省吾は奈緒よりも熱心にショーケースの中を覗き込んでいる。
今最も注目されているIT企業のCEOが、真剣な表情でジュエリーを見ている。
こんなレアな姿はなかなか見られないだろうと思った奈緒は、ついクスッと笑ってしまう。
「ん? 笑ったな?」
「すみません……なんだか可笑しくって……」
「何が可笑しいんだ?」
「だって……深山さんのこんな姿はなかなか見られないから…….すごくレアだなって思って」
「こらっ! 人が真剣に探してやってるのに……」
「すみません」
奈緒は謝った後もまたクスクスと笑う。
「笑ってないで、ちゃんと探して! 奈緒が身に着ける指輪なんだからな―」
「あっ、はいっ……」
奈緒は慌ててショーケースの中を真剣に見る。その時、指輪についている値札を見て驚愕した。
(えっ? こんなにするの?)
老舗宝飾店が扱うジュエリーだからそれ相応の値段だろうと予想はしていたが、まさかそこまで高いとは思わなかった。
果たして『偽装恋人』の為にこんな高価ななジュエリーが必要なのだろうか?
その時、美樹がジュエリートレーを手にして戻って来た。
黒いベルベッドのトレーの上には、ルビーの指輪が五つ載っている。
どれも18金イエローゴールド製だった。
「奥に届いたばかりの物があったわ。これかぁ、あとはそのショーケースの中の物ね。ルビーとイエローゴールドの組み合わせって結構少ないのよねぇ」
美樹はそう言ってから奈緒の前にトレーを置いた。
トレーの上の指輪を見た瞬間、奈緒の視線がある指輪に釘付けになる。
それはとてもシンプルな指輪だった。
オーバルカットのルビーが中心にあり、二本に別れたアーム部分がルビーを支えているデザインだった。
とてもシンプルなデザインなのにどこか華がある。
そしてアームの隙間から差し込む光は、ルビーを一層輝かせていた。
奈緒の視線がその指輪に釘付けになっているのに気付いた省吾が、美樹に聞いた。
「この指輪って、サイズ直しにはどのくらいかかるの?」
「早くても一週間くらいかしら?」
「そんなにかかるのか」
省吾はそう呟くと、その指輪をトレーから外して奈緒の左手の薬指にはめた。
すると信じられない事に指輪は奈緒の指にぴったりはまった。まるであつらえたようだ。
「あら、ピッタリ! お直しいらないじゃない!」
「だな。これにしよう。奈緒、これでいいか?」
その時奈緒は値札を見てしまう。
指輪の値段は軽く数十万を超えていた。小道具として買うにはかなり高額だ。
「でもお値段が……そんなに高価な物じゃなくても……」
「値段は気にしなくていいから。これが気に入らないなら他のも着けてみるか?」
もっと安い指輪があるかもしれないと、奈緒は他の指輪も見てみた。
しかしどれも同じような価格帯で、奈緒の好みにピタリとはまるデザインもなかった。
「奈緒、じゃあこれにするよ」
「え……でも……」
「姉貴、じゃあこれを頼むよ」
「ありがとうございまーす! 指輪はそのまま着けて行く? それともケースに入れる?」
「このまま着けて行くよ」
省吾は財布からカードを取り出すと美樹に渡した。
美樹が会計に行き姿を消すと、奈緒はおずおずと省吾に言った。
「あの……本当にいいんですか? あんな高価な物……」
「もちろん。今日からあの指輪が奈緒のお守りだ。だから毎日着けろよ! 仕事中もだぞ!」
「え? 仕事中も?」
「もちろん。虫除けにね!」
省吾はニヤッと笑ってから、奈緒の頭をポンポンと叩いた。
(確かにシンプルなデザインだから仕事中にはめようと思えばはめられるけど、でも……)
奈緒はまだ戸惑っていた。
しかし左手の薬指に感じる指輪の重みに、なぜか心安らぐ。
奈緒は左手を持ち上げて指輪をまじまじと見つめる。
(私の新しいお守り……)
奈緒は無意識に笑顔を浮かべていた。
そこへ会計を終えた美樹が戻って来て奈緒に言った。
「奈緒ちゃん来て来て」
美樹に呼ばれた奈緒は不思議そうな表情で傍まで行く。
「左手を出して!」
奈緒は何だろうと思いつつ素直に左手を差し出す。
すると美樹は奈緒の手首にブレスレットを着けた。
ブレスレットは華奢なゴールドの鎖に、ルビーが一粒ついている。
「えっ? これは……?」
「これは私からプレゼント! 奈緒ちゃん、どうか弟の事をよろしくね」
「えっ? こんな高価な物いただけません……」
奈緒はびっくりして省吾に助けを求める。
「いいんだよ奈緒、有難く貰っておけばいいさ」
「そうよ奈緒ちゃん。それにね、さっき夫に言われたの。省吾が初めて連れて来た彼女なんだからしっかりおまけしろよってね」
それを聞いた奈緒は思わず胸がいっぱいになる。
初対面にも関わらずこんなにもよくしてもらい、感動で胸がいっぱいになる。
「ありがとうございます。大切にします」
「うんうん、指輪とお揃いでイイ感じよ。よく似合ってる」
「セットでつけるのもいいもんだな」
「でしょう?」
この日奈緒は、心のこもった素敵なお守りを一気に二つも手に入れた。
コメント
38件
素敵なプレゼント💍お姉様からも含め魔除けどころか幸せいっぱい😍愛情たっぷりだぁ🎁マリコ先生今日も3話ありがとうございます♡
左手の薬指にストンと収まる指輪はまさに奈緒ちゃんの為に存在したね💍💕 お姉様からブレスレットまで🤭どれだけ祝福モードなの( *´艸`)フフフ ほんとお守りと男避けの💍 そして省吾さんの本気の証✨(今はまだ偽装にしちゃってるけど)早く本当の恋人になってほしい(ღ˘⌣˘ღ)
新しいジュエリーを身につけると新しい自分を発見できるみたいよ😉 これからきっといい事があるはず💕