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早坂
早坂
かなえちゃんを自宅まで送り届けてきた早坂は、部屋に帰ってくるなり、ポツリと嫌味を漏らした。
遥
室内に漂う辛気臭い空気。
それは私から発せられるもの。
水で濡らしたタオルを顔に被せ、ソファーに寝そべっている私のもとに、早坂がゆっくりと歩み寄ってきた。
そして、パッとタオルを剥ぎ取られる。
早坂
遥
早坂
遥
奪われたタオルを奪取する。
再び顔に被せて、目元を隠して沈黙を守る。
そんな私の様子に、早坂はやれやれといった風で、力なく笑った。
ソファーを背にして、その場に腰を下ろす。
早坂
早坂
辛辣な事を言いつつも、その口調は優しい。
意地を張っても仕方ないと思い直し、私は体を起こした。
遥
早坂
遥
「1人で青木さんに会いに行く」 私がそう伝えた時、早坂はすぐさま反論してくるだろうと思っていた。
けれどは、早坂は何も喋らなくて。 私とかなえちゃんのやり取りを、端から黙って見守っていた。
怒ってる風にも見えなくて、だから余計に気になった。
いつもだったら、絶対に口を挟んでくるのに。
早坂
遥
遥
早坂
早坂
遥
つまり、あの時かなえちゃんに言われた言葉は、そのまま早坂の言葉でもあるということだ。
早坂
遥
早坂
どきっ、と心臓が大きく跳ねる。
見抜かれてる気はしてたけど、直接訊かれるとやっぱり驚く。
早坂の目敏さと勘の鋭さには敵わない。
遥
早坂
遥
早坂
拒むことも許されないような圧。
仕方なくソファーから下りて、早坂の隣に座り直した。
そのままスマホを差し出せば、画面を覗き込んだ早坂の表情が曇る。
早坂
加害者は過ちを否定できる立場にない。
被害者ぶるつもりもない。
どんな事情があったとしても、世間では不倫をした"側"が悪者だ。
だから、罪から目を背けちゃいけない。
それは大人として、社会人として、間違いを犯した人間として、絶対にしてはいけないことだ。
……そのはずだ。
『――七瀬さんが1人で 責任負う必要があるんですか?』
遥
……じゃあ、私は。
どこまで責任を負えばいいの?
……結婚してたなんて知らなかった。
そんな素振りも見せなかったもの。
彼はいつだって優しかったんだよ。
連絡だってたくさんしてくれたんだよ。
どう疑えっていうの。
仕事で忙しいって言われたら、信じるに決まってるじゃない。
好きな人を疑うなんて、そんなことしたくないもの。
いきなりこんな問題が身に降りかかってきたら、気が動転するに決まってる。
不倫なんて荷が重すぎるし。
対処の仕方だってわからないし。
相談できる相手もいない。
じゃあ、どうすればよかったの。
どうするのが正解だったの?
なんで私ばかり、 こんな目に遭わなきゃいけないの――
早坂が不快に思うのも仕方がない。
昨日届いた青木さんからのメッセージは、既に200件以上を超えていた。
今日も頻繁に届くメールは、昨日と似たような内容のものばかり。
一心不乱に送信しているような印象を受ける。
遥
遥
遥
早坂
遥
遥
遥
早坂だって本来、何の関係もない人だ。
私が助けを求めたりしなければ、こんな面倒事に巻き込まれることもなかった。
私が、早坂を巻き込んでしまった。
……ちらりと彼の様子を窺う。
スマホを眺めるその瞳は、深い色を堪えている。
涼しげな表情は相変わらずで、怒りの感情は見えない。
でも内心はどうだろう。 自らの理不尽な状況を、腹立たしく思っているんじゃないだろうか。
さすがに嫌われたかな……なんて思ったけど。
早坂
遥
早坂
早坂
遥
早坂
指し示された画面を覗き込む。
"また殴られたいのか――" そう表記された文面を見て、早坂がふっと鼻で嘲笑った。
早坂
遥
早坂
早坂
淡々と話す様子は至極冷静で。
でもどこか楽しそうにも見える。
それがちょっと意外で、私は呆然としてしまう。
早坂
早坂
遥
早坂
早坂
早坂
早坂
遥
遥
早坂
遥
早坂
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
直接脅す―― その不穏な響きに、私は目を見開く。
遥
遥
早坂
遥
私の問いに早坂は否定しなかった。
頷くこともしなかったけど、仄暗い瞳が肯定だと認めていた。
……頭から冷水を浴びたような恐怖に打たれる。
思えば早坂は言ってたじゃないか、「もう部外者面したくない」って。
その一言に救われたような気持ちになって、言葉の裏にある意図を全く読んでいなかった。
今まで傍観者でいてくれた早坂が、傍観するのをやめたということは。 事態を改善するために動くかもしれないって、よく考えればわかることなのに。
遥
遥
それだけは絶対に阻止しないと。
でも早坂は涼しげな表情を保ったままで。
早坂
遥
早坂
遥
思わず素っ頓狂な声が出る。
早坂の為にやめてって言ってるのに、どこをどう解釈したら、私が青木さんを庇っているように聞こえたのかわからない。
遥
早坂
遥
早坂
早坂
遥
遥
遥
早坂
遥
その嫌味っぽい言い方に顔をしかめる。
青木さんを庇うつもりなんて更々ない。
ただ私達が犯した過ちのせいで、周りの人達まで傷つけてしまう未来だけは避けたかった。
私達が別れたら、それで済む話なんだから。 あえて泥沼化させる必要なんてない。
……結果的に別れ話が拗れてしまったから、こうして泥沼化しているのだけど。 それはともかく。
遥
遥
早坂
遥
遥
遥
遥
早坂
早坂
遥
早坂
早坂
遥
辛辣な一言で核心を突いてくる。
痛いところを指摘されて、私は何も言えなくなった。
遥
遥
言葉を詰まらせて俯いてしまう。
吐き出してしまいたい無責任な本音を、必死に押し殺すことしかできない。
静かな空間に、微かな衣擦れの音がした。
片腕で腕の中に抱き込まれ、耳元に囁きが落ちる。
早坂
早坂
遥
早坂
早坂
早坂
遥
早坂
早坂
早坂
早坂
早坂の真摯な言葉が、想いが、胸の内側に沁み込んでいく。
抱擁が強まるほど、切なさで胸が締め付けられた。
遥
そんなこと、許されないのに。
そっと弱さを引き出してくれるから。
遥
早坂
遥
早坂
遥
早坂
遥
……目頭が熱くなる。
鼻の奥がツンと痛んだ。
もう頑張らなくていい、そう言われてから、やっと胸のつかえが取れた気がした。
果たさなきゃいけない責任があって、守りたかった体裁もあって。
でも早坂の言葉ひとつで、それらは脆く崩れていく。
コメント
1件
早坂さんの「助けてって言えよ」が刺さりました。ずっと一人で責任を背負おうとしていた遥さんが、やっと弱さを見せられた瞬間にじんときます。そして「ただの自己犠牲だろ」って核心をつく台詞、それでも嫌みじゃなくて優しく響くのが早坂さんらしい。続きが気になります!