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店へ入ると、店内の明かりはついていた。


「おはようございます」


花純は少し大きな声で叫んだ。

すると奥から、


「はーい」


という女性の声が返ってくる。そしてその女性は続けて言った。


「悪いけれど、ちょっとこっちに来て脚立を押さえて貰えないかしら?」


その声に、花純は店の奥へと進んで行く。

すると壁際の脚立に上っている女性の姿があった。

脚立はグラグラと揺れていて不安定な様子だ。

花純は慌てて駆け寄ると、その脚立をしっかりと押さえた。


脚立が安定すると、女性は手にしたいくつかのドライフラワーのリースを壁のフックへ掛けていく。

全部掛け終わるとホッとした様子で脚立から降りてきた。


「あ、あの…今日からこちらでお世話になる藤野花純と申します。よろしくお願いします」


花純は少し緊張気味にお辞儀をした。

そして目の前にいる女性を見つめる。

女性はとても綺麗な人だった。


年齢は40歳前後だろうか? ウェーブのかかったライトブラウンの髪は、

緩くアップにしていてとてもエレガントだ。

服装は細身のジーンズにVネックの黒のTシャツ。それに黒のエプロンをつけている。

そのカジュアルな服装が、逆に女性らしさを引き出している。


細いウェストには革製のシザーケースをつけ、何本かの花切狭が入っていた。


(なんて素敵な人!)


同性の花純から見てもとても魅力的な女性だった。


(この人が私の上司なの?)


そう思うと、途端に胸が躍る。

すると女性は微笑みながら言った。


「店長の唐沢優香です。私も以前本社にいたのよ。どうぞよろしくね!」

「こちらこそよろしくお願いいたします!」


花純が慌てて再度頭を下げると、


「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。ここには怖い人はいないから」


優香はクスクスと笑いながら言った。

そして、


「まだ少し時間があるから、あっちでお話ししましょうか」


と言うと、通用口を出てから隣のカフェに向かった。


カフェの注文カウンターまで行くと、花純に聞く。


「コーヒーでいい?」

「え? あ、はい……」

「次郎ちゃん、コーヒー2つお願い」

「おはようございます。いつもありがとうございます!」


顎髭を生やしたカフェのスタッフは優香にそう声をかけると、

優香が差し出したカードで会計を済ませてからコーヒーの準備にかかる。

花純が慌てて自分の分を払おうとすると、

優香は右手でやんわりと制止してから言った。


「大丈夫よ。経費で払うから」

「ありがとうございます」


花純は恐縮しながらお礼を言う。

それを見ていた次郎が優香に聞いた。


「新しい人ですか?」

「そうよ、藤野花純さん。こちらはカフェの斉藤次郎君」


花純が慌てて次郎に会釈をすると、次郎はニッコリ笑って言った。


「どうも! お隣なんで、何かあれば遠慮なく言って下さいね」

「ありがとうございます」


次郎がトレーに乗ったコーヒーを優香に手渡すと、


「あっちに座りましょうか」


そう言って、吹き抜けのエントランスにあるテーブル席へと

花純を誘導した。

そして「どうぞ」と言ってコーヒーをテーブルに置いた。


向かい合って座った二人は、コーヒーを飲みながら話し始める。


「花純ちゃんって呼んでもいいかしら?」

「はい。えっと私は……」

「みんなは私の事を『優香さん』って呼ぶわ。店長って呼ばれるの、あまり好きじゃないのよね」


優香は微笑みながら言った。

花純は軽く頷くと、先ほどから気になっていた事を聞いてみる。


「優香さんも以前本社にいらしたというのは本当ですか?」

「うん、そうよ。もしかしたらあなたと同じかも」

「えっ?」

「突然の出向だったでしょう?」

「あ、はい……」

「やっぱりね…。この店が本社の人達からなんて呼ばれているか知ってる?」

「いいえ……」


全く見当がつかなかった花純は、戸惑いながらそう返事をする。


「フフッ、『流刑地るけいち』って言われているのよ」

「『流刑地?』」

「そう。もちろんこの事は一部の人しか知らないけれどね」


優香はそう言ってフフッと笑った。


「それはどういう意味なんでしょうか?」

「うーん…なんて言えばいいのかなぁ? 一言で言えば会社から目をつけられた人が来る場所って感じかな?」

「…………」


その言葉に、花純は瞬時に青ざめる。

まさか自分が『流刑地』へ島流しにあっていたとは夢にも思っていなかったので、かなりショックを受けていた。


一体自分はどんなミスをしてしまったのだろう?

もし重大なミスをしたのだとしたら、なぜ穂積課長ははっきりと伝えてくれなかったのだろうか?

そんな思いが次々と頭を過る。


うろたえている花純を見て、優香が静かに言った。


「その様子だと全く身に覚えがないって感じね。私の時もそうだったわ。でもね、この異動の裏にはきっと何かあるはずよ。人事部から送られて来た花純ちゃんの履歴書を見せて貰ったんだけれど、私もなんであなたがここに来たのか凄く不思議だったわ。あなたは国立大学を出ていて優秀だし、入社後は庭園デザイン設計部に配属されていたんでしょう? それが突然花屋に出向になるなんて変だとは思わなかった?」

「思いました…」

「でしょう? ちなみに私は本社で営業部にいたの。で、花純ちゃんみたいにある日突然ここへ異動よ。その理由はだいぶ後で分かったわ」


思わず花純は前のめりになって聞く。

クールな御曹司はフラワーショップ店員を溺愛したい

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コメント

2

ユーザー

花純ちゃん早速、素敵な出会い💓なのに…同じ出向で「流刑地」って?やっぱりウラがある?

ユーザー

優香さん、とてもステキな店長さんだけど、花純ンと同じく突然の出向と「ここには怖い人はいない」発言‼️と言う事は本社に「怖い人」がいるって事⁉️ それに「流刑地」って‼︎ なんか嵌められた感がありありで怖い😱🙀

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