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遥
遥
開店前の売場で、スタッフと久々の顔合わせ。
高らかに復帰宣言をすれば、周りから拍手が湧き起こる。
女性社員
女性社員
遥
彼氏に殴られた怪我だとはとても言えない。
なので職場には、ありきたりな嘘を伝えておいた。
骨折してることも伝えていない。
余計な心配をさせたくなかったから。
遥
遥
そう言って、隣に立つ早坂に視線を送る。
前日の売上成果を伝えるのは早坂の担当だ。
それから私が業務指示を出して、開店準備に取り掛かるのがいつもの流れ。
今日は指示を出す余裕もなかったから、ミーティング自体はあっさりと終わった。
遥
骨折に関してはまだ完治に至っていないけれど、それでも職場に戻ってきてよかったな、と思う。
みんなの笑顔を見ると元気になれるし、温かく出迎え入れてくれたことが嬉しい。
やっと戻るべき場所に戻ってこれた、そんな気分になる。
遥
ミーティング後は事務所に戻って一息つく。
椅子の背にもたれ掛かれば、早坂が顔を覗き込んできた。
早坂
早坂
遥
遥
遥
早坂
苦笑交じりに言われて、私も笑みを浮かべる。
そして机に置かれた書類を手に取った。
私が不在中の、店の売上数値を記録したデータを作ってくれたらしい。
本当にいい仕事をしてくれる。
遥
遥
早坂
早坂
早坂
遥
早坂
早坂
その一言に深い意味はなかったのかもしれない。
けれど、不覚にもドキッとした。
早坂の言葉ひとつひとつに過剰反応してしまう。
遥
気掛かりなのは、昨日の青木さんの件。
彼から連絡が来たことを、早坂にはまだ伝えていない。
『私には危機感が足りない、もっと周りを頼るべき』 早坂からそう言われたけれど、果たしてこの件は早坂に話すべきことなのか、正直考えあぐねていた。
今、早坂とはすごくいい空気を保っている。
この雰囲気を壊したくない。
言うタイミングがあるとしても、今じゃないのかもしれない。
――――そう考えていた時。
コンコン、と控えめなノック音が事務所に響いた。
早織
早織
扉がゆっくりと開く。
顔を覗きこんできた人物は、恐る恐るといった様子で事務所に足を踏み入れた。
遥
早織
早番スタッフの一人でもある早織さんは、迷う素振りを見せた後、早坂にチラリと視線を向けた。
その視線に気づいた早坂は、「売場の様子見てくるわ」と事務的な一言を残して出ていってしまう。
早織さんの視線に何かを察したのだろう、気を使ってこの場を離れてくれたのだろうけど。
早織さんの表情は、まだ強張ったままだ。
遥
ひそりと尋ねれば、早織さんは弱々しく首を振る。
早織
早織
遥
早織さんが差し出してきたのは、1通の茶封筒だった。
差出人の記載はなく、消印の表記もない。 本部からの郵便物とも違う。
遥
早織
早織
遥
早織
早織
早織
早織
おずおずと出された名刺を受け取る。
そこに記載されていた名前と会社名を目にしたとき、ドクッと心臓が大きく波打った。
遥
そこには彼の名前が表記されている。
やっぱり店先にも来ていたらしい。
私がマンションに戻っていないとわかれば、職場に足を運ぶ可能性もあるとは考えていたけれど。
まさか自らの素性を明かす名刺を、この場に置いていくとは思わなかった。
……きわめつけはコレだ。
わざわざ早坂を名指ししてまで、渡そうとしてる茶封筒。
私宛てじゃないことに不安が募る。
遥
遥
早織さんの様子を見る限り、この封筒の存在自体、早坂は知らないっぽい。
早織
遥
早織
遥
その一言に緊張が走る。
早織
早織
早織
早織さんは、バツの悪そうな顔で足下に視線を落とした。
早織
早織
早織
遥
早織
申し訳なさそうに早織さんは頭を垂れた。
でも、彼女の対応は間違っていない。 お客さんからの差出物は、基本的に受け取らないのが決まりだから。
しかも、こんな怪しげな封筒。
誰だって不審がるのは当然だ。
早坂に渡す前に、上司である私の指示を仰ごうと判断した早織さんは正しい。
それに、早織さんにとって青木さんは初対面の人だ。私の知人だなんて当然知らない。
なら会社の規則に従う義務がある。
けど、それすら躊躇うほど、青木さんの気迫が凄かったのかもしれない。
怖くて断れなかった、と言うほどなのだから。
遥
早織
早織
遥
遥
遥
そう告げれば、早織さんも控えめに頷いた。
早織
遥
遥
早織
遥
遥
ほっと胸を撫で下ろし、早織さんは踵を返す。
1人残された事務所で、私はこめかみを押さえた。
遥
頭の痛い問題が増えてしまった。
その問題物を眼前にかざして見つめてみる。
蛍光灯に照らされて、封筒の中身がうっすらと透けて見えた。
遥
丁寧に折り畳んである1枚の紙。
何が書いてあるんだろう。気になる。
嫌な予感しかしないけど。
遥
早坂が私と同じ職場で働く人間だと、青木さんはすでに知っていた。
知った上で、早坂に名指しで封筒を託した。
正直怖すぎる。 絶対良くないことが書いているに違いない。
早坂に渡す前に、先に中身を確認した方がいいかもしれない――――
そう思った時、あることに気付いた。
遥
……この封筒、重みがある。
紙切れだけじゃない、まだ中に何か入ってる。
照明の光にかざしても何も見えない。
軽く振ってみれば、カシャカシャと小さな摩擦音が聞こえた。
遥
音の正体がわからない。
何だろう、嫌な予感がする。
やっぱり中身を確認しようと思い至り、私はハサミを手に取った。
丁寧に封を切ってから逆さまにひっくり返せば、その音の正体が姿を現す。
折り畳まれた紙と共に出てきたのは――――
遥
喉の奥から悲鳴じみた声が出る。
机の上にバラバラと零れ落ちたのは、無残に切り離されたカッターの刃……だった。
コメント
1件
桃下結衣さん、第19話読みました!😭💦 復帰した遥が職場で温かく迎えられてホッとしたのも束の間…青木さんからの不気味な封筒、しかも「早坂に渡して」って指名で来てるのマジで怖すぎる…!早織さんの「顔は笑ってるけど目が全然笑ってなくて」って描写がリアルで、ゾッとしました。ラストのカッターの刃、バラバラ出てきた時の衝撃やばい…これは加速する狂気どころじゃない、もう完全にヤバい領域ですね。次が気になりすぎて今夜眠れないかも!😢✨