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瑠璃マリコ
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――七瀬の表情が苦痛に歪んでいく。
その様子を横目で見て、もう限界だと感じた。
2人の無意味なやり取りを見るのも、七瀬が傷付いていく姿を見守ることしかできない、この状況にも。
この男を七瀬から引き離す必要がある、そう判断して俺は席を立った。
もともとこの男とは、2人だけで話をしたかったんだ。好都合だ。
けれど正直、気が重い。
いくら相手が恋敵であっても、だ。
2人の仲を引き裂くような真似が、この場において正しいことだとは思えなくて。
……今から俺のする事は、人の道から外れている。
けれど、正解なんてどこにもない気がする。
なら、自分がすべき事を優先する。
体裁もプライドもかなぐり捨てて、助けてほしいと俺に縋ってくれた七瀬に応えるために。
先にカフェを出た俺の後に、青木が続く。
その足取りは実に堂々としていて、悪びれている様子は一切ない。
悪事の数々を暴かれておきながら、コイツの神経どんだけ図太いんだと感心すら抱く。
でも見習いたいとは思わない。
それよりも心配なのは、カフェに一人残してきた七瀬の方だ。
――この場に七瀬を呼びたくなかった理由。
それは彼女に聞かせたくない話があったから。
そのうちのひとつが、青木の結婚事情。
この男の本当の結婚時期を教えれば、おのずと残酷な事実に辿り着いてしまう。
この男は七瀬と仲を深めておきながら、同時進行で違う女とも愛を育んでいたんだ。
その結果が相手の妊娠だ。
青木との結婚を夢見ていた七瀬にとって、これほどショックなことはないはずだ。
……真実を打ち明けている時の、七瀬の顔が脳裏に蘇る。
今にも泣いてしまいそうなほど表情を歪ませて、そんな姿を見る度に、チリチリとした痛みが胸に走った。
本当は、あんな顔をさせたくなかった。 もう泣かせたくなかったのに。
可能であれば、七瀬の言う"綺麗で円満な別れ"に近い形で終わらせてやりたかった。
だったらあんな話を、わざわざあの場で…… いや、彼女の前で明かさなくても良かったんじゃないかと疑念を抱く。
けれど、こうするしかなかった。
2人の離別を決定打にする為に必要だった。
男の素性と悪事を白日の下に晒すこと。
裏切り行為を自認させて、二度と七瀬に近づかないように誓わせる――
相手の弱味を握る形にはなるが、七瀬がこいつにされたことに比べたら可愛いものだろう。
……もうひとつの"聞かせたくない話"は、これからだ。
青木
喫茶店からやや離れた場所。
着いて早々、青木は俺を咎める口振りで突っかかってきた。
青木
青木
青木
青木
饒舌な口調で喋り始めるから笑ってしまう。
七瀬の前だと大人しいのに、彼女がいないと随分と荒い気性を出す。
なんともわかりやすい奴だ、と改めて思う。
本人も自覚していたから、七瀬の前では優しい男を演じてきたんだろう。
……俺が4年間、七瀬を想い続けてきたように、この男も4年間、七瀬と一緒の時間を過ごしてきた。
あれだけ他人と揉め事を起こしてきたこの男が、七瀬と交際している期間だけは、一度たりとも不祥事を起こしていない。
交際の途中で他の女と結婚する羽目になるが、それだって、親から勧められた縁談を断れなかっただけだ。
それでも七瀬から離れられなかった、という事だ。
だからこそ、同じ男として、どうしても言いたいことがあった。
早坂
青木
早坂
早坂
早坂
早坂
政治家の息子、エリート一家、優秀な長男。 そして、でき損ないの次男。
その特殊な環境下で、この男がどんな闇を抱えていたのかはわからない。
けれど、こいつは七瀬と出会った。
七瀬といる間は、青木の精神は安定していた。
鬱屈した感情を持て余すこともなかった。
空虚だった心の隙間を、彼女が愛情で満たしてくれたからだろう。
早坂
早坂
七瀬は男を立てるのが上手い。
褒め上手だし、家庭的で奉仕系だ。
心を許した男にはとことん尽くす、七瀬もそんなタイプだろう。
居心地のいい空間を作ってくれて、自分の存在をとことん肯定してくれる。
そんな彼女に癒されていたんだ。 俺も、こいつも。
早坂
早坂
青木
早坂
早坂
青木
狂ったように、青木は声を張り上げた。
感情を抑え込んでいた男の突然の豹変。
父親の名前を安易に出したのがマズかったのか、怒りを露にした表情で詰め寄ってくる。
荒々しく胸ぐらを掴まれた。
青木
青木
青木
放り投げるように突き飛ばされる。
体勢を崩してよろめいた俺の腹部に、青木の容赦ない蹴りが入った。
早坂
鳩尾に強い痛みが走る。
危うくその場に倒れかけ、咄嗟に後ろ手をついて体を支えた。
内心、舌打ちする。
人目につく場所なら手を出してこないだろうと高を括っていたけど甘かった。
キレたら周りが見えなくなるタイプは、場所がどこだろうと関係ねぇのかよ。
早坂
痛みを堪えながら顔を見上げた時、もう一度胸ぐらを掴まれた。
無理やり体を引き上げられ、憎々しげに睨み付けられる。
青木
青木
青木
早坂
青木
不満を一気に爆発させた後、青木は怒りを鎮めるように、ふーっと息を吐いた。
口元を歪め、下卑た笑みを浮かべる。
青木
早坂
早坂
青木
青木
早坂
何言ってんだこいつ。
青木
青木
青木
早坂
早坂
不快に眉をひそめても、青木の喋りは止まらない。
青木
青木
青木
青木
早坂
これ以上は聞きたくないと、男の手を払う。
距離をとり、真正面から青木を見据えた。
青木
何の優越感なのか、青木は得意気に語り始めた。
青木
青木
青木
青木
早坂
青木
青木
青木
青木
馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
どこまでも余裕な態度を崩さない。
俺よりも自分の方が優勢だと、そう誇示することで必死に体裁を守ろうとしてる。
そんな姿は惨めなだけなのに、それを本人が自覚していないのなら、もう何を言っても無駄なのだと悟った。
早坂
青木
早坂
早坂
早坂
早坂
そう告げれば、忌々しげに舌打ちをする。
あんな風に煽れば、俺がムキになって突っかかってくると思っていたんだろうけど、あまりにも考え方が幼稚すぎる。
本当に俺らより年上なのか、コイツ。
早坂
早坂
早坂
早坂
青木
早坂
早坂
しかめっ面のまま呼吸を整える。
馬鹿と話してると疲れるな、本当に。
早坂
早坂
早坂
青木
早坂
早坂
青木の眉間に皺が寄る。
お前のことなんか知るかと言いたげな顔だ。
だが、待ちの体勢でいるしかない俺としては大問題だ。
早坂
早坂
早坂
青木
青木
早坂
早坂
早坂
早坂
そんなことを気にするほど狭量じゃない。
先を越されたとか、気にする方が馬鹿らしい。
……まあ、初めての相手がコイツだと七瀬から聞いた時はモヤッとしたけど。 それはともかく。
早坂
早坂
早坂
口を挟む暇も与えずに略奪宣言してやった。
これが言いたかった。スッキリした。
呆然としている青木に背を向け、俺は身を翻した。
もう用は済んだとばかりに、喫茶店へ戻ろうとした――が。
早坂
早坂
最大の目的を忘れるところだった。
略奪宣言をする為に、ここまで連れ出したんじゃない。
振り返り、俺は青木に向かって手を差し出した。
コメント
2件
第29話、読ませていただきました!七瀬を傷つける青木に対して、早坂さんが冷静だけど熱い想いで立ち向かう姿がかっこよかったです。特に「七瀬は浮気してない」と断言するところ、胸がすっとしました。青木の下品な発言には腹が立ちましたが、それに動じず自分の言葉で返す早坂さんの強さにグッときました。最後の「肝心なこと忘れてた」で続きが気になりすぎます…!桃下さんの心情描写、毎回丁寧で好きです🌷