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「……フローチェさんが釣ったのは、一匹だけじゃなかったんだ」
女神のように美しいフローチェは、釣りの腕までピカイチだった。
思わずベルが感嘆の声を出せば、すぐさま横から「しっ」と嗜められてしまった。
「ごめんなさい」
ベルは口パクで、隣にいるモーゼスにぺこりと謝る。
そうすればモーゼスはにこっと笑って、ベルの頭を慰めるようにポンポンと優しく叩いてくれた。
その仕草は孫を可愛がるおじいちゃんのようだが、その手にはしっかりと剣が握られている。
足が悪いモーゼスが杖代わりにしているわけではない。いつベルの身に危険が及ぶかもしれない状況だから、それを手にしているのだ。
***
ラルクが男のプライドを捨てて、ベルに扮して近くの街を練り歩くこと10日。
街の人達から一度も女装と見破られなかったのは、ラルクが心まで女性に扮してくれたのか、それともフローチェのコーディネートが完璧だったのかはわからない。
ただ”街人じゃないが、ここ最近良く目にする撫子色の髪の女の子”の存在はかなり広範囲に知れ渡り、ベルをずっと探している人物の耳にまで届いたようだった。
その間、ラルクは数え切れないほど、男性からデートの誘いを受けた。
さすがに任務中の彼は、声をかけてきた相手に「俺は男だ」と言うことができず適当にあしらったそうだが、その後「あいつら全員ぶっ殺す」と物騒なことを呟いていたとか、いないとか。
そんなラルクの苦労の甲斐あって、今日、ここには女神が釣り上げた巨大魚が2匹いる。またの名を、ベルの義理の姉二人ミランダとレネーナとも言う。
ミランダとレネーナは、今日の朝早くにフローチェの邸宅に押しかけて来た。
執念で仮住まいの場所まで辿りつくところまでは、ベルとて容易に推測できていた。ただ、この二人までもがケルス領を離れて自分を探していることには、驚きを隠せなかった。
一方、この屋敷の主であるフローチェは、まったく動揺する素振りをみせず、堂々と玄関ホールにいる二人の前に現れた。
「突然押しかけてすみませんわね。わたくしはミランダ・クラース。ケルス領の者ですの。そして隣が」
「妹のレネーナですわ、初めまして」
(二人とも、すっごい余所行きの顔……気持ち悪っ)
ベルの知っているミランダとレネーナは、意地悪く凶暴で、触るもの皆傷付けるトゲ付き棍棒なのに、ここにいる二人はその狂気を隠して、礼儀正しく微笑んでいる。
(女って怖い……本当に怖いっ)
自分の性別も女であることをすっかり忘れ、ベルは完璧に引いた。
けれどもフローチェは、そんな猫っ被りの二人に対し、詳しく要件を聞くこともなく、にこやかにサロンへと誘った。
フローチェが義理の姉二人を通したサロンには、面白い細工がしてある。
壁に取り付けてある鏡は、反対の部屋からは透けて見える──マジックミラーになっており、特殊な壁材を使用しているので会話は筒抜け。客人が不審な行動を取ったらすぐさま武力行使ができるよう特別サロンなのだ。
そんなわけで、ベルとモーゼスはフローチェと義理の姉二人がいるサロンの隣の部屋には、帯剣した護衛騎士が数人控えていたりする。
コメント
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みぃです🥀 第73話、読みました…… ラルク、10日間も女装任務やってたんですね……その間ナンパされまくって「全員ぶっ♡♡♡」って呟いてたエピソード、笑いそうになりました。でもそれだけ本気でやってくれたんだなって思うと、なんかグッときます。 そしてミランダとレネーナがついに登場……! ベルの「女って怖い」はちょっとわかる気がする(笑)。フローチェのマジックミラーサロン、用意周到すぎて逆に怖い。これからどうなるのか、続きが気になります🌙