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壁一枚挟んだ向こうでは、フローチェが営業スマイルで義理の姉二人にお茶を進めている。
「お口に合えば嬉しいですけれど。さぁあ……どうぞ、飲んでくださいな」
そう言ってフローチェは客人がティーカップを持ち上げる前に、さっさとお茶を口に含む。
毒入りじゃないということをアピールしたいのか、それともサロンに通したけれどあんた達は客じゃないからと言外に訴えているのか。フローチェの笑みが完璧すぎて、ベルにはわからない。
それはミランダとレネーナも同じのようで、かろうじて笑みを浮かべているがティーカップを持つ仕草は笑ってしまうほどぎこちなかった。
しかし、こんな朝っぱらから事前に伺いを立てずに乗り込んできただけあって、ミランダはお茶で喉を潤すと口火を切った。
「早速ですが、わたくし達、生き別れになった妹を探しているんです」
真剣な口調で切り出したミランダに、フローチェは目を丸くする。
「まぁ……生き別れの……妹ですか?」
ベルは自分の出自を、フローチェに何一つ伝えてはいない。
しかし女神はあの叩きつける雨の中、自ら馬に乗って刺客達を蹴散らしたくれたのだ。
危険を顧みず駆け付けてくれたということは、興味本位からではなく、おおよその事情を知っているはずだ。
それに事情を知っていなければ、あんなにノリノリにラルクの女装を手伝うわけがない。もしかしたらレンブラントから依頼を受けたのかもしれないが、それでも知っていることに変わりはない。
でも鏡越しに見る今のフローチェは、こちらの事情に一切関与していないといった態度を貫いている。
あまりに演技が上手すぎて、フローチェは何も知らないけれど、ノリと勢いでこの場を楽しんでいるんじゃないかとベルは疑ってしまう。
そんな中、義理の姉たちは胸くそ悪くなる嘘を次々に吐いていく。
「……ええ。ある日突然居なくなってしまって。うっ、ううっ……さんざん手を尽くして探し続けたのですが、ずっと見つからず……うっ、うっ」
「もう一生妹と会えないのかと諦めかけた頃、こ、この町で……い、妹とよく似た容姿の娘を見かけたという情報が入りまして……」
もう何度も打ち合わせしたかのような阿吽の呼吸で、ミランダとレネーナはベルを必死に探していることをフローチェに訴える。
時おり涙声になるその口調は、心から妹を案じているようにしか聞こえない。
ただフローチェは、世間話の一貫として耳にしているような表情で頬に手を当て口を開く。
「まぁ、それは何よりですわ。一日も早く妹さんが見つかると良いですわね。でも、わたくしは──」
「恐れながら、まだ続きがございまして」
「あら、なんでしょう?」
フローチェの言葉を遮ったのはミランダだった。
さすがの無作法さにちょっとフローチェはムッとするが、ミランダはそれに構うこと無く身体を前のめりにしながら言葉を続けた。
「わたくしの妹は、このお屋敷に身を寄せているとの情報も入っているんです!」
「……あらそう」
しらばっくれんなよ!と言いたげな義理の姉二人に対し、フローチェは今度もまた他人事のように雑な返事をするだけだった。
コメント
1件
ああ、もう、この姉たちの偽善っぷりが最高にムカつくわ!笑 フローチェの「あらそう」が完全に「知らねえよ」って顔してて好き。ベルが鏡越しに見てる構図も面白いし、演技派すぎる女神のノリノリ感が伝わってくる。続きが気になる展開だわ🔥