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医師
医師
遥
医師
淡々と告げられた言葉に呆けてしまう。
人生初の骨折はあまりにも唐突で。
医師
医師
医師
遥
医師
医師
遥
医師
医師
トントン拍子に診察が進んでいく。
下された診断は肋骨の骨折。
額の傷は浅くて、縫うほどでもない。 消毒後に絆創膏を貼った程度の怪我だった。
「おでこは小さい傷でも血がドバーって出るからね~」、なんて爽やかな笑顔で言い放つ先生に戦慄が走る。
遥
……まるで実感が湧かなかった。
自らの身に起きたこと。
なんだか悪い夢を見ているかのようで。 気持ちが追いつかない。
遥
体中に残された痣の数々。 肋骨に響く鈍痛が。 まぎれもなく、数時間前に起こった現実を私に突き付けてくる。
・ ・ ・
・ ・ ・
――――診察室を出て、長椅子に腰を下ろす。
待合室に人の姿はない。
院内は木目を基調とした優しい空間が広がっていて、オルゴール調のBGMが、沈みかけた気持ちを掬い上げてくれる。
遥
遥
病院の待合室には、少しだけ苦手意識があった。
でも案外、居心地がいいものだ。
温かな内装は人に安心感を与えてくれる。
医師の先生も看護婦さんも、フレンドリーに接してくれて。患者と話しやすい雰囲気作りを徹底しているように見える。
そこでふと、思った。
遥
帰りたい気持ちはある。
早く休みたい気持ちもある。
ただ、私の帰る場所はあの部屋だ。
数時間前まで暴力を受けていたあの場所に帰りたいとは、今はさすがに思えなかった。
遥
途中で気を失っていたせいか、時間が経つのがあっという間に感じる。
とはいえ、もうずいぶん遅い時間だ。
かなえちゃんに付き添ってもらうのも悪いから、早坂が自宅まで送り届けてくれたはず。
遥
遥
遥
そう送れば、すぐに既読がつく。 即座に返信が返ってきた。
"すぐ戻るから待ってろ" あまりに素っ気ない返信に、ふふ、と笑みが漏れる。
遥
遥
遥
スマホをポケットに戻してから息を吐く。
膝の上で、両手を強く握りしめた。
拳がやけに冷たくて、微かな震えが止まらない。
拭い切れない不安が暗雲のように広がっていく。
……体はすでにヘトヘトだし、早く温かいベッドで眠りたい。
だから帰宅の許可が下りて嬉しいはずなのに、気分は全く浮上しない。
やっと帰れるのに、帰りたくない。 1人で眠れる気がしない。
早坂
心の何処かで待ち望んでいた声に、はっと我に返る。
顔を上げれば、早坂が入口から顔を覗かせていた。
本当に戻ってきてくれたことに安堵の息を漏らす。緩く手を振って笑いかけた。
どれだけ心がしんどくても、条件反射で笑顔を作ってしまうのも、もう慣れた。
早坂
私の隣に腰掛けて、早坂は上着を脱いだ。 そのまま手元に置く。
遥
早坂
遥
早坂
その言葉が、心に重くのし掛かる。
遥
深く頭を垂れてしまう。
自己嫌悪で気分はどんどん沈んでいく。
済んでしまった事をあれこれ言っても仕方がない。いま一番気がかりなのは、かなえちゃんのことだ。
女が男から暴力を振るわれる、その場面に立ち入ってしまった彼女の心境を思うと胸が痛い。 異性に対しての畏怖を、まだ幼いあの子に植え付けてしまった。
その罪はきっと重い。
今日の出来事がかなえちゃんにとって、一生消えない心の傷になってしまったら私のせいだ。
……早坂からの忠告を聞き入れていれば、もっと危機感を抱いていれば。 こんな事態にはならなかったのだろうか。
早坂
遥
早坂
遥
遥
早坂
神妙な面持ちで尋ねてくる。
服越しに手を当てて、大丈夫だと答えた。
過度な動きをしなければ、さほど痛みは感じない。
遥
遥
遥
早坂
遥
早坂
早坂が目を見開く。
瞳の奥に映る光が、動揺で揺れている。
早坂
早坂
遥
遥
そのあたりは医師から許可を得ている。 絶対に無理はしない、との条件付きで。
本当は、完治してからの仕事復帰が望ましい。
でもこれからクリスマス、そして年末商戦がピークを迎える時期。 小売業にとって一番の稼ぎ時だ。
そんな大事な時期に休めるわけがない。
スタッフ全員に負担をかけてしまう。
早坂に全ての業務を押し付けるのも忍びない。
何より上司の反応が一番の不安要素だった。
遥
傷病休職を申請すれば、きちんと受理してくれるはず。
ただ、間違いなく嫌味を言われる。 それが嫌だ。
遥
遥
早坂
早坂
遥
早坂
早坂
早坂の言葉に頷きながら、体を背もたれに預ける。瞳を閉じれば、心地良い沈黙に包まれた。
じんわりと押し寄せる背中への倦怠感。 ストレスによる筋肉疲労かもしれない。
今日は本当に疲れたな……。
早坂
遥
早坂
看護婦
遥
名前を呼ばれて慌てて立ち上がる。
瞬間、あばらに鋭い痛みが走った。
つい顔をしかめてしまう。
本当に骨折してるんだ、と今更実感する。
遥
早坂
遥
はたり、と瞬きを落とす。 糸のような細い声音。
その弱々しさに引っ掛かりを覚え、動きを止める。
遥
早坂
遥
早坂は俯きながら言葉を紡ぐ。
その横顔は曇りがち。
固い面持ちは何かを耐えているように見えて。
……私のせいかな。 私が彼に、こんな表情をさせてるのかな。
遥
早坂
遥
らしくない態度に後ろ髪を引かれつつも、私は診察室に足を向けた。
コメント
1件
ああ…第9話、心にズシンときたよ。 遥が「帰りたくない」って思う場面、すごくリアルで胸が締め付けられた。暴力の傷より、かなえちゃんに現場を見せてしまった罪悪感のほうが重そうで。それでも笑顔を作っちゃうところが切なすぎる…。 早坂の「後で話ある」も気になる展開だね。次が待ち遠しいよ🥀