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1話 眠らない水族館
昼の水族館は、
人の靴音と案内板の矢印で満ちている。
ヒカは入口で立ち止まり、
薄い上着の袖を少し引いた。
髪は短く、首元にかかる。
名札の紐が胸で揺れている。
水槽の前を歩く。
昼の魚は、
ただ泳いでいるだけだ。
夜になる。
照明が落ちる前、
ヒカは奥へ進む。
通路は長く、
壁の表示は静かだ。
水槽の中で、
魚が光る。
強くはない。
水に溶けた光が、
鱗の縁に残っている。
ヒカの瞳に、
その光が映る。
瞬きを一度、
しない。
頬は細く、
指は長い。
ガラスに触れそうで、
触れない。
魚は、
こちらを見ない。
光だけが、
増えていく。
夜の水族館は、
眠らない。