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遥
遥
私の声音が浴室内に反響する。
早坂の入浴中に突撃訪問し、決して広くはないバスタブの中に、なかば強引に押し入った。
彼に背を向ける形で湯船に浸かる。
ちゃぷん、と跳ねた湯が素肌を濡らした。
密着する距離感も相まって、早坂の体温がじんわりと伝わってくる。
早坂
遥
早坂
遥
早坂
早坂
顔は見えないけど、困惑してる様子が窺える。
まあ、予想通りのリアクション。
一緒にお風呂に入るなんて、当然だけど、今までしたことなかったから。
遥
早坂
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早坂
遥
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早坂
背後から、息を飲む気配を感じる。
ゆっくりと振り向けば、至近距離で見つめ合う形になって。 早坂はさらに動揺を露にした。
すう、と深く息を吸い込む。
遥
早坂
遥
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早坂
遥
――早坂を意識した日から、ずいぶんと日が経ってしまった。
本当はずっと、もうずっと前から、本人に伝えたかった想いを、やっと今日、打ち明けられる。
曖昧だったこの関係も終えられる。
その歓びが胸を満たした。
早坂
遥
軽く謝れば、早坂の表情がふっと和らぐ。
見上げた先にある優しい眼差しに、たまらない愛しさが胸元を突き上げる。
早坂
早坂
遥
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早坂
遥
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早坂
うん、と頷く私に、早坂の訝しげな視線が注ぐ。
遥
早坂
思わぬ単語が早坂の口から飛び出してきて、私は目を丸くする。
遥
早坂
遥
そう答えてから、居候の身だったことを思い出した。
一緒に過ごす日々が当然のように思っていたけれど、そうじゃなかった。
遥
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早坂
早坂
遥
早坂
目を細めて、はにかんだように微笑む。
早坂って、こんな笑い方もできるんだ。
また彼の新たな一面を知れて、歓喜で心が震えてしまう。
早坂
早坂
早坂の問いかけに、私も神妙に頷く。
遥
遥
早坂
遥
早坂
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早坂
早坂
遥
早坂
遥
異動先のF店は、今の店舗から少し遠い距離にある。
と言っても、県を跨ぐような距離でもない。 車で15分程の場所。
異動の為に、わざわざ引っ越す必要がない点はありがたい。
早坂
遥
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早坂
遥
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早坂
遥
早坂には、まだ一度も畑中店長の事を伝えていない。
安易に口に出せるような内容じゃないし、彼の病気のことを探られるのも嫌だった。
早坂がそんな無神経なことをする人間じゃないと知っていても、どうしても躊躇いがあった。
私だけじゃない、在籍が長いスタッフ達も、畑中店長のことをあまり話題には出さなかった。
私と同じ思いがあったのだと思う。
早坂
早坂
遥
彼の病気の発症は、何の前触れもなく突然訪れたらしい。
国に難病指定されている神経系の病気だった。
本人は頑張ってリハビリを続けていたけれど、無情にも病気は進行していく。
年齢が若い分、進行のスピードも早かった。
今は一時的に退院できたけど、病気が完治したわけじゃない。
今後も症状が悪化すれば、車椅子生活になるかもしれないとも聞いた。
早坂
遥
遥
早坂
遥
遥
早坂
そっと瞳を閉じれば思い出す。
畑中店長と、みんなと一緒に働いた日々を。
切磋琢磨しながら一緒に仕事をしたことも、好きな雑貨やブランドで語り合ったことも、どの記憶も色褪せることはなく、鮮明に思い出せる。
あんなに店やスタッフを大事にしてきた彼が、どうしてこんな病魔に蝕まれなくてはならないのか。
答えの出ない事実に打ちのめされそうになっても、あの人は私達に一切弱音を吐かなかった。
それが人の上に立つ人間として、当然であるかのように。
そんな彼の影響を受けて、今の私がいる。
遥
早坂
遥
遥
遥
誰だってそんな未来は望んではいないし、できれば考えたくはない。
けれど、考えなきゃいけない。
目を逸らしてしまいたい現実を、受け入れなきゃいけないことだってある。
悔いのない人生なんて絶対にないけれど、それでも限られた時間の中で、悔いのない生き方を全うできるように。
口で言うほど簡単な話ではないけれど。
早坂
不意に早坂の声が聞こえて思考を止めた。
早坂
早坂
早坂
見上げた先にある表情は険しいまま。
早坂の言う『あの日』が、あの人から暴力を受けた日のことを指しているのはわかったけど。
遥
彼は悪くない。
むしろ謝るのは私の方なのに。
そう告げても早坂の表情は暗い。
早坂
早坂
遥
謝罪は自己満足にすぎない。
それは早坂自身も痛いくらいわかっていて、それでも口に出すということは、それほどあの出来事が早坂にとって、ショックが大きかったということ。
大事な人を助けてあげられなかった、その怒りや悲しみは計り知れない。
気にしないでと伝えても、早坂はずっと気にするんだろう。
……私も、早坂にとっても。 一生消えない心の傷を負った、あの日。
あの日の後悔を絶対に忘れちゃいけない。
もう2度と繰り返すことのないように。
遥
早坂の肩にもたれかかる。
静かな息遣いを耳元で感じる。
遥
早坂
遥
私の囁くような小さな声が、狭いバスルームに反響した。
早坂
顔を上げれば、聡明な瞳とぶつかった。
黒目の艶の瑞々しさに視線を奪われていると、その瞳がゆったりと細められる。
早坂
遥
早坂
早坂
早坂の瞳に熱が孕む。
そっと頷けば彼は嬉しそうに笑って、私の腰を掬い上げた。
遥
びっくりして声を上げてしまう。
不安定な態勢に、慌てて早坂の首にしがみついた。
お姫様抱っこなんて生まれて初めての経験で、ちょっと気恥ずかしくなる。
そのままバスルームを後にして、バスタオルごと身体を包み込まれた。
遥
早坂
遥
遥
早坂
早坂の足が、床を踏みしめるたびに微かな水音が鳴る。
ベッドに近づくにつれて、胸の鼓動が早鐘を打つ。
あの夜以降、何の触れ合いもしていない私達。
本当は触れたかったし、触れてほしかった。
思えばあの日、この人に抱かれたのは、青木さんのことを忘れる為だった。
ぽっかりと空いた心の隙間を、埋めたいが為に彼に抱かれた。
でも今日は、今日からは違う。
本当に、この人だけを想って抱かれてもいいんだ。
早坂の頬に手のひらを添える。
自分の唇を彼のそれに重ねた。
熱を帯びた双眼に見つめられて、心臓が跳ねる。
遥
早坂
遥
早坂
遥
自分から誘うのは、少しだけ恥ずかしいけれど。
遥
その言葉を皮切りに、辿り着いたベッドに優しく押し倒された。
柔らかなスプリングが私の身体を受け止める。
覆い被さってきた早坂の背中に、そっと両腕を回した。
……唇が重なるたびに身体が疼く。
繰り返されるキスが、呼吸さえも苦しくさせて。
肌の上を滑る指先に翻弄される。
遥
掠れた吐息が、私の鼓膜を震わせる。
快楽の波に飲み込まれそうになって、必死に理性を繋ぎ止めながら彼の名前を呼んだ。
小さく喘げば、口元を緩ませた早坂の笑みがもっと甘さを滲ませていく。
それを見て、はっきりと自覚する。
もう、この人がいないと生きていけないくらい、私の心は彼に溺れているのだと。
これから先、どんな苦難が待ち受けているのかなんてわからない。
それこそ明日、大切な人を失ってしまうかもしれない。
だから私は早坂と一緒に、明日を生きていきたいと思った。
彼と一緒なら、何があっても乗り越えられる。 そう信じて疑わなかった。
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コメント
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第36話、読み終わりました……! お風呂場での遥の告白、すごく良かったです。「好きになっちゃった」という言葉の軽やかさと、それまでの「いっぱい待たせてごめんね」の重みが絶妙でした。畑中店長の話から早坂自身の後悔の話へと繋がる流れも自然で、二人が互いの闇を抱えながらも「一緒に生きていきたい」と決意するラストに胸が熱くなりました。読み手として、このエピソードは本当に感情が揺さぶられる回でした。素敵な物語をありがとうございます!