《宿泊先でも僕は清士郎と……》
数ヶ月にも及ぶ全国ツアーを無事に終え、伊苅家でささやかな打ち上げが行われた
幸せそうな家族──
清士郎のことを思うなら身を引くべきなんだろう
清士郎
顔が赤い
明らかに飲み過ぎだ
マヌエル
無事に寝室まで行けるのかどうかも怪しい
僕は見かねて肩を貸し寝室へ向かった
寝室
ベッドの上に清士郎を寝かせる
マヌエル
マヌエル
寝室から出ようとした瞬間、腕を掴まれた
マヌエル
清士郎
もし彼女──美紀さんが入ってきたら気まずくなるだろ
清士郎
清士郎
マヌエル
それだけ口にするのがせいいっぱいだった
《正直言って彼女が羨ましかった。 清士郎の伴侶になれて、清士郎の子供を産んで どうして僕は…………》
4月
冴夏ちゃんが中学生になり、妹の萌映ちゃんは小学4年生になった
マヌエル
中学の入学祝いになんかプレゼントでもしようかな?
そんなことを思っていると
〜〜♪ 〜〜♪
携帯の着信音が鳴る
清士郎からだった
『どこにいる?』
家にいるよと答える
『今からそっちに向かう』と言って通話を切った
マヌエル
数十分後、清士郎がやってきた
清士郎
マヌエル
マヌエル
一応、確認してみる
マヌエル
やっぱり入ってた
清士郎にそう伝えると──
清士郎
マヌエル
冴夏ちゃんがチンアナゴのキーホルダー付きの鍵を拾ってしまったのだという
清士郎
僕が前に清士郎にあげた“合鍵”──
清士郎
マヌエル
この2日間、清士郎の家には行っていない
まさか合鍵を落とすなんて
もし関係が明るみになれば
マヌエルと会えなくなる
そんなのは嫌だ
やっと再会したのに──
また別れるなんて二度と御免だ
清士郎の顔色が悪い
マヌエル
ぎゅっ
マヌエル
清士郎
マヌエル
すぐには答えられなかった
──数ヶ月後
音楽番組、ラジオ、その他の打ち合わせなど清士郎のマネージャーとして忙しなく働いていた
今日は僕の家で仕事の打ち合わせをしている
マヌエル
暑さは鳴りを潜め、涼しくなった
マヌエル
清士郎
ぎゅっと抱きよせる
清士郎
マヌエル
清士郎
マヌエル
マヌエル
マヌエル
清士郎
マヌエル
清士郎
マヌエル
清士郎はショパンの“夜想曲(ノクターン)第2番”を弾いた
〜〜♪ 〜〜♪
心地よい音色が耳に入ってくる
付き合ってたあの頃に戻ったような感覚になった
引き終わってから数分後──
ピンポーン
呼び鈴が鳴る
清士郎
僕は玄関先へ向かいドアを開けた
マヌエル
冴夏
マヌエル
マヌエル
冴夏
リンゴの入ったビニール袋を手渡される
マヌエル
マズい……
清士郎の黒い革靴がそのままにしてあったのを忘れてた
申し訳ないけど、このまま彼女を追い返そう
マヌエル
マヌエル
咄嗟にごまかす
冴夏
冴夏
二言三言話すと冴夏ちゃんは帰っていった
マヌエル
罪悪感
あの子から父親を奪うつもりなのか?
清士郎が呼びに来るまで僕はその場に佇んでいた