美樹が電話をしている間、省吾が奈緒に聞く。
「本当にいいのか? 無理しなくてもいいんだぞ?」
「大丈夫です。なんか楽しそうだし」
「そう? なんかかえって悪かったな……」
実のところ奈緒は少しホッとしていた。
正直、省吾と二人きりでレストランへ行っても何を話していいのかわからない。
だから美樹の申し出が嬉しかった。
しかしまさかこんな展開になるとは思ってもいなかったので、奈緒はつい可笑しくなる。
でも、時にはこうやって自然な流れに身を任せてみるのもいいのかもしれない……奈緒はそう思うようにした。
その時美樹が電話を終えた。
「賢一がね、腕によりをかけて料理を作りたいからもう少し時間を潰してから来いって」
そこで省吾が奈緒に説明した。
「義兄さんは趣味が料理なんだ。いや、趣味というよりほとんどプロ級か?」
「凄い……」
「奈緒ちゃん期待しててね。きっとその辺のレストランなんかより絶対に美味しいから」
美樹がそう言って奈緒にウインクをしたので、思わず奈緒は微笑む。
「ところで省吾、折角店に来たんだから、何か奈緒ちゃんにプレゼントでもしなさいよ」
「もちろんそのつもりだよ」
「えっ?」
奈緒が驚いて声を出す。
「何をプレゼントするの? まさか婚約指輪じゃないでしょうね~?」
「それはまだだな。俺達は付き合い始めたばかりだから」
「それじゃあお付き合い記念のプレゼント? アイテムは何にするの? ネックレス? 指輪?」
どんどん話が進んでいくのを見て奈緒は戸惑う。
「指輪かな? 奈緒に変な虫がついたら困るから指輪にしよう」
「了解! じゃあ奈緒ちゃんこっちへ来て」
「えっ? そんな……あの……私そんなつもりじゃ……」
「いーのいーの、あの人お金いーっぱい持ってるんだから遠慮しないでー」
美樹はそう言って奈緒の手を引っ張って行った。
そして様々なデザインの指輪が並んだショーケースの前に奈緒を連れて行く。
奈緒が困ったように省吾を見上げる。省吾は奈緒の耳に口を近付けこう言った。
「『偽装恋人』には小道具も必要だろう? だから好きなのを選んで」
省吾の言葉で奈緒は漸く意味がわかった。
(そっか……あくまでも『偽装恋人』の小道具として買うって事なのね)
とはいえ、ここにある指輪はどれも上質で一番安い指輪でもかなりの値段がした。
小道具として使うのに、果たしてそんなに高価な指輪が必要なのだろうか?
その時美樹が奈緒に聞いた。
「奈緒ちゃんはどんなデザインが好き?」
しかし奈緒はなんと答えていいのかわからず戸惑っていると、美樹が更に質問をする。
「存在感のある華やかなタイプか、繊細で華奢なタイプか?」
「華奢なタイプ……でしょうか?」
「そっか、じゃあこの辺りかなぁ」
美樹が指で示した辺りには、ダイヤやルビー、エメラルドやサファイアといった美しい宝石のリングが並んでいる。
思わず奈緒はうっとりした表情になる。
(なんて素敵なの!)
「奈緒ちゃんはゴールドの方が好きでしょう?」
「えっ? 何でわかるんですか?」
「だって今着けているネックレスもゴールドでしょう? そのセレクトは正解かも。奈緒ちゃんの肌にはプラチナよりもゴールドの方が絶対似合うわ」
奈緒は昔からゴールド派だったので、そう言われて嬉しかった。
そこでまた美樹が奈緒に聞いた。
「奈緒ちゃんは何月生まれ?」
「七月です」
「じゃあ誕生石はルビーね。ルビーのリングは持ってるの?」
「いえ」
「だったら省吾からのファーストリングは誕生石にしたら? 誕生石にはこんな言い伝えがあるのよ。誕生石を身に着けた女性は必ず幸せになれるってね」
「へぇーそうなんだ」
意外な事に省吾が反応する。
「それにね、昔から赤い石はお守りや魔除け代わりにもなるとも言われているのよ」
(お守り……)
奈緒は『お守り』というフレーズに強く惹かれる。
徹からの婚約指輪をお守り代わりにいつも身に着けていた奈緒は、お守りの指輪が無くなってしまった今、なんとなく心細い状態が続いている。
だからあの指輪に代わるお守りが欲しいと思っていた。
「せっかくだから誕生石にしてみる?」
「あ、はい」
「うーんとルビーだったらこの辺りにあるかなぁ? あとは奥に在庫があるかもしれないから、ちょっと見てくるわね」
美樹がバックヤードへ消えると、省吾と奈緒はショーケースの中を覗き込む。
コメント
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誕生石とは嬉しいね😘しかもルビー💍是非省吾さんに買ってもらおう。省吾さんは本気なんだけどね😉 私も7月生まれなんでルビー💍大好きです😂💕
おれにかえす、つもりならば、すてぇてくれぇ~(寺尾聰『ルビーの指輪』より)海に捨てたったで、と~るちゃんっ。
ルビーの指輪💍誕生石のプレゼントは嬉しいね❤️