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アイビーとガラスのピアノ

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アイビーとガラスのピアノ

9 - アイビーとガラスのピアノ 9話

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2023年01月02日

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もうすぐ冬が来る

罪悪感を抱きつつもマネージャー業をこなす日々が続いた

マヌエル

『ロケのオファーが来てるんだけど、どうする?』

マヌエル

『草津温泉だって』

清士郎

『温泉──』

清士郎

清士郎

『悪くないな』

マヌエル

『……何考えてた?』

清士郎

『承諾してくれ』

マヌエル

『(無視?)』

マヌエル

『じゃあ先方にそう伝えるから』

清士郎

『泊まりか?』

マヌエル

『一泊するみたい』

清士郎

『楽しみだな』

マヌエル

『(一人部屋にしてもらおう)』

《明日はロケ当日。 草津に一泊予定。 夜にはある程度は自由になるから、せっかくだし露天風呂でも入ろうかな。 清士郎には内緒で──》

日記はそこで終わっていた。日付は事故の前日

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冴夏

…………

そして日記帳をショルダーバッグの中に入れた

当人たちに返さなければいけない気がして…………

冴夏

(あのアイビーも──)

部屋を飛び出し一階へ下りる

テーブルの水挿しからアイビーを取り、マヌエルの家を後にした

日記帳とアイビー

咄嗟とはいえ持ち出してしまった

冴夏

(返すっていってもどうやって?)

冴夏

(お焚き上げとか?)

探せばやってくれるところあるかな?

頭をしぼりながら歩く

不思議と誰にも会わなかった

通行人でさえも──

ショルダーバッグのポケットからチンアナゴのキーホルダーがのぞかせている

冴夏

冴夏

あれ?

きょろきょろ

冴夏

ここ、どこ…………?

考えながら歩いたせいか見覚えのない場所に迷い込んでしまった。目の前に空き地がある

冴夏

(空き地なんてあったっけ?)

空き地のど真ん中でぱちぱちとたき火が燃えている。それに当たるように人影が立っていた

きみもたき火に当たるかい?

暖かくなるよ

人影が振り返る

前髪で目は隠れてるが人懐っこそうに笑っているのがわかった

冴夏

…………

黒装束の袖から覗く両手首には傷痕があった

そろそろ焼けたかな

火バサミを灰の中に入れ、何かを取り出す

うん。ちゃんと中まで火が通ってるね

それはアルミホイルに包まれた焼き芋だった

焼き芋の匂いが鼻腔をくすぐる

冴夏

…………

食べる?

焼き芋を半分に割り冴夏に手渡す

さつまいもは近くのスーパーで買ったものだから大丈夫だよ

相手は焼き芋を一口ほおばる

変わったものを持ってるね

冴夏

変わったもの……?

きみのショルダーバッグの中から、“思い”──慕情の念を感じる

それだけじゃない

手に持っているアイビーも、ポケットに入ってるチンアナゴのキーホルダーも……

慕情が込められてる

冴夏

……ぼじょう?

ざっくりいうなら“恋い慕う気持ち”かな

きみはそれらをどこで手に入れたんだい?

心を見透かされたように一部始終を話していた

“彼“と自分の父の関係、日記帳、チンアナゴのキーホルダー付きの鍵、そしてアイビー

なるほど

一通り話し終えると相手は合点がいったような顔をした

で、それらをお焚き上げしたいと──

冴夏

うん

わたしはこくりとうなずいた

なら──

たき火に指をさす

あれに放り込めばいいよ

冴夏

……いいの?

彼らに対する供養だから大丈夫さ

にこ

ショルダーバッグから日記帳を2冊取り出し、たき火にくべた。日記帳は炎に包まれぼうぼうと燃え盛る

冴夏

冴夏

(鍵はどうしよう?)

チンアナゴのキーホルダーが付いてるし目立ってしまう。母と妹の目に触れさせるわけにはいかない

心配しなくていい

その鍵はわたしが責任持って、然るべき処置をしよう

鍵を相手に手渡すと、アイビーをたき火の前にかざした

アイビーの花言葉を知っているかい?

冴夏

えっ?

突然のことで少し戸惑う

“永遠の愛”、“友情”、“不滅”、そして──

“死んでも離れない”

本人たちが知ってたかどうかは、訊かないとわからないけどね

冴夏

…………

わたしはアイビーを火の中に入れ、ぼんやりとたき火を見つめた

どうやって家へ帰ってきたのか正直言って覚えていない

気づいたときには自分の部屋にいた

日記帳もチンアナゴのキーホルダー付きの鍵も、もちろんアイビーもない

冴夏

(……現実だったのかな?)

まるで夢うつつのようだった

4日後

葬儀は滞りなく行われた

葬儀屋の説明によりマヌエルと父の遺体はかなり損傷が激しかったらしく、病院側の配慮で『見ない方がいい』と袋の中に入れられ、そのあと納棺されたそうだ

冴夏

(だから蓋の窓はがっちり閉められていたのね)

2時間後、遺体は荼毘に付された

やっとふたりは──

誰にも邪魔されないところへ逝けた

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