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高校二年・Hさん
最近、学校で嫌なことが続いています。
毎日というわけではありません。
授業中にからかわれたり、休み時間にわざと自分だけ話に入れてもらえなかったり、提出したものを勝手に見られたりします。
そのたびに嫌だとは思います。
でも、家に帰ると普通にご飯も食べるし、動画を見たりもできます。
学校にも行けています。
だから、自分では「別に大したことない」と思っています。
友達に話そうと思ったこともあります。
でも、もっとひどい目に遭っている人もいるし、これくらいでつらいと言ったら大げさだと思われそうで、結局何も言えません。
最近は、嫌なことがあっても「まあ、こういうこともある」と思うようになりました。
慣れたのかもしれません。
でも、前より学校に行くのが嫌になっています。
これくらいのことで、つらいと言っていいんでしょうか。
遥「……これ、『これくらい』って言ってるけど、結構いろんなことされてるよな」
H「でも、もっとひどい人もいるので」
遥「もっとひどい人がいることと、Hが嫌だったことは別じゃない?」
H「……」
遥「からかわれたら嫌だし、仲間外れにされたら嫌だし、勝手に見られたら嫌だろ」
H「はい」
遥「それを毎回、『もっとひどい人がいるから』って消してたら、自分が嫌だったことを言える場所がなくなる」
蓮司「そもそも、被害の大きさを他人と競争しないと相談できないってルールがおかしい」
H「でも、本当に大したことじゃないと思うんです」
蓮司「じゃあ聞くけど」
H「はい」
蓮司「もし友達が同じことを毎日されてて、『別に大したことない』って言ってたら、おまえ何て言う?」
H「……嫌なら、嫌って言っていいと思います」
蓮司「自分にもそれ言えよ」
H「……」
蓮司「他人なら心配するのに、自分になると急に審査が厳しくなる」
H「自分の場合は、我慢できてるから」
日下部「我慢できてることと、平気なことは別だろ」
H「……」
日下部「学校にも行けてる。ご飯も食べられる。動画も見られる。それで、嫌じゃないことにはならない」
H「でも、普通に生活できてます」
日下部「普通に生活しながら、しんどいこともある」
H「……」
日下部「どっちか一つじゃない」
遥「俺も、『学校に行けてるなら大丈夫』って言われたら、違うと思う」
H「……」
遥「行けるから平気、じゃないよな」
H「はい」
遥「行けてるけど嫌なんだろ」
H「……はい」
蓮司「あと、『慣れた』っていうのも気になる」
H「何がですか?」
蓮司「最初は嫌だったのに、何回も続いて『まあ、こういうもの』って思うようになったんだろ」
H「はい」
蓮司「それ、楽になったんじゃなくて、嫌だと思うたびに傷つくのが面倒になって、最初から期待しなくなっただけかもしれない」
H「……」
蓮司「『またか』で済ませれば、その瞬間は考えなくて済むからな」
H「そうかもしれません」
遥「でも、その『またか』が積み重なったら、学校そのものが嫌になるよ」
H「最近、朝になると行きたくなくなります」
日下部「それはちゃんと見た方がいい」
H「……」
日下部「『これくらい』で片づけない方がいいと思う」
H「でも、相談したら大げさにしてしまいそうで」
日下部「相談したからって、すぐ大ごとにしなきゃいけないわけじゃない」
H「……?」
日下部「まず、『こういうことがあって嫌だった』って話すだけでもいい」
H「解決してもらわなくても?」
日下部「いい」
H「誰かに話したら、相手に仕返しされたりしないですか」
日下部「それは相手や状況によるから、そこは一人で決めない方がいい」
H「……」
日下部「信頼できる先生とか家の人とか、話せる大人がいるなら、どう伝えるか一緒に考えてもらえばいい」
蓮司「『相談したら全部大げさになる』か『何も変わらない』かの二択にする必要もない」
H「……」
蓮司「まず現状を知ってもらう。それだけでも違うだろ」
遥「自分で『大したことない』って判定して、誰にも知られないまま耐える必要はないと思う」
H「……でも、こんなことで相談していいのかな」
遥「俺は、いいと思う」
H「……」
遥「嫌だったんだろ」
H「はい」
遥「じゃあ、それで十分じゃない?」
H「……」
蓮司「『もっとひどいことをされてから相談しよう』だけはやめた方がいい」
H「……」
蓮司「そこまで待つ理由ないから」
日下部「今の段階で話していい」
H「……」
日下部「学校に行けてるかどうかも、泣いてるかどうかも関係ない」
H「じゃあ……これくらいでも、つらいって言っていいんですか」
遥「いいよ」
蓮司「むしろ、自分で『これくらい』って小さくしてるところから話していい」
日下部「『大したことないと思うんですけど』から始めてもいい」
H「……それなら言えそうです」
遥「うん」
H「今まで、もっと限界にならないと相談しちゃいけないと思ってました」
蓮司「限界になるまで待つ必要ないだろ」
日下部「しんどいと思った時点で、話していい」
H「……分かりました」
🗝 三人からのことば
遥「もっとつらい人がいるからって、自分の嫌だったことまで消さなくていい。嫌だったなら、それは話していいことだと思う」
蓮司「『これくらい』を何回重ねても平気になるとは限らない。慣れたんじゃなくて、諦めることで耐えてる場合もある。限界になるまで待つ必要はない」
日下部「学校に行けてる、普通に食べられる、笑える。それでもつらいことはある。『つらい』と思った時点で、誰かに話していい」
コメント
1件
第20話、読み終えました。Hさんの「これくらいでつらいと言っていいのか分からない」って言葉、すごく響きました。自分には厳しいのに、もし友達だったら「嫌なら言っていい」と言える——その矛盾を三人が優しく紐解いていくのが印象的でした。特に蓮司の「慣れたんじゃなくて諦めてるだけかもしれない」には、はっとさせられます。つらさに大小はないし、限界になってからじゃ遅い。そう思えることばを届けてくれるお話でした🌷
#異世界
眠狂四郎
885
#ダークファンタジー