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早坂と並んでカフェへと向かう。
重厚感のあるドアを、ゆっくりと押し開けた。
懐かしい光景に私は目を細める。
鼻腔を掠める木材の匂いが、忘れかけていたかつての思い出を呼び覚ました。
――白い壁と樹で内装された室内。
アンティーク調の照明が、独特の雰囲気を放つ店。
ここは青木さんとよく訪れた思い出の場所。
自然感溢れる店内を見渡した時、そこに見覚えのある後ろ姿を見つけた。
心臓が大きく跳ねる。
私の気配に気づいたのか、その人物は窓越しに向けていた視線をこちらに向けた。
青木
青木さんは一瞬表情を緩めたけれど、早坂の姿を認めた途端、苦渋に顔を歪ませた。 じとりと私の方を睨む。
青木
鋭い眼光と凄みに怯みそうになる。
青木さんの反応は当然だった。
このカフェが、彼との思い出が詰まった場所だということを早坂は知らない。
だからこそ、このカフェを指定したことに意味がある。
彼はきっと、私が1人で此処に来てくれると思っていただろうから。
……騙したことは悪いと思ってる。
でも、こうでもしないと、3人での話し合いに彼は応じてくれない。
吊り目がちな彼の瞳を、私は真っ直ぐに見据えた。
遥
遥
周りには人がいるし、隣には早坂もいる。
だから私は逃げることなく、青木さんがいる席へと歩みを進めることができた。
彼と向かい合う形で座る。
早坂は呑気にホットコーヒーを注文してた。
相変わらずこの人は冷静沈着だ。
けど、その通常運転ぶりが今は頼もしい。
青木
青木さんは不機嫌さを隠そうともしない。
深く息を吸って、彼の顔を真っ直ぐに見た。
遥
遥
青木
遥
青木
青木さんは言葉を詰まらせた。
彼が反論する前に、私は言葉を続けた。
遥
遥
遥
青木
遥
遥
青木
遥
すぐに反論ができなかった。
後ろめたい事はあったから。
浮気じゃないと断言したくても、浮気まがいな事をして勘違いさせてしまったことは確かだ。
ただ、それをこの場で明け透けに言うつもりはないし、彼との事情と早坂のことは、また別の話だ。
遥
遥
遥
遥
遥
あの日のことは1日だって忘れたことはない。
結婚も子供も望んでいない、彼にそう言われた時、奈落の底に突き落とされたような衝撃を受けたのを覚えている。
ずっと抱いていた、些細で、でも大切に思い描いてきた夢。
それをあっさり拒絶されて、ショックを隠しきれなかった。
青木
遥
穏やかな、でもどこか冷酷さを孕んだ声。
青木
青木
青木
青木
青木
遥
青木
青木
遥
青木
遥
遥
遥
そんなデータに信用性は全くない。
データの結果で不貞行為が許されていいはずがない。
そもそも私を罵る資格なんて、青木さんにないはずだ。
自分の浮気は許されて、私が浮気するのは許さないなんて、そんな馬鹿げた話があるだろうか。
遥
遥
青木
青木
青木
遥
その一言でようやく理解した。
やっぱり、話し合っても無駄だったんだ。
浮気も不倫も社会制度で罰する必要がない、そう謳ってるような人に何を言ってもわかりあえる気がしない。
……そう。何も意味がなかった。
やりきれない思いだけが胸を締め付ける。
遥
青木
青木
青木さんは急に語尾を強くした。
顔を歪め、怒りを滲ませた瞳で私を睨む。
早坂も驚いたように私を凝視していた。
警察に被害届は出さない、そう宣言していた私の口から、民事の言葉が出てくるとは思いもしなかったんだろう。
早坂
遥
警察に訴えない決意は変わっていない。
彼のご家族が傷つくのはやっぱり嫌だから。
彼らを巻き込みたくはない。
特に子供の気持ちを考えたら尚更だ。
だから考えた。
誰も傷つけずに解決させる方法。
一度は早坂に助けを求めたけれど、だからって、全てを彼任せにするつもりはない。
遥
遥
青木
遥
遥
遥
もし民事に訴えれば、この人は今後、私に会うことはできなくなる。
もちろん電話やメールも許されない。
もし破った時点で青木さんは犯罪者となる。
もちろん、これは半分脅し。
これで身を引いてくれれば、何も訴える気はなかった。
……青木さんはここまで、順風満帆な道を辿ってきた。
今や大企業のエリート社員だ。
その経歴に傷をつけたくはないはず。
振られた女のケツを追いかけ回した挙げ句、警察に捕まるなんてお粗末な展開は、さすがに青木さんだって避けたいはず――
……なんて。
安易にそう考えた私は、やっぱり甘かったようだ。
青木
青木
青木
私の覚悟を軽くあしらうような、人を小馬鹿にしたような態度。
何のダメージも受けていないような彼の様子に、私は目を白黒させる。
遥
何が、という私の心の声を、青木さんはすぐに見抜いたようで。
青木
青木
青木
青木
青木
はぐらかすような口調が癪に触る。
不快に眉を寄せる私とは対照的に、青木さんの顔は腹立だしいくらいに涼しげだ。
一体彼にどんな権限があるのか。
そんな風に言い切れる根拠は何なのか。
無かったことにされるなんて、ありえないのに。
疑惑の目を青木さんに向けた、その時――
早坂
早坂
隣から聞こえてきた、その一言は。
穏やかだった波に一石を投じるかのごとく、私の心を酷く、ざわつかせた。
コメント
3件
第27話、読み終えました。遥が早坂さんを連れて、思い出のカフェで青木さんと向き合う決意…最初から胸が締め付けられました。青木さんの「結婚は幻想」発言、あれを真顔で言われると心が冷えますね。最後の早坂さんの「だろうな」が不気味で、ゾッとしました。何か知ってるんですかね…?続きが気になります!