんね

OL3

念のためって、ここの部屋の施錠言いつかるくらいだしなー

OL2

この階あれでしょ?

OL2

ほら、社員寮引き払われた人らがさぁ

OL3

そうそう、住まされてる部屋があるから!

OL3

さっき確認で部屋の中開けたけどさ

OL3

人が住めるような場所じゃないよー

OL1

苔原くんだっけ?

OL1

あの子もかわいそうだよね

OL2

ね。お兄ちゃんいなくなった途端、こんなとこに住まされてさぁ

OL3

でもあの晩勤務してた人、数人一気に失踪でしょ?

OL3

怪しすぎない?

OL1

それはほら、きっとさぁ

OL1

……触れない方がいいんだよ

OL2

ヤダヤダやめてよ、その言い方怖い!

OL3

そろそろ戻ろ!

OL3

平和な普通の工場ですアピールしなきゃ!

はしゃいだ声を上げ、OL達が走り去っていく。

渋谷大

……社畜どころか奴隷扱いらしいな

ポスト

人間は、種族保存の法則ってのを他者に適用しないのか?

ポスト

自分以外の同種を磨り潰してると、そのうち血脈の保存もできなくなるぞ

渋谷大

……お前が最初にこっちで仕えたの、ハプスブルク家だっけ

渋谷大

あれ見てりゃあ言いたくもなるか

ポスト

俺は止めたんだけどねぇ

渋谷大

人間てのはめんどくさい生き物だからなぁ

渋谷大

とりあえず、上の連中は完全に悟に翻弄されてるらしいな

渋谷大

予定通り、今度こそ最下階に行くぞ

小型機器のスイッチを入れ、吸気口を外してするりとフロアに降りる。

ポスト

おい、さすがにこんな堂々と降りたら見つかるだろ!

ポスト

監視カメラとかあるんじゃないのか!?

渋谷大

さっきジャミング起動させたから大丈夫

渋谷大

装置の起動次第、地下2階以下の監視カメラが遠隔操作不能になる

渋谷大

そんで、何事もない映像に切り替わるように悟が仕掛けてくれてるから

渋谷大

エレベーターでも使わねー限り問題ない

ポスト

……怖い

ポスト

うちがまっとうな会社とか絶対嘘だ

ポスト

どう考えてもスパイですけども

渋谷大

アホか

渋谷大

スパイだったらもっとスゲーマル秘道具とかてんこ盛りで持ってるわ

渋谷大

俺らの慎ましやかな装備を見ろ

渋谷大

どこの世界にジャージで潜入するスパイがいんだ

ポスト

それはそれで映画の見すぎだろ

渋谷大

お前、本のくせに夢がないぞ

渋谷大

いいから、とっととおりて現場探すぞ!

渋谷大

お前も少しは手伝えよな!

地下3階

フロア自体は広く常温だが、小規模な冷蔵倉庫がいくつも並んでいる。

ポスト

なんでこんなに小分けされてんだ、ここ

渋谷大

……薬品だからな

渋谷大

ヤバい反応起こす薬、一緒にできねぇとか色々あるんだろうけど

渋谷大

それにしたってここは最悪だ

ポスト

ポスト

なにお前、急に凄い顔してるじゃん?

渋谷大

……この現状見て何にも感じないあたり、

渋谷大

やっぱお前は使い魔なんだろうな

周囲は嘆き悲しみ

呪詛を吐き

憤怒する霊で溢れ返っていた。

渋谷大

ここはこれだけの人を使い潰してきたって事だよなぁ……

唇を噛み、拳を握りしめる。

渋谷大

(これだけの霊がここに縛されてるのは、ここで処分されたからだ)

渋谷大

(供養もされず、顧みもされないから、)

渋谷大

(動くに動けねぇしそのうち自我も摩耗する)

渋谷大

(たかが会社一つ経営してるってだけで、こんだけ命を侮辱してる相手は初めてだ)

渋谷大

(……依頼がなけりゃ気付きもできなかった)

ポスト

……おい?

渋谷大

――ッ

渋谷大

悪い、ちょっと考え事

渋谷大

……こんだけ目撃者がいるんだ、聞き込みした方が早いな

渋谷大

ごめんね、お父さん

渋谷大

苔原ひでとって子、知ってる?

壁に縋って泣き続けていた老齢男性が、動きを止めてまっすぐに見返す。

しかしそれだけでなく

同じフロアにいるすべての霊が、一斉に渋谷を見ていた。

視線にポストは思わず服の中に隠れたが

渋谷はなお柔らかく声色を和らげる。

渋谷大

……知ってるね。助かるよ

渋谷大

俺さ、あの子の兄貴から頼まれてここに来たんだよね

渋谷大

苔原ゆうと君の遺体、どこにあるか知ってるかな

言葉に霊達がざわつく。

霊1

あんた、俺らの声が聞こえるんか

渋谷大

うん

霊2

ゆうとが言ったのか。アンタに、この場所を

渋谷大

うん

霊3

あの子らのこと、なんとかできるんか

渋谷大

ゆうと君の遺体状況と、ひでと君の精神状態にもよる

渋谷大

だけど俺、この会社大っ嫌いになってるからさ

渋谷大

少なくとも、ここからは逃がしてやりたいと思ってるよ

渋谷大

――お父さん達も含めてさ

渋谷大

ひでと君が頻繁に出入りしてる場所を教えてくれれば、あの世から迎えを頼む

渋谷大

協力してくれ

渋谷大

お父さん達みたいな人らを、ほっといたまま帰るのは嫌なんだ

また霊達がざわつく。

しかしやがて一つの倉庫に向かって道を作った。

霊1

ひでとが毎日通ってんのは、第三冷蔵倉庫だ

霊2

ゆうとの処分用に貸し出された部屋で、そろそろひと月になる

霊3

最近あそこに近寄ると体がざわつくんで、俺らもそう寄っちゃいねぇんだが

霊1

施錠ナンバーは覚えてる。849だ

霊2

ここで働いてる奴はみんなどっか可哀想な奴なんだ。助けてやってくれ

霊3

俺らみたいに、ずっとこんなとこで泣いたり怒ったりするのはダメだ

渋谷大

うん

渋谷大

……俺も、そう思ってるよ

渋谷大

おん かかか びさんまえい そわか

真言と同時に、巨大な手がふわりと現れる。

それが数多の霊をふわりと掬い上げると

いくつかの声が漏れ、やがて小さな感謝を残して光の粒となった。

ほうと息を吐き、肩を落とす。

渋谷大

――みんな、呪詛も吐かずに逝ってくれてよかった

渋谷大

悪霊にさえなってなけりゃ、あっちじゃそれなりの待遇が待ってる

ポスト

……ふぅん

渋谷大

なんだよ

ポスト

いーや

ポスト

ちょっとずつだけど、本気でお前らのことも知りたいなと思っただけ

渋谷大

なんだそりゃ

渋谷大

ともかくここだな、第三冷蔵倉庫

渋谷大

……扉の前に立っただけで寒気するけど

849と入力し、冷気なのか霊気なのか分からないものを吐き出して開いた扉から滑り込む。

中は酷く甘く、そしてツンとした香りが漂っていた。

渋谷大

冷蔵機能は効いてるが、照明は自動点灯しないのか

ポスト

なぁ、なんかあるぞ

渋谷大

待てって、今電気つけっか……ら……

数度の瞬きの後

照らし出された光景に 二人は揃って言葉を失う。

巨大な水槽の中で腐敗もせず

ゆうとの遺体が

眠るように沈んでいた。

カタヅケ屋霊異記【完結】

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