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かなえ
某月某日。 早坂宅で焼肉パーティーが開かれた。
テーブルの上に置かれた厚切りの極上ジンギスカンは、早坂の実家から送られてきたものらしい。
そして、この場にお呼ばれしたかなえちゃん。
豪快に肉をかっさらい、道産子の羊肉を口いっぱいに頬張りながら、極上の味わいを堪能している。
かなえ
早坂
驚く早坂を前に、かなえちゃんは上機嫌で頷いた。
かなえ
早坂
かなえ
私の目の前には、隣合わせに並んで箸をつつく早坂と、ご飯の上にお肉を乗せていく、かなえちゃんの姿がある。
まるで兄妹みたいな2人だなあと思う。
和気あいあいと盛り上がっている光景を眺めながら、私はコップ一杯のハイボールで喉を潤した。
――――あれから2週間が経った。
クリスマスもあっという間に過ぎて、今日は元旦。店舗も今日ばかりはお休みだ。
明日からは通常営業になる。
そして、私が職場復帰する日でもあった。
遥
実は菅原エリアの配慮のお陰で、もう1週間、休暇が追加された。
というのも、これには理由がある。
早坂が菅原さんに、「七瀬の状態が芳しくない」と伝えてくれたことで、休みが延長されたらしい。
"骨折のせいで高熱が出ている" "痛みが酷いらしくて動けない"
――――と、まあ…… 細々と報告してくれたようだけど。
遥
実際には、順調に回復へ向かっている。
腕も上がるようになったし、重い物だって持てるようになった。
痛みは完全になくなったわけじゃないけど、普通に生活する分には問題ない。
ただ、全治2ヶ月と診断された怪我に対して、1週間しか休養を与えない本部に対して不満を抱いていたのは、私よりも早坂の方みたいだ。
虚偽報告なんて、本来、褒められたものじゃない。
でも、早坂の嘘で救われたのも、また事実だ。
遥
遥
遥
先日、病院の駐車場で交わした会話を思い出す。
"友達の家に泊まった"と、あの時は咄嗟に嘘をついたけど。
かなえちゃんはふふ、と笑みを深くした。
かなえ
遥
早坂
本人が不機嫌そうに私を睨む。
その傍らで、かなえちゃんは含みを持たせた視線を私に送ってきた。
かなえ
かなえ
かなえ
かなえ
早坂
かなえちゃんの頭を早坂が小突く。
2人の無邪気なやり取りに、私はほっと胸を撫で下ろした。
かなえちゃんは鋭い。 少しずつ変わり始めている私達の関係に、恐らく彼女は気づいてると思う。
でも、かなえちゃんは何も言わない。
黙って見守ろうとしてくれている。
本当に出来すぎた後輩だと思う。
遥
・ ・ ・
早坂
それは先日、早坂から告げられた言葉だった。
そう、彼から告白を受けたあの夜。
あの後はお互い、向かい合わせに座りながら、温かい食事を共にしたんだ。
テーブルの上には、私お手製、半熟卵のふわとろ親子丼。
我ながら上手く出来たと自画自賛している料理に舌鼓を打ちつつ、早坂の言い分に耳を傾ける。
早坂
早坂
遥
確かに私はスタッフの前では、愚痴も弱音も吐かないようにしてる。
上司が部下の前で不満を漏らせば、嫌な空気を生むからだ。
スタッフにとってマイナスになるようなことは、私はしてはいけない立場にある。
けれど口に出せない分、早坂には愚痴や不満を吐き出しているつもりだったけど。
そう伝えれば、早坂は静かに首を振った。
早坂
早坂
早坂が静かに、皿の上に箸を置いた。
そして豆腐のお味噌汁を啜る。
私の手作り料理を堪能してくれているようで何より。
まるで流れ作業のような早坂の動きを眺めつつ、私は彼の言い分に答えた。
遥
ただ、そういう悩みって、結局は自分で解決するしかないから。
人に話しても仕方ない、そう思ってる部分はある。
遥
早坂
早坂
早坂
遥
早坂の言う通り、周りに頼れば未然に防げた事故のはず。
相談できる相手がいなければ、自治体の相談窓口や支援センターも利用できたのに。 私はそうしなかった。
早坂
早坂
遥
早坂
遥
早坂
遥
容赦がない。知ってたけど。
早坂
早坂
早坂
早坂
遥
相変わらず早坂の論破は耳に痛い。
でも、全て正論だ。
私が間違ってることは、ちゃんと指摘してくれる。
自分にも他人にも厳しい面を持っている早坂は、その人のためにならないと判断すれば、中途半端な優しさは与えない。
間違ってることは間違っていると、はっきりと口にできる人だ。
それは、私には持ち得ない彼の魅力。
部下に対して強く叱れない、という私の欠点をカバーしてくれる。
だから同僚としても、人としても信頼できる。
スタッフの事も、早坂なら安心して任せられるんだ。
遥
早坂
早坂
遥
早坂
急に流れが変わった。
はた、と私は箸を止める。
遥
早坂
遥
遥
早坂
早坂
早坂
遥
早坂
早坂
捲し立てるように言われてご飯を噴出した。
10粒くらい口から飛び出したよね。
早坂
遥
遥
遥
早坂
早坂
遥
以前、早坂を部屋に泊めたあの日。 この男は人が寝てる間に、あらぬ事をしてくれたらしい。
遥
早坂
遥
早坂
遥
思わず目を丸くする。
寝込みを襲った、なんて言うから身構えていたのに、返ってきた返答は何とも可愛らしいものだった。おでこにキスって。
遥
早坂
遥
早坂
それは当然だ。恋人以外の男から触れられるなんて気分のいいものじゃない。
でもその相手が早坂なら……嫌じゃないかも。 どうなんだろう。
早坂
早坂
遥
早坂
遥
早坂
遥
どうなってもおかしくない状況と言えば、早坂の部屋に寝泊まりしてるこの状況でも同じことが言えるんだけど…… とは、口が裂けても言えない。
私はあくまで匿ってもらっている身。
感謝はしても、揚げ足を取るつもりはない。
遥
あの言葉の真意を一番知りたかった。
想いを知られてしまった以上、今まで通りに接するのは無理だと、あの時言われた言葉が未だに心に引っ掛かっている。
友人関係を続けたい。そう主張した私に拒絶の意志を示した早坂。
でも私が考えていたものとは、どうやら違うようで。
早坂
遥
早坂
遥
途端、気まずい沈黙が室内を覆う。
思い出す度に、たまらない憂鬱が心に迫ってくる。
早坂
早坂
遥
早坂
早坂
早坂
ああ、そうか……と納得する。
あの言葉、私は恋愛軸に考えていたけれど、早坂は違う方向を見ていたんだ。
今までは私の意思を尊重して、動向を見守ってくれていたけれど、それで失敗したから。
だから今度は助ける―――― あの言葉の意味は、援助。
早坂
早坂
早坂
遥
早坂
そこで言葉を切った早坂は、静かに息を吸い込んで、再び口を開いた。
早坂
遥
突然の告白に箸を落としそうになった。
早坂
早坂
早坂
早坂
遥
いつもぶっきらぼうな早坂が、今だけは真顔で私を見つめていて。
彼の言葉が本気だと言うことが、それだけでわかってしまう。
早坂
早坂
早坂
早坂
遥
分かりやす過ぎるほどストレートな告白だった。
心臓がドキドキと高鳴る。顔も熱い。
テーブルを挟んでいるから早坂との距離は離れているのに、私の心音が筒抜けなんじゃないかってくらい、大きな音を立てていて。
早坂
遥
諦める、そう告げた早坂の覚悟に心臓が冷えたのは一瞬のこと。
早坂
早坂
早坂
淡々と答える早坂の表情から、歓喜の色は見て取れない。
テンション上がった、なんて言うわりに、今までとなんら変わりないように見えるのに。
さっきから私と視線が合わないのは、照れ隠しなんだろうな。
そんな不器用な態度が可愛くて、くすぐったい気持ちに駆られた。
……自然と頬が緩んでしまう。
同時に胸に込み上げる、愛しいと思う気持ち。
ここまで思い悩んでやっと、自分の気持ちの変化を素直に受け入れることができた。
ああ、この人に惹かれているんだなって。
あの日以降は、いたって普通の日常だった。
私は治療に専念し、早坂にいたっては多忙の毎日だ。
年末の業務過多で疲れきっているはずなのに、私の前ではそれを態度に出すことはない。
そして夕飯の時間は一緒にいてくれる。
休憩時間に、わざわざ電話をくれたこともあった。
私の具合をいつも気遣ってくれた。
早坂にとって、今の私は負担でしかないのに、それを微塵も感じさせないよう振る舞うところが、本当に大人だなと思う。
……そんな日々を送る度に、早坂への想いが好意へと傾いていく。
恋愛かどうかわからない、とか。
一時的な熱かもしれない、とか。
そんな誤魔化しはもうきかない。
この感情は間違いなく、恋だった。
だから強く思う。
早く、早坂の気持ちに応えたい。
誠実な彼に誠実でありたい。
その為にも、まずは青木さんの問題を解決させなきゃいけない……けれど。
かなえ
遥
つい言い淀んでしまう。
実は困った事態が発生している。
あの日以来、青木さんからの連絡がぱったりと途絶えてしまった。
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告白きたーーーーーー!
桃下結衣さん、第17話拝読しました!早坂くんの告白の真意が「援助」だったって分かった瞬間、胸が熱くなりました。彼の「好きな人を自分の手で守りたい」というストレートな言葉に、私もどきどき。おでこキスの告白も可愛くて、不器用だけど誠実な彼の魅力が詰まった回でしたね。かなえちゃんの鋭さと温かい見守りにもほっこり。早く遥ちゃんが自分の気持ちを受け入れられますように…!