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中学2年・Aさん
昨日、友達と遊びました。
すごく楽しかったです。
ずっと行きたかった店にも行けたし、たくさん話して、帰るまでは本当に楽しかったです。
でも、帰り際に友達から一つ嫌なことを言われました。
大したことではないと思います。
その場では笑っていました。
でも、家に帰ってからずっと気になっています。
それだけならまだいいんですが、昨日一日のことまで嫌になってきました。
写真を見ても、楽しかったはずなのに嫌な気持ちになります。
「この人と遊ばなければよかった」
「楽しかったと思った自分も馬鹿みたい」
と思ってしまいます。
今朝になっても、昨日のことを思い出すと全部嫌になります。
せっかく楽しかったのに、最後の一言だけで全部台無しにしてしまう自分が嫌です。
どうしたら、楽しかったことまで嫌いにならずに済みますか?
遥「……最後に言われたこと、結構引っかかったんだな」
A「はい」
遥「どんなことを言われた?」
A「友達に、『Aって結局、自分のことしか考えてないよね』って言われました」
遥「……それは、普通に傷つくと思う」
A「でも、その子が怒るのも分かるんです」
遥「そうなんだ」
A「私にも悪いところはあったので」
蓮司「で、その一言を何回くらい思い出してる?」
A「……分からないです。何回もです」
蓮司「寝る前も?」
A「はい」
蓮司「朝起きてからも?」
A「はい」
蓮司「写真見ても?」
A「はい」
蓮司「じゃあ、昨日の出来事を思い返してるというより、最後の一言を何度も再生してるんだろ」
A「……そうかもしれません」
蓮司「そのたびに、楽しかった時間まで巻き込んでる」
A「……」
遥「写真を見ると、その言葉まで思い出す?」
A「はい。楽しかったときの写真なのに、『このあとあんなこと言われた』って思ってしまって」
遥「そっか」
日下部「それなら、今は写真を見るたびに嫌な記憶がくっついてくる状態だな」
A「……どうしたらいいんでしょう」
日下部「今は無理に見ない方がいい」
A「消した方がいいですか?」
日下部「消す必要はない。見たくないなら、しばらく見なければいい」
A「でも、せっかくの写真なのに」
日下部「写真を残すことより、今それを見るたびに嫌な気分になることの方が問題だろ」
A「……」
蓮司「俺なら、昨日の楽しかった部分を思い出そうとするのも一旦やめる」
A「え?」
蓮司「『せっかく楽しかったんだから、楽しかったと思わなきゃ』ってやると、最後の一言が余計に邪魔してくる」
A「……」
蓮司「今は普通に腹立ってればいい」
A「でも、そうしたら本当に全部嫌いになりそうで」
蓮司「それは分からない」
A「……」
蓮司「今すぐ結論を出さなくていいってだけ」
遥「俺も、無理に昨日を楽しい日に戻そうとしなくていいと思う」
A「……」
遥「今は嫌な記憶が一番前に出てるんだから、それを押し込めようとすると余計気になるかもしれない」
A「じゃあ、どうすれば……」
遥「少し時間を置く」
A「それだけ?」
遥「うん」
A「何もしなくていいんですか?」
遥「何もしないっていうより、昨日の評価を保留にする感じ」
蓮司「またそれか」
遥「……」
蓮司「まあ今回はいいけど」
A「評価を保留?」
蓮司「『昨日は最高だった』も『最悪だった』も、今決めなくていいってことだろ」
遥「うん」
A「でも、最後にあんなこと言われたんですよ」
蓮司「だから?」
A「……」
蓮司「友達と遊んで、最後に嫌なことを言われた。それが昨日の事実」
A「はい」
蓮司「それをどういう一日にするかまで、今日決めなくていい」
A「……」
日下部「それより、相手が言ったことが本当に気になっているなら、そっちを考えた方がいい」
A「……自分のことしか考えてないって言われたことですか?」
日下部「そう」
A「ずっと考えてます」
日下部「自分でも思い当たることがあるのか」
A「少しあります」
日下部「なら、そこは見た方がいい」
A「でも、見たら余計に自分が嫌になりそうです」
日下部「そうかもしれない」
A「……」
日下部「でも、相手の言葉が全部正しいとは限らない」
A「……」
日下部「一部分について腹を立てた相手が、強い言い方をした可能性もある」
A「……」
日下部「だから、言われたことをそのまま自分の性格の判定に使うな」
A「……はい」
蓮司「ていうか、『自分のことしか考えてない』って、かなり大きい言葉だろ」
A「はい」
蓮司「一回の出来事を見て、人間全体の話にするには雑すぎる」
A「……」
蓮司「だから気にするなら、『あのとき私の何が嫌だったんだろう』くらいまで小さくしろ」
A「小さく……」
蓮司「『私は自分勝手な人間なんだ』まで持っていくな」
A「……それ、やってました」
蓮司「だろうな」
A「『私って前からそうだったのかも』って考えてました」
蓮司「それ、始まると止まらないぞ」
A「はい……」
遥「俺だったら、そこまで考えたら、昨日の楽しかったことまで全部嘘だったみたいに感じると思う」
A「そうなんです」
遥「でも、楽しかったときに楽しかったのも、本当だったんじゃないかな」
A「……」
遥「その友達と笑ってたとき、本当に笑ってたんだろ?」
A「はい」
遥「その店に行きたかったのも本当?」
A「はい」
遥「じゃあ、その時間まで嘘にしなくていいと思う」
A「でも、最後にあんなこと言われました」
遥「うん」
A「だったら、最初から遊ばなければよかったって思います」
遥「……そう思うくらい嫌だったんだと思う」
A「はい」
遥「でも、昨日一日の最後を変えるために、最初から全部消す必要はないんじゃないかな」
A「……」
蓮司「俺は、むしろ『最後に嫌なことを言われたから、その人とはもう遊ばない』くらいなら普通にありだと思う」
A「え?」
蓮司「そこまで嫌だったなら、次から距離を置くのも自由」
A「でも、楽しかったんです」
蓮司「じゃあ、また遊びたいと思うなら遊べばいい」
A「……」
蓮司「ただし、また同じことを言われたら、嫌なら、そのときは言えばいい」
A「そんなこと言えるかな」
蓮司「言えるかどうかは知らない」
A「……」
蓮司「でも、相手と付き合い続けるなら、その人に言われた一言をずっと頭の中だけで処理し続けるより、本人に聞いた方が早い場合もある」
A「『どういう意味だったの』って?」
蓮司「そう」
A「怖いです」
日下部「なら、今すぐ聞かなくていい」
A「……」
日下部「昨日のことを一晩考えた程度で、今日中に関係を決める必要はない」
A「……」
日下部「数日経っても気になるなら、そのとき考えればいい」
A「その間に、友達から普通に連絡が来たら?」
日下部「普通に返せばいい」
A「それでいいんですか?」
日下部「今の時点で関係を終わらせたいわけじゃないんだろ」
A「……はい」
日下部「なら、終わらせる前提で動く必要はない」
A「……」
遥「昨日楽しかったことを、今日無理に好きになる必要もないし」
A「……」
遥「昨日全部が嫌だったって決める必要もない」
A「……」
遥「今はただ、最後の言葉がすごく嫌だった。それでいいんじゃないかな」
Aはしばらく黙っていた。
A「……今日、写真を見たときに消したくなったんです」
遥「うん」
A「でも、消したら後悔する気もして」
日下部「なら消さなくていい」
A「……」
日下部「見たくないなら見ない。写真はそのまま置いておけばいい」
蓮司「数週間後に見たら、普通に笑えるかもしれないしな」
A「……そうなるかな」
蓮司「知らない」
A「……」
蓮司「でも、今よりマシになってる可能性はある」
遥「そのくらいでいいと思う」
A「……分かりました」
Aはスマートフォンを鞄にしまった。
A「今日は写真、見ないでおきます」
日下部「それでいい」
A「友達から連絡が来たら、普通に返します」
蓮司「それもいい」
A「でも、まだちょっと腹立ってるので」
遥「それもいいと思う」
A「……ありがとうございます」
扉が閉まる。
蓮司「最後の一言って、強いな」
遥「うん。楽しかった時間まで上書きするくらい残ることある」
日下部「だからこそ、感情が強いときに全部決めない方がいい」
蓮司「俺なら、むしろ何日か経ってもムカついてたら本人に聞くけど」
遥「蓮司はそういうの直接聞きそう」
蓮司「気になるままなの嫌だからな」
日下部「それも一つのやり方だ」
遥「……俺は聞けないかも」
蓮司「知ってる」
遥「……」
日下部「でも、今日すぐ答えを出さなくてもいい」
遥「うん」
相談室の机の上には、まだ次の相談用紙が残っていた。
🗝 三人からのことば
遥
嫌な一言が頭から離れなくて、楽しかった時間まで嫌になってしまうことはある。
今すぐ「楽しかった」に戻そうとしなくてもいい。時間が経てば、見え方が変わることもある。
蓮司
「自分のことしか考えてない」と言われて、「自分はそういう人間なんだ」まで話を大きくしなくていい。
気になるなら、何が嫌だったのかを具体的に考えればいい。
日下部
写真を見たくないなら、今は見なくていい。消す必要もない。
友達との関係をどうするかも、今日決める必要はない。数日経ってから考えても遅くない。
#ドラマ
シュメール
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コメント
1件
うん、すごくわかるな〜これ…😢 最後の一言で全部上書きされちゃうの、めっちゃあるあるでしんどかった。 「楽しかったのに全部嫌になる」って感覚、私も経験あるからめちゃ共感した。 遥くんの「今は保留でいい」って言葉にすごく救われた気がする…焦らなくていいんだよね。 ruruhaさんの描く心の描写、いつも優しくて刺さるよ🤍