旅立つ前に。

水の魔女〜アクアマリンの心臓〜

300年前、最愛の彼と出会った海底の国を訪れた水の魔女。だが国は、命の源「聖水」が枯れ滅亡の危機に瀕していた。彼女は自らの命を削り、魔力を捧げて源泉の復活を試みる。孤独な儀式で限界を迎えた時、彼女を救ったのは先代の魔女や「彼」の魂の導きだった。愛する人が守った国を蘇らせた彼女は、聖水の響きの中に彼の鼓動を感じながら、彼が見たかった世界を見届けるため、再び果てなき旅へと歩み出す。

水の魔女〜父の鼓動を刻む時計〜

魔法の暴走から私を庇い、命を落とした人間の父。以来数百年間、私の時間は父の形見である「止まった懐中時計」と共に凍りついていました。しかし「鋼の魔女」の手で時計が動き出した時、溢れた霧の中に父の微笑みが現れます。長年の後悔を告げ、父の愛に触れた私は、時計の刻む音が父の鼓動そのものだと気づきました。それは過去を悔やむ遺品ではなく、父が繋いでくれた私の「明日」を刻む道標へと変わったのです。

水の魔女〜旋律の後奏曲〜

久しぶりに帰省した故郷。一国の大スターである母は、最後の大舞台に立とうとしていた。だが熟練の魔女である私は、母の魔力生成機能が死に、命の「在庫」が底を突く寸前であることを悟る。
規格の違う魔力は、注いでも救いにはならない。道理を知る私は、母に手を貸さず静かに見守る道を選んだ。
万雷の拍手の中、大スターが光の粒子にほどけた時。道理の檻を突き破り、一人の娘としての絶望が溢れ出した。

水の魔女〜霧の中の残滓〜

水の魔女である私は、森で意思を持つ奇妙な霧に惑わされ、母とはぐれた孤独な少女と出会いました。彼女を連れて霧の奥へ進むと、そこは数百年前に滅びたはずの村でした。実は少女も既にこの世の者ではなく、再会を果たした母娘は光となって消えていきました。私は彼女たちが遺した古い秘術と、時を超えた深い愛の記憶を胸に刻み、新たな魔力の熱を感じながら、再び魔法使いとしての旅を続けていくのでした。

水の魔女〜魔女の理と情〜

旅の道中、親友の死に怒り狂う友人を抱きしめた私。その涙が触れた瞬間、私の中に流れ込む親友を失った絶望と殺意。しかし師匠の言葉で、少女が親友と笑いあった陽だまりの記憶を水のゆりかごに宿す。友と別れ、私は独り歩き出す。少女の最後の記憶――師匠への感謝を胸に、冷たい水が温かい蒸気となる日を求めて。