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#童ノ宮奇談シリーズ
2026年7月23日 午前6時28分
■■県童ノ宮市湯山町戴 稚児喰ノ山 ロープウェイ乗り場・山頂駅
塚森キミカ
程なくして、ゴンドラは山頂駅に到着した。
麓で出会ったおっちゃんと双子のようにそっくりなでも表情は対照的にブスッとしたおばちゃんにチケットを手渡した後、うちらは駅を後にした。
駅の近くに建てられた案内の看板に稚児喰ノ山は石灰岩を多く含む、カルスト系構造であり、洞穴や巨大な縦穴が形成されやすいと表記されていた。
下部は海へと通じる地下水脈と通じているため、常に冷気が吹き上がっているのだと。
今、うちらが進む山頂付近の遊歩道を、たった数メートル先でも見えないほどの真っ白な霧が覆っているのもその影響らしい。
それにもかかわらず、マー君の――いや、マー君と同じ姿をした男の子の歩調は一切の迷いが感じられなかった。スタスタと足音を立てて、うちの前をどんどん進んでゆく。
このままじゃ置いてけ堀にされる。
ロープウェイの駅まで戻れたらいいが、迷子になり、視界がきかないまま崖から転落死なんてことも最悪あり得る。
「な、なぁ! ちょっと待ってぇや!」
焦りを覚えながら、眼前を漂う霧の向こうにむかってうちは叫んだ。
情ないことにほとんど泣き声だった。
「歩くん早いねん! 少し、こっちとペースを合わせてぇな!」
「あ、ああ、ごめんね」
霧の中から気まずそうな声が聞こえた。
小走り状態で男の子がこっちに戻って来て、気まずそうな顔で
「つい、気が急いちゃって。――手、つなぐ?」
ブスッとしたまま、うちは少し乱暴にその手をつかんでいた。
男の子にエスコートされながら進んでいた遊歩道は、いつの間にか道とも言えない道へと変わっていた。
舗装がなくなってデコボコとした歩きにくい剥き出しの地面。急な勾配がつき、ほとんどに直角に近い坂となり、背の高い草に覆われた山道へと。
あれ、とうちは思った。この道のり、身に覚えがある。
男の子がうちを導こうとしているのは、ひょっとしたら……。
「さっきキミカちゃんに聞かれたことだけどさ」
「えっ」
「実際のところ、自分でもよく分からないんだ。何しろわたしが生まれたのは――生まれたと言うより発生した、って言うべきかな。ここ、一年のことだからね」
「そ、そんな前から? 一体、どういうことなん?」
声がうわずる。
身震いしてしまったのは、山頂の気温が地上より遥かに低いことだけが理由じゃなかった。
「まさか、その時、マー君から身体を奪い取るために……」
「違う。それは違う」
かすかにだけど、男の子の口調が強くなった。
「そんなことするわけないだろ。マキオは今、少し眠らせてるだけ。……その、母上様とのことでちょっとあって――、見てられないほど可哀想だったし」
そう言って男の子は言葉を切り、
「とにかく、私はそんなことしてないし、しない」
傷ついたようにそう言って、男の子がプイと目をそらす。
その外見に相応しい、幼い表情にチクチクと小さな棘で突いたような痛みがうちの胸を刺す。罪悪感だ。思わず口が過ぎてしまった。
「じゃあ、じゃあ――、結局あんたは……」
「言ったでしょ。自分でも、よく分かっていないんだって。……だけど多分、わたしはあの御方の外法の一部だと思う。だから、名前もない」
「げ、外法って……」
「あの御方とマキオを直接繋いだら、弱いマキオは負荷がかかり過ぎて消し飛んじゃうでしょ? だからわたしはその間に挟まる中継器みたいなものなんだよ」
小さくため息をついて男の子が言葉を続ける。
「キミカちゃんはデイジーチェーンって知ってる?」
「デ、デイジー……? 何それ? 専門用語?」
知らんかったし、本人は説明してくれているつもりなんやろうけど、サッパリ理解できない。むしろ、ますます混乱してきた感まである。
「あの、ごめんやけどうち頭悪いから……。その、もっと簡単に」
「いや、わからなくていいんだよキミカちゃんは」
うちを遮るように、男の子が言葉をかぶせてくる。取り繕うように言い訳するように――、気まずそうに男の子は付け加えた。
「ここから先、ケガレを背負うのはわたしの役目だから。それにいずれ、全部分かる事だから」
そこからは男の子は、うちが何を尋ねても口を堅く結んだまま、何も答えてくれなくなった。仕方なく、うちも黙ってその後を追い続けるしかなかった。
コメント
1件
おお、第21話読んだわ!今回のエピソード、めっちゃ深掘りされてるやん。マー君の中の“もう一人”の子が「外法の中継器」みたいな存在で「デイジーチェーン」って言葉も出てきて、世界観の設定がどんどん広がってる感じがしてワクワクしたわ。キミカちゃんが「頭悪いから」って混乱してるシーン、めっちゃ共感した(笑)。でもその子が「ケガレを背負うのは自分の役目」って言うところ、切なくてグッときたわ。次が気になるわ~!